22話目 最高で最低のプレゼント
「相談があります。助けてくれませんか」
昨日までとは雰囲気が違うことを感じ取ってか、ツクヨが身体の正面をアテラに向ける。
廊下の窓から差しこむ夕日の光に照らされて白髪がかがやいていた。
「学校生活のことで?」
「世界の空気洗浄に関すること」
「だったらナツやニア先輩のほうが適役なのでは」
「一般人の男の子じゃないとダメなんですよ」
ツクヨの表情に変化がないのが不服なのかアテラの眉毛がぴくりと動く。
「誰かに頼られるのは嫌なタイプですか?」
「とくにそういうこだわりはありませんが……アーティスちゃんなら一人でなんとかできるのではないかと思ってしまって」
「わたしにも苦手なものはあります」
「イメージの問題ですよ。この前みたいに精神的に不安定な状態ではなさそうなので、なおさら」
ツクヨに抱きついていた時のことでも思い出したのかアテラが頬を赤くしている。突き出しかけた拳を白髪の彼女がひっこめた。
「おれはなにをすれば良いんですか」
「まずは場所を変えましょう。そこでツクヨくんにしてもらいたいことを教えてあげます」
ところで、ツクヨくんはなんでもかんでも自分の思い通りになれば良いのにとか考えたことはありませんか? と廊下を歩きながらアテラが銀髪の彼に質問する。
「障害はないほうが楽しいとは思いますね」
「だとしたら……振り向いてくれないヒトミよりもわたしを選ばないのはなぜでしょう。ツクヨくんが望むのなら大抵の願いは叶えてあげられますけど」
年齢の近い女の子の身体にまったく興味がないという天然記念物でもないはずとアテラが続ける。
ツクヨが苦笑いを浮かべた。
「アーティスちゃんの恋心のようなものは、一種の勘違いだと思っているので。そういう気持ちにつけこんで付き合ったりするのは好きとか嫌いとか以前の問題であって」
「ツクヨくん的には、とても弱っている時に助けてくれた異性にわたしがときめいただけだと言いたいんですね」
アテラの顔色をうかがいツクヨが肯定している。白髪の彼女がくすりと笑う。
「自分の欲望のためにわたしを利用することがダメだとしたら偽装カップル自体も否定するべきでは」
「偽装カップルはお互いに同意したものなのでは」
「同意はしましたが、わたしのメリットが少ないと思いませんか?」
とても弱っている時は気づけませんでしたが……とアテラが横目で隣を歩くツクヨの顔を見る。
「アーティスちゃんの言う通りだと思いますけど。一般人のおれが提供できることなんてほとんどないような」
以前にもこんなやりとりをしませんでしたっけ、とツクヨが続ける。
「白銀の一切を覚えてますか?」
「ニア先輩に回収された日本刀の名前でしたっけ」
「一応は指名手配犯だったので、空気洗浄の仕事をさせられないということなのですが条件つきならば白銀の一切をつかっても良いと鳴上さんから言われました」
立ちどまったツクヨが首を傾げた。
「条件とかに関係なく、そもそも空気洗浄の仕事は自動化をされるんじゃ」
特殊なケースの場合は今のところわたしやヒトミがこれまでと同じように解決をしなければならないらしいですよ。
足をとめて、振り向いたアテラの言葉を聞いてかツクヨの表情がくもる。
「聞いていた話と違うと言いたそうですね」
「すぐにヒトミがモルテプレディオンから解放されないとは思ってましたから文句なんて」
「本音は?」
「おれが手伝えるならモルテプレディオンやら白銀の一切をつかって空気洗浄の仕事をやりたい、ですかね」
ずいぶん自分の本音をきちんと伝えられるようになりましたね、とでも言いたそうにアテラが笑う。
「どこまでも一途なことで。残念ながら武器に選ばれないとつかえませんので、鳴上さん的にはツクヨくんの手伝いをするようになんでしょうね」
ツクヨが不思議そうな表情をしている。
「白銀の一切をつかっても良いという条件がツクヨくんの同行なんですよ。指名手配犯だったわたしの抑止力として選ばれてしまったというほうがわかりやすいですか」
「アーティスちゃんはそもそも悪いことなんて」
「嫌だったら別にかまいませんよ。わたしより遥かに優秀なヒトミが処理をしてくれますし」
「おれのために付き合ってくれているだけなら……アーティスちゃんにメリットがないのでは」
「鈍感ですね。こうやってツクヨくんと二人きりになれることは、わたしにとってなによりのメリットだというのに」
わたしとしても好きな男の子のために圧倒的な力をつかうのは快感なんですよ、と言いつつ近づいてきたアテラを見下ろすツクヨが苦々しそうに笑顔をつくった。
「アーティスちゃんが納得しているのであればおれから言うことはありません」
不服そうにアテラがツクヨをにらむ。
「ヒトミのように心配してくれないんですか?」
「仕事を一緒にするんですから危険だったら助けるつもりですよ」
「アーティスちゃんほどの実力で苦戦をすることがあるんですか、と言いたそうな顔をしていますね」
ツクヨが軽くうなずく。
「ツクヨくんの考えている通り、ないでしょうね。赤髪の幼馴染さんとか茶髪のお札つかいさんレベルでもないかぎりは」
「だとしたら、おれは足手まといなのでは」
「鳴上さんたちからすればそのほうが監視役としては適任なんだと思いますよ。ツクヨくんになにかがあれば粛正する理由もできますから」
ちらりとツクヨの表情を横目で見てか。お優しいことで、とアテラがつぶやいた。
「プレゼントは渡せたようだね」
どうせだったら身体全体にリボンでも巻いてあげたら良かったのに、と笑いながらニアが家に帰ってきたアテラを出迎えていた。
返事をせず、自分の部屋にいこうとしているのであろうアテラの背中をニアが追いかける。
「ツクヨくんへのプレゼントはわたしで良かったのでしょうか?」
「アーティスちゃんらしくないことを言うね。結果はどうであれ、ツクヨくんにプレゼントはあげられたんだから目的は達成だろう」
それよりもツクヨくんとの仕事のほうはどうだったんだい?
というニアの質問に対して、アテラは簡単でしたわ……と答えていた。
「一応の確認なんですが、空気清浄の自動化のための実験とかで一般人にまじないを教えていたりしませんよね」
「わたしは知らないな。本来はモルテプレディオンの管理をするだけの立場だし、まじない強化をするのなら選抜すると思うよ」
モルテプレディオンや白銀の一切に選ばれるとかではなく、やりかたさえ知っていればつかえる技術なんだ。素材は良いに越したことはないんだし……などと自分の背後で口にするニアの言葉にアテラが表情をくもらせた。
「そちらの手引きじゃないとしたら同じ場所でまじないに関する問題が続くのは変ではありませんか」
「アーティスちゃんの言いたいことはわかるけど、本当にわたしは知らないからね。可能性としてだけなら数百年に一度レベルのまじないの天才が誕生をしたとかじゃないかな」
血筋は途絶えてなかったはず……とニアが言う。
「こちらとしても技術は多いほうが便利だからさ。アーティスちゃんが先に見つけたら教えてね」
アテラは返事をしなかった。
「ツクヨくんとなにかあったのかい?」
「モルテプレディオンに関することでツクヨくんが聞いていた話とは違うと、ご立腹でしたよ」
自分の部屋の扉を開けて、アテラがベッドに腰を下ろす。後ろ手でニアが部屋に鍵をかけている。
視線を感じてか茶髪の彼女が顔を上げると天井にぶら下がるノコミと目が合った。
「吸血鬼ごっこかい? ノコちゃん」
とニアが声をかけるもノコミは返事をせずにあっかんべーをした。
とくに気にした様子もなく茶髪の彼女がアテラのほうに顔を向ける。
「有能そうだから大丈夫だと思ったんだけど、教えないほうが良かったか。ごめんね……面倒なことをさせちゃって」
「わたし的にはパートナーとして甘えてくれていると判断したのでご心配なく」
「パートナーか、ものは言いようだな」
仕事に関しては問題なさそうだけど、アーティスちゃんはツクヨくんとの恋愛方面の結末についてはきちんと把握できているのかな?
空気がぴりついたのを感じ取ってかニアが余計なことを言ってしまったか、という表情をした。




