20話目 わがままちゃんと似たもの同士
「今みたいなことをアーティスちゃんもしなかったかい? 感知能力が弱いナツちゃんが考えたオートマチック、シックルだっけ」
小さくて見えづらいけど、わりと音が大きいからそっちのほうに視線を動かしちゃったとかさ……とニアが楽しそうに笑っている。
「ときおり、視線をそらされたことはありましたが目を合わせるのが苦手なだけだと思っていたので」
「アーティスちゃん、恥ずかしがり屋だからね」
「わたしへの疑いは晴れましたか」
「最初からナツちゃんを怒ったりするつもりはないよ。結果的とはいえアーティスちゃんたちとも和解をできたんだから問題はなかったんだし」
モルテプレディオンに選ばれる女の子がどういうタイプなのかをしらべたかっただけで、ニアが万歳をした。
ヒトミが片手で持ったモルテプレディオンの刃を茶髪の彼女の首元に近づけている。
「はっきり言ってくれませんか。ちくちくとなじられるようなことは嫌いなので」
「ごめんごめん。本当にナツちゃんとケンカしたりするつもりはないんだって……わたしが好奇心とかで知りたかっただけでさ」
実際はどうだったの? 少なくともツクヨくんがアーティスちゃんをおんぶをしていた時、わたしがトイレに行くようにうながしたあとには正体に気づいていたと思うんだけど。
ニアがウインクをする。ヒトミが息をはいた。
「わたしが教えなくても良いのでは」
「仮説と事実はまったく違うからね」
「ニアさんが想像している通り、トーリちゃんからアーティスちゃんの正体や目的について聞いていました。これで満足ですか?」
「とりあえずはね。もう一つだけ教えてほしいんだけどさ」
ナツちゃんって本当にカザマくんとかいう男の子のことが好きなの。
ニアの言葉に動揺をしてか、ヒトミがモルテプレディオンをふるわせていた。
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だよ。ナツちゃんはカザマくんのことが本当に好きなの?」
ニアに同じような質問を繰り返されたがヒトミは返事をしない。
「答えてくれないということはツクヨくんを男の子として気に入っているんだね」
「幼馴染としてです」
ヒトミが声を荒らげる。
「本命がツクヨくんだとしたらナツちゃんが不機嫌なのも納得だ。カザマくんも嫌いではないんだろうが、振り向いてもらうために好きな男の子をいじめたくなったのかな」
「そんなに計算高くありません。ツクヨと話をしている時のほうが自然体でいられるだけで、好きとか嫌いとかでは」
「でも独占欲はあるんだろう。だったら、ほかの誰のものにもならないよう告白して付き合っちゃえば良かったのに」
すでに恋人同士であれば転校生であるアーティスちゃんと仲良くしていてもツクヨくんの一番のお気に入りは自分だと安心をできただろうに……ニアの言葉に対してかヒトミが歯を食いしばっている。
「実際はアーティスちゃんにツクヨくんが感情移入をしているような状態だけどさ。大好きな幼馴染を振り向かせようとしたナツちゃんと同じように偽装カップルをやっているうちに」
ヒトミに顔をにらまれて、ニアが唇を動かすのをやめてしまった。
「わたしは風間くんのことも本当に好きですよ」
「だとしても、どちらかは諦めないといけないね。友達のイオリちゃんが教えてくれていたようにさ」
「さっきから言っているように、ツクヨは幼馴染であって好きでも嫌いでもないので。わたしが仲良くしていたとしても……なんの問題もないはずです」
「どこまでも強欲だね。モルテプレディオンがナツちゃんを気に入った理由がわかった気がする」
世界を救える人間は誰かを助けないという選択肢ができない。ナツちゃんが諦めちゃったら命がなくなるんだから、とうぜんの話かな。
今回は世界平和じゃなくてどこにでもある恋愛話だけどね、とニアが続ける。
「どの選択肢も選ばないことが悪いんですか?」
んーん、別に問題はないよ……とニアが言う。
「そもそも後ろめたさのようなものを感じているのはナツちゃんだけだし。わたしは第三者だから関係がない。モルテプレディオンが暴走したのなら話は別だけど今のところは平気そうだし」
危ないからそろそろ消してくれない? とニアに言われてかヒトミがモルテプレディオンを手放し、茶髪の彼女をにらむのもやめる。
「話は終わりましたね」
自宅へと帰っていくヒトミの背中をニアが笑みを浮かべて見つめていた。
モニデカと呼ばれるわたしたちは……こちらだとアンドロイドのようなものでしょう。
鳴上さんが言っていたようにこの世界の空気洗浄が主な役割。わたしとしてはできるかぎり精一杯、がんばってきたつもりでした。
ヒトミのことはうらんでいません。
実力があるものが評価されるのはとうぜんです。
ただ自分の存在を否定された気がしてしまい。
ノコミ、トーリちゃんはそういう割り切りが完了していたのにわたしと付き合ってくれていたとか。
本当に良い子です。
自動化に関しても反対するつもりはさらさらありません。役割がなくなれば、わたしも自由になれて楽しいこともできますからね。
「結局、わたしは心のどこかで自分の役割に生きるしか方法がないと思いこんでいたんだと思います。実際は歯車の一つで、いなくなってもそれほど問題はなかったのに」
「さすがに言いすぎなのでは」
と返事をしながら、自分の胸板にもたれかかっているアテラの姿をツクヨが見下ろす。
帰りにコンビニかどこかへ寄り道をしていこうと話をしている生徒の声が聞こえたからか、ツクヨの表情がこわばる。
「事実ですよ。あれほど特別なヒトミでさえも歯車の一つにすぎません。自動化がすすめば、どちらにしてもモニデカもなにも必要なくなりますし」
「というか、世界の空気洗浄の自動化は実現できるものなんですか?」
「理論上では可能だとわたしも思います。イロハニの球……鳴上さんに奪われた黄色の水晶玉で世界に漂う悪いものを具現化して」
アテラが一般人であるツクヨにでもわかりやすく説明をするが、銀髪の彼は興味がないらしくどこかぼんやりとした様子。
「ちゃんと聞いていますか?」
「すみません。あまりに現実味のない話なので」
「言われてみればそうですね。ツクヨくんにも今のわたしにも関係のないことですし」
「世界の空気清浄がすすめば、ナツもいずれモルテプレディオンから解放されるんですよね」
アテラの返事がないからか、ツクヨが心配そうに白髪の彼女の顔を覗きこむような動作をする。
「なんですか」
「返事がなかったので、眠ってしまったのかと」
「マナー違反をしたからですよ。今はわたしを甘えさせてくれているんですからツクヨくんはほかの女の話題を口にするのはダメでしょう」
アテラが頬をふくらませた。
「キャラクターというか性格が変わってません?」
「こちらが本来ですよ。がんばる必要もなくなってしまいましたから」
「世界平和のためにがんばっていたんですね」
「これからはツクヨくんのためにがんばる予定なんですけどね」
ツクヨがアテラの言葉を聞いてか困惑している。
「わたしとしては、このままツクヨくんと付き合うことになったとしてもかまいません。殿方に尽くすのも嫌いではありませんし」
「おれがナツを好きでもですか?」
「誰を好きになるのかはわたしの自由でしょう……幼馴染が幸せになるためならと自分の恋心を犠牲にする男の子をほうっておけない女の子もいるみたいですからね」
「おれは」
「問題ありませんよ。わたしはツクヨくんが幸せになるのであれば選ばれなかったとしても満足です。すでにモルテプレディオンにも振られていますし」
アテラがツクヨの頬にキスしようとするが、白髪の彼女の両肩をつかんでやめさせた。




