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21話目 変化は加速度的に

ほおにキスもさせないなんて紳士的ですね」

 ますます好きになりそうですよ……と冗談っぽくアテラがやわらかそうな唇を動かしている。

「今のアーティスちゃんは正常な判断ができて」

「いたって冷静です。むしろこれまでが暴走をしていたような状態だったと思いますよ」

 指切りだったらかまわないでしょう、とアテラが小指をまっすぐに伸ばす。

「どうして指切りを」

「ツクヨくんのためにがんばる決意を高める行為であればなんでも良かったのですが指切りがなんだと判断しただけです」

「多分、おれはナツのことしか」

「わたしがツクヨくんをくのも契約に含まれているのでご心配なく。嫌だったら断ってくれても」

「アーティスちゃんがそこまでする必要なんて」

「わたしが勝手にツクヨくんにくしたいだけですよ。銀髪の誰かさんがヒトミの幸せを純粋に願うのと同じようなものではありませんか?」

 ツクヨがなにかを言いかけたが、口をつぐむ。

 悩んでいるのであろうツクヨの表情を見て、楽しんでいるのかアテラがにやつく。

「後悔するかもしれませんよ」

「ツクヨくんが一緒だったらどこまでも」

 小指をからめる。

「契約成立」

 嬉しそうな様子のアテラがお互いの小指をからませた右手を上下に動かしていた。




「なんか才藤さん、れいになったね。女の子っぽくなったというかさ」

 返事がないからかイオリがヒトミのほうを見た。

 教室の自分の机に頬をくっつけたヒトミの口から白い湯気のようなものが出ている。

「どうかしたの? 魂が抜けちゃっているけど」

 まばたきを繰り返し、ヒトミが意識を取り戻す。

「自分がわがままだと自覚しただけ」

今更いまさらじゃない」

「友達だったらなぐさめてくれたりしないの」

「ヒトミがやっと自分の欠点に気づいて反省をしているのになぐさめるのは変だと思うけど」

 イオリの言葉に納得をしてかヒトミが唇をとがらせた。上半身を起こし、赤髪の彼女が自分の机にひじをついて頬を左手にのせる。

「イオリはわかっていたの? わたしの欠点」

「強欲なのは別に悪いことでもないでしょう。ちやほやされたいなんて一般的な欲望だし」


 そこまでこつに言わなくても、と言いたそうな顔をヒトミがしていた。

「結局、ヒトミはどっちがほしいの?」

「ツクヨ」

「才藤さんが木下を口説こうとしているから対抗心でとかじゃないよね」

「まったくないとは言い切れないと思う」

 でも、今のわたしはツクヨがほしいことを自覚はできているつもりとヒトミが続ける。

「ちなみにイオリはどっちの味方」

「わたしはツクヨをサポートする予定。奥手だし、相談役がいないと病気になっちゃうかもしれない」

「本当に?」

「魅力的には才藤さんの圧勝なんだから、わたしが味方をする必要性もないかと」

「胸?」

「胸だね。中学生男子が尻とか太腿ふとももの魅力に気づくのはまだまだ先の話」


 足りない魅力は持ち前の無邪気さでカバーするとして、最近ツクヨを見かけないけどどうかしたの。とイオリがヒトミに聞いていた。

「アテラがひっついてくるから、できるだけこっちにこないようにしているんだって」

ぜいたくな悩み」

「気持ちはわからなくもないかな。屋根の上に逃げてもアテラが追いかけてくるんだからちょっとだけエッチなホラー映画の主人公みたいなものだし」

前言ぜんげん撤回てっかい……わたしが男子だったとしても木下と同じように逃げるわ」

 どこが? と言いたそうにしているヒトミの表情を見てかイオリは顔をひきつらせた。

 廊下を歩くツクヨを発見し、クラスメートと会話をしていたであろうアテラが先生に注意をされないていどのレベルで銀髪の彼を追いかける。

「学校のルールを守るつもりはあるんだね」

「わたしも追いかけようかな」

「才藤さんとは違うアプローチを考えたほうが良いと思うよ」

 イオリがやんわりとヒトミに注意していた。




 体育館からボールのぶつかるような音がしたが、すぐに聞こえなくなってしまった。

「プレセントをしたいので仕事がしたいのですが」

 とつぜん……アテラから声をかけられてかニアが驚いた表情をする。

「ツクヨくんにプレセントをするためにかい」

 ついさっきまで女子生徒たちとバスケをしていて身体が熱いのか足をのばして座りこんだニアが右手であおぎ、顔を冷やす。

「悪いですか」

「別に文句はないけどさ、ずいぶんと心境の変化がはやいと思ってね。ツクヨくんが好きなの?」

「大好きの間違いですわ」

「有能にもほどがあるね。今からでもツクヨくんをこちらにスカウト……冗談だって。顔がこわいよ」

 大好きなツクヨくんにそんなこわい一面を見せるつもり、と言われてかアテラがいつもと同じような表情をつくっていた。


「仕事を紹介してくれないのであれば鳴上なるかみさん以外のそちらのかたに頼むつもりですが」

「ナツちゃんに依頼をしようと思っていたものでも良かったら、すぐにでも紹介してあげられるけど。アーティスちゃんのプライドとか誇りがゆるさないんじゃ」

「かまいません。仕事は仕事でしょう」

 ニアが口笛を吹いた。

「報酬はどうしたら良いのかな?」

「ツクヨくんがよろこびそうなものであれば、なんでも良いですわ」

「具体的なほうがわたし的には楽なんだけどね……人間についてはあまり詳しくないしさ」

 実はアーティスちゃんもツクヨくんがどんなものを好きなのかわかってないんじゃないの? と言われてか白髪の彼女が顔をそらす。

「とりあえずこれまでのツクヨくんへのアプローチについて聞かせてくれる? プレセントを選ぶための判断材料になるかもしれないし」


 なんの疑いもなさそうに言う通りにするアテラをニアがだまったままで見上げていた。

「ツクヨくんは特殊なタイプの男の子のようだね。こんなにれいなアーティスちゃんからそこまで熱烈なアプローチをされているのに迷惑だなんてさ」

「ヒトミ一筋だと本人も言ってましたからね」

 逆にこれまでていどのアプローチでなびくのならわたしは大好きになっていません、とアテラが断言した。

「恋とか愛の重さはさておき。ことごとく積極的な方法が失敗しているんだから、プレセントをあげるのは逆効果だったりしない?」

 ニアの意見も一理あると、悩んでいるのかアテラがうなり声を上げた。

「バトルでも攻めるだけでなく、あえて相手の得意なことをさせたり、ペースを合わせてやるのも戦略の一つなのはアーティスちゃんも知っているはず」

「自分は相手よりも強い存在だと勘違いさせる方法ですね。格下ばかりだったので忘れてました」


 確かに、アーティスちゃんよりも強い存在なんて片手で数えられるぐらいしかいないから仕方ないかとニアが笑っている。

 アテラににらまれたが茶髪の彼女はまったく気にしていない様子だった。

「リードしたい気持ちもわからなくないが、ツクヨくんを立ててあげるような行動をすればこれまでと違った反応が見られるかもしれない」

「具体的には?」

「簡単なことさ、アーティスちゃんがなにかしらの悩みをツクヨくんに相談するだけで良い。今までも無意識に似たような」

「つまり……ツクヨくんは愛されるよりも愛したいタイプだということですね」

 説明が面倒だったからか、わたしも男の子と正式な付き合いをしたことがないからわからないけど。とニアはアテラの言葉を否定をしなかった。

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