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17話目 目的の再設定

 表情は変わらないが怒っているのであろうツクヨを見てかニアがうなり声を上げた。

「ツクヨくんの気持ちはわかりますがこちらの方々に怒りの感情を向けてもムダですよ」

 クロス状にはられていたお札をはがしたアテラがなだめるようにツクヨに言う。

「意外とはやかったね」

「右腕だけですわ。なのでこのままツクヨくんにはお姫さま抱っこをしてもらえると助かります」

 アテラがひらひらと右手を動かす。

「叫ばないということはわたしと話をしてくれると考えても良いのかな?」

「今のような状態で大声を出すとツクヨくんに迷惑がかかってしまうのでやらないだけですよ」

 しばらくの間、沈黙が続き……ニアが屋上への扉を開ける。

 両腕を左右にのばして風を感じているのであろうニアの背中をツクヨは眺めた。


「あの日本刀もアーティスちゃんにしかつかえないんですか? ニア先輩は問題なく持ってますけど」

鳴上なるかみさん本人に聞くべきでは。わたしがヒトミを敵視する理由もわかったんですから、ツクヨくんが彼氏役をすることもないでしょうし」

 ひねくれたようなアテラの態度にツクヨが困惑をしている様子。

「アーティスちゃんの目的とかがわかったからって彼氏役をやめる理由はないような」

「鳴上さんがこのままわたしを自由にさせておくと思えません。必然的にそうカップルも解消ですよ」

「ニア先輩がそこまでするつもりなら、もっと前にできていたのでは。実力的にアーティスちゃんよりもはるかに上の存在みたいなので」

「ツクヨくんをちゅうかいにんに選んでおいて良かった。かしこいからムダな話をしなくても良さそうだし」

 いつの間にか目の前に移動していたニアにツクヨとアテラが声を出して驚く。


「ツクヨくんの言うようにつかまえるだけならこの前のトーリちゃんのイタズラの時点でできたよ……ナツちゃんに破壊してもらうこともなくね」

「わたしたちをおちょくっているんですか?」

 ニアに殴りかかりそうな雰囲気を感じ取ってか、ツクヨがアテラをなだめる。

「アーティスちゃんたちに納得してほしいだけなんだけどね。わたしも洗脳するのは心が痛いし」

「その日本刀と同じようにでしょうか」

 刀身に無数のお札をはりつけられた白銀しろがね一切いっせつを見ながらツクヨが口にする。

 ほめるようにニアが口笛を吹いた。

「理解がはやくて助かるよ……このお札をつかうと大抵のものは洗脳をできてしまう。モルテプレディオンの暴走も多分とめられるんじゃないかな」

「さっさとわたしも同じようにすれば良いのでは」

「一時的にしか洗脳できないのを知っているくせにアーティスちゃんも意地悪を言わないでほしいな。今だってもう動けるのにツクヨくんに甘えたいから動けないふりをしているんでしょう」


 本当なんですか? とでも聞きたそうにしているツクヨと目が合ったからかアテラが顔をそらす。

「なにを言っているんですか。まだ動けませんよ」

「プライドをこなごなにされたんだ。唯一の理解者だといってもごんじゃない、ツクヨくんに甘えたい気持ちもわからなくはない」

「そのプライドをこなごなにしてくれたのは目の前のあなたではありませんでしたっけ?」

 強がっているのであろうアテラの態度が面白いのかニアが笑みを浮かべる。

「ナツちゃんの問題を増やさないでほしいだけさ。バトルだけならわたしも相手をしてあげられるし」

 そもそもイロハニのたまを回収したからアーティスちゃんたちをつかまえる理由もなくなったからさ、とニアが何枚かのお札をはりつけた黄色の水晶玉を見せつける。


「返せとは言わないんだね」

「動けませんし。鳴上さんから取り返せるほどの力がわたしにはありませんので」

白銀しろがね一切いっせつは返してあげても良いけど」

「自動化がすすめば、わたしには必要なくなりますし。戦力としてもヒトミだけで充分でしょう」

 ニアが頭をかいている。

「自由の身を満喫まんきつするつもりになった、という感じでもなさそうだね。こちらはもうアーティスちゃんたちにちょっかいを出さないから安心してよ」

 返事をせずにアテラが目をつぶった。

「なんとなくだけど、わたしはここにいないほうが良さそうかな。アーティスちゃんのアフターケアをよろしくね。彼氏役のツクヨくん」

 と言いつつツクヨの左肩を軽く叩き……アテラのスクールバッグをおいていったニアは屋上から姿を消してしまう。

 ニアの気配が完全になくなったのを感じ取ってかアテラが肩の力を抜いている。

「もう動けます。迷惑をかけましたわね」

 足をふらつかせながらもツクヨにお姫さま抱っこをされていたアテラがなんとか立つ。


「アーティスちゃんの彼氏役ですし、気にしていませんよ」

「わたしがツクヨくんと偽装カップルを続ける理由もなくなったので今日で終わりにしたいのですが」

「誇りを持っていた仕事がなくなったのであれば、おれがナツと付き合うまでアーティスちゃんが偽装カップルを続けてくれても良いのではないかと」

 スクールバッグを拾い上げようとしてか手をのばしていたアテラが固まる。

 背筋をまっすぐにした白髪の彼女がいつもと変わらないツクヨのほうに顔を向けた。

「ツクヨくんもずいぶんと悪知恵をつけましたね」

「才藤さんも新しい目的を見つけるまでヒマつぶしが必要ではありませんか?」

 ツクヨのみぞおちの辺りをアテラが軽くなぐる。銀髪の彼がよろける姿を、白髪の彼女が目を細めて見ていた。

「アーティスちゃんと呼ぶ約束だったはずでは」

「偽装カップルをやめたいと言ったので……つい」

「あなたの空耳でしょう。仕方ありません。わたしが納得をするまで後ろから抱きしめてくれたらゆるしてあげますよ」


 アテラがツクヨに背中を向ける。

 本当に後ろから抱きしめても良いのか迷っているようでツクヨが戸惑っている様子。

 ちらりとアテラが顔だけを振り向かせた。

「だらしないですね。抱きしめるだけなのに」

 ヒトミも自分以外の女の子すら抱きしめられない男の子は願い下げだと思いますよとアテラが言う。

「かなりハードルの高い行為だと思いますけど」

「女のほうから触ってほしいなどと願うことなんてめったにありませんよ」

「一応……わかっているつもりなんですが」

 とつぜんアテラに抱きつかれてツクヨは転びそうになるも踏みとどまる。

「アーティスちゃん?」

「ツクヨくんがだらしないので今回はわたしが抱きついてあげます」

 正面から抱きついているアテラの細い両腕の力がさらに強くなっていく。

「すみません。ありがとうございます」

 アテラのお手本を真似まねしてかツクヨも小さな背中をなでていた。




「お姉さま?」

 スクールバッグをカーペットの上におき、制服を着たまま自室のベッドに寝転んでしまったアテラを天井にぶら下がるノコミが青みがかった黒髪を垂らしながら心配そうに見下ろす。

「ちゃんと掃除してくれたようね、ありがとう」

「なにかあったんですか?」

「プライドをへし折られただけのことよ。認めたくなかっただけかもしれないけど」

「デスサイズちゃんの強さに関しては今更では」

「アンフェルジャンよ」

「お札つかいのほうですか……ということは白銀しろがね一切いっせつも奪われてしまったと」

 良かったんじゃないですか、とノコミが口にしたからかアテラが眉毛を動かす。

「どういう意味かしら」

 あおけになったアテラが天井にぶら下がるノコミと目を合わせる。

「アンフェルジャンかデスサイズちゃんにお姉さまのプライドをへし折ってほしいと個人的には願っていたからですよ」

「ノコミは内心……あちら側との取引が無意味だとわかっていた?」

「というよりはシンプルにデスサイズちゃんに消される運命だと思っていたが正しいですかね」

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