25話目 どうやっても報われない関係
「治療なんだろうけど……エッチなことをしているみたいに見えちゃうね」
イオリの言葉が聞こえてないのかアテラは反応をせず、ツクヨが右手をひっこめようとするも白髪の彼女の腕力に勝てないようでびくともしない。
「痛みはなくなったので、もう大丈夫かと」
アテラがツクヨと目を合わせる。
「ツクヨくんの手のひらの味をこれでもかと覚えたかったのですが。仕方ありませんね」
テーブルの上のホルダーから紙ナプキンを取り、アテラがツクヨの手のひらを拭く。
「どきどきして、楽しかったでしょうか?」
「心臓に悪くて刺激的ではありました」
ツクヨの反応を見てか、満足そうにアテラが鼻を鳴らしていた。
「勘は良さそうですけど、竹中さんもはっきりとは見えてないようで」
イオリが首を傾げる。しばらくして……アテラの言葉の意味を理解したのか声を上げる。
「ヒトミが持っているモルテプレディオンみたいな武器を、わたしも見えるのか試したってことか」
ごめん。わたしのせいでケガをさせちゃってさ、とイオリが手を合わせてツクヨに頭を下げた。
「手のひらはわたしがなめてあげるべきだったね」
「おれの寿命を縮めるよりも、さっさと話の続きをしてくれないか」
つれないなー、とでも言いたそうにイオリが唇をとがらせる。
「どこから話せば良いかな……木下って鳴上さんのことを知っているの? 同じ学校の二年で茶髪の、イタズラが好きそうな女の子なんだけどさ」
アテラが苦々しそうな顔をした。
「知り合いもなにも、おれもニア先輩からヒトミのモルテプレディオンのことを聞かされた」
「アテラちゃんのことも?」
モニデカに関しては彼女から教えてもらった、とアテラのほうを横目で見ながらツクヨが返事をしている。
「アーティスちゃんって呼んであげないの?」
「楽しいのはわかりますがツクヨくんをおちょくるのはそれくらいにしておいてもらえますか」
笑みを浮かべて、イオリがうなずく。
「今の話だと、竹中も」
「竹中ちゃんじゃないんだ」
「竹中もニア先輩から事情を聞いたってことだな」
イオリは不快になった様子もなく、ツクヨの言葉に対してか首を縦に動かした。
「正確には……風間に伝えようとしていた話を鳴上さんが間違えて、わたしにしちゃったという感じ」
「つまり、竹中と風間を間違えた?」
「ピンポーン」と言いながら、イオリが指ぱっちんをする。
「ありえるんですか、そんなことが」
ツクヨがアテラに顔を向けた。
「相手は鳴上さんですからね。おそらくはヒトミとよく一緒にいる人間を風間くんだと勘違いをしたんだと思いますよ」
鳴上さん的には、好きな異性がいるならとにかくアタックするだろうとか雑な考えかたをしますからね……とアテラが続けた。
「ニア先輩は人間の機微がわからない?」
「おおまかにはわかるんでしょうが。鳴上さんからすれば宇宙人と会話をしているようなものなので、相手には言葉さえ伝わればオッケーなんでしょう」
「アテラちゃんのほうが正確に鳴上さんをとらえているっぽいね。わたしが風間じゃないとわかっても気にしてなかったし」
しかもヒトミとわたしの関係を聞いたら風間よりも便利そうだとかなんとか笑っていたぐらい……とイオリが口にする。
「でも鳴上さんなりに反省はしているみたいだよ。モルテプレディオンに関して、木下に謝っておいてほしいって頼まれたし」
「謝る? ニア先輩がおれにか」
「詳しくは知らないけど近いうちにモルテプレディオンの呪縛は解放されるからゆるして、だってさ」
いつぞやのニアとの会話を思い出してかツクヨがにやつくも、すぐに表情が元に戻った。
「素直に信じて良いと思いますよ。わざわざ人づてで鳴上さんが謝っているんですし」
「アーティスちゃんが保証してくれていますし……とりあえずは信じておきます」
ツクヨの顔つきがやわらかくなった。
「いちゃついているところ悪いけど、アテラちゃんにもヒトミからプレゼントがあるんだよ」
とイオリが白髪の彼女に果たし状を手渡す。
「ヒトミからラブレターを渡されるなんて」
「恋愛かどうかは不明だけど、デスサイズちゃんとして思い切り暴れたいからアーティスちゃんに対戦相手になってほしいとか言っていたかな」
「まったく、わたしとの実力差をきちんと把握してほしいものですわね」
果たし状に目を通しながらアテラが言う。
「ところでさっきのモニデカから人間になれるとかいう話は本当なのかしら?」
アテラがイオリを横目で見た。
「仮説ですよ。鳴上さんからモニデカやモルテプレディオンの話を聞いた時に思いついた可能性みたいなものなので」
アテラちゃんの日本刀にもモルテプレディオンと同じように記憶を操作する機能があるんだよね、とイオリに聞かれて白髪の彼女は肯定する。
「記憶の操作。一般人に日本刀を振り回している姿を見られた時とかにつかうんですか」
「大半はツクヨくんの言う通りですけど、ヒトミのように武器に選ばれても上手くあつかえない人間のためにつかうこともあります」
バトル向きの性格ではない人間の矯正のためにつかうこともあるのほうがわかりやすいでしょうかとアテラが続けた。
「ヒトミの悪口は言いたくありませんが、あれほど躊躇なく武器を振り回すタイプも珍しい」
「アテラちゃんはどちらかというヒトミとは正反対のキャラクターだよね」
「確かに、神経質ではあると思います」
「もう気づいた?」とイオリが首を傾げつつアテラに声をかける。
「わたしもヒトミと同じ人間で……モルテプレディオンに選ばれた存在のように、白銀の一切と運命的な関係だと竹中さんは言いたいんですか」
「説明を省いてくれてありがとう」
「ありえませんよ」
アテラがぴしゃりと否定をした。
「竹中さんの仮説が正しかったとしても、わたしはツクヨくんが幸せになるようにがんばるだけなので人間でもモニデカでも関係ありません」
女の子にここまで言わせるなんてどうやったの、とでも聞きたそうな顔をしたイオリがツクヨのほうに視線を向ける。
「わかっているとは思いますが、同情は無用です。あくまでもわたしが大好きになったのは……ヒトミを一途に思うツクヨくんなんですから」
あなたがわたしを大好きになった時点で破綻してしまうんですよとアテラが念を押すように言う。
「わたしがなぐさめてあげようか?」
「今のところは女の子を好きになる予定はないので丁重にお断りさせてもらいます」
イオリが泣き真似をしているが、アテラもツクヨもなにも言わない。近くを通りかかった女性の店員が黒のショートヘアの彼女に声をかける。
笑顔をつくるイオリにささやかれたからか女性の店員が顔を赤くして、その場を立ち去った。
「わたしが、ツクヨくんに大好きになってもらえる方法はヒトミの命を奪い取ることぐらい。憎しみと愛情は紙一重なんて言いますし」
アテラがにやつく。
「ツクヨくんはどっちが良いですか?」
「アーティスちゃんに勝ってほしいですがナツの命は奪わないでくれると助かります」
「わがままですね」
にこやかなまま、アテラの表情は変わらない。
「善処してみましょう。そもそもヒトミとまともに闘争ができるかどうかもあやしいですが」
「ナツとの決闘は」
「一週間後。鳴上さんが立会人をやってくれるそうですね」
勝敗がどちらにしても、その日でヒトミはモルテプレディオンの呪縛から解放されますよ。とアテラはつぶやいていた。




