24話目 もしもは本当
からっぽになったサンデーグラスを持ち上げて、イオリが覗きこむ。
「チョコレートパフェを見た瞬間は、こんなに食べられるわけがないと思っていてもなくなっちゃうと悲しくなるね」
次のデートの時もごちそうしてくれる……と口にするイオリとは違い、ツクヨの表情は固かった。
「そんなに緊張しないでよ。わたしはわたしだよ。今までもこれからも木下の知っている、竹中イオリちゃんだ」
モニデカやらモルテプレディオンについて知っているだけでね、とイオリが声を小さくする。
「誰から聞いたんだ?」
「その話の前に才藤ちゃんを呼んでよ」
「才藤さんには彼女役をやってもらっているが連絡先は知らないし。そもそもスマートフォンを持っているのかどうかも」
「違う違う。才藤ちゃんは木下にほれているから、こう助けを求める感じで名前を呼んだらすぐに来てくれるかもしれないって話」
おれをおちょくっているのか? というような顔をツクヨがした。
「だまされたと思って、名前を呼んでみてよ」
ほらほら……と笑顔であおってくるイオリにうながされてかツクヨが脱力して、目の前のテーブルにもたれかかる。
「才藤さん。聞こえていたら返事をしてください」
「なんでしょうか? ツクヨくん」
背後からアテラの声が聞こえてか、ツクヨがびくつきながら上半身を起こす。銀髪の彼が振り向くと制服姿の白髪の彼女が立っていた。
店の迷惑にならないようにか、自分の口元を手で覆いながらイオリが身体全体をふるわせる。
「鈍感ですね。わたしのパートナーですのに」
「まさか尾行されているなんて思ってなかったので仕方ないかと」
笑いすぎだろう、とツクヨがイオリにつっこむ。
おしゃれな木製の椅子にのせていたビニール袋をツクヨが移動させようとしたが、アテラはイオリの隣に座ってしまう。
白髪の彼女は不機嫌そうな顔をしていた。
「今日はこのかたちで話をする予定だったとか?」
「だとしたら、わたしはツクヨくんに怒ったような表情をわざわざ見せたりしませんよ。こちらの友達は仕組んでいたんでしょうけど」
笑うのをやめ、イオリがアテラの顔を見つめる。
「こんなに近くで話すのは、はじめてだっけ」
アテラのつややかな白い髪に触れようとしてか、イオリが手をのばしかける。
「髪の毛を触っても気にしないほう?」
「モニデカやモルテプレディオンのことを、誰から聞いたのか教えてくれれば触らせてあげますよ」
ツクヨには聞かせづらいからか、アテラの耳元に唇を近づけたイオリがささやく。
白髪の彼女がうっすらと頬を赤くし、銀髪の彼をちらりと見る。
「場所を変えてくれるのであれば良いでしょう」
「アーティスちゃんが話のわかるほうで良かった」
「その呼びかたを続けるなら、さっきの話をなしにしますよ」
「そんなに怒らないでよ。アテラちゃん」
アテラとイオリのやりとりを見てはいけないものだと認識してかツクヨは顔をそらしていた。
近くを通りすぎた女性の店員に黒のショートヘアの彼女が声をかける。
銀髪の彼が白髪の彼女に顔を近づけた。
「なんで、おれを尾行していたんですか」
「ツクヨくんが竹中さんとデートをするという話を聞いたので……ヤキモチのほうが伝わりますか」
「照れたりしないんですね」
「鈍感なツクヨくんには今ぐらいはっきり言わないと伝わらなさそうですから」
「ヒトミもアテラちゃんぐらい、はっきりと木下に気持ちを伝えられたら良かったんだけどな」
しれっと会話に入ってきたイオリのほうをアテラとツクヨが見る。
「どうしてヒトミの話を?」
アテラに聞かれてイオリが首を傾げた。
「本人がここにいないからわたしが代弁者をやろうかと思って。木下もヒトミにほれられているの知らないでしょう」
「知っていても……友達のデリケートな秘密を暴露してやるなよ」
嬉しそうですね、とアテラがツクヨをにらむ。
「別に問題はないでしょう。ヒトミから告白をすることはないし、風間と付き合っているかもしれないと考えている間は木下も行動できないしさ」
「竹中さんの言う通り、ツクヨくんは優しさを履き違えたヘタレですからね」
良かったじゃないですか、これで失敗をおそれることなくヒトミに告白をできますね……とアテラが続ける。
イオリがまばたきを繰り返す。
「アテラちゃんと木下って付き合ってないの?」
「いびつな関係ではありますが、一般的なカップルと呼ばれるものではないですね」
ふーん、とイオリが相槌を打った。
「でも、アテラちゃんは木下にほれているんじゃ」
「確かにツクヨくんは大好きですが、必ずしも恋人同士にということでも」
「自分が人間とは違う存在だから、アテラちゃんは遠慮しているんだ。健気ちゃんだね」
変なニックネームをつけないでもらえますか、とアテラがぴしゃりと言う。
「竹中さんが思っているほど……わたしは健気でもありませんし。あわよくばツクヨくんを自分のものにしようと考えているんですから」
「わたし的には充分に健気。食べたくなるもん」
「カニバリズムはやめたほうが良いのでは」
「本当に食べたくなったわけじゃなくてさ、アテラちゃんを抱きしめたくなったとかそんな感じ」
いつぞやのヒトミの言葉を思い出してか、アテラは身の危険を感じたようでいつもよりも冷ややかな目つきでイオリを見ていた。
「木下はアテラちゃんになにか言ってあげないの」
「中途半端に優しいことを言われるよりはだまっているほうが好みなのを知っていて……ツクヨくんは合わせてくれているんですよ」
「わたしはアテラちゃんじゃなくて、木下に聞いているんだ。どうなの?」
「とは言われても、なにを伝えれば」
なにも言わなくて良いですよ、とアテラがイオリの代わりに返事をしていた。
「いつぞやも言ったように、わたしはツクヨくんが幸せになるのが望み。ヒトミと両思いであることがわかったのであれば迷うこともないですし」
ヘタレでさえなくなれば告白もできるでしょう、とアテラがくすくすと笑う。
「アテラちゃんは後悔しないの」
イオリが不満そうな顔をつくっている。
「モニデカの本分でもありますから」
「実はアテラちゃんはモニデカじゃなくて、わたしたちと同じ人間だとしたら?」
「もしもとか……たらればの話は苦手なので気休めにもなりませんよ。わたしをなぐさめたいなら事実を聞かせてもらわないと」
「事実か。とりあえず仮説だけでも聞いてくれないかな、可能性がない話でもないし」
モニデカやモルテプレディオンのことをわたしがどうして知っているのか教える約束もあったし、と声を小さくしつつイオリが言った。
「仮説って、なんのことだよ」
「結論だけを先に言うと、アテラちゃんはモニデカから人間になれるかもしれないって話」
イオリが身体をふるわせた。
黒のショートヘアの彼女の視線の先には日本刀があったが見えてないのか焦点が合っていない。
「わざわざツクヨくんがとめてくれなくても、竹中さんを切るつもりなんてなかったのに」
あんなていどでわたしが怒るわけがないのにバカですね、とアテラが白銀の一切を消す。
刀身を握り、血をあふれさせているツクヨの右の手のひらを白髪の彼女が見つめる。
「じっとしてくれないと治療ができませんよ」
アテラが舌をのばして、ツクヨの右の手のひらをなめていく。
銀髪の彼が身体全体をびくつかせていたが痛みがなくなってきたようで恥ずかしいそうに白髪の彼女を見ないようにか顔をそらす。




