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13話目 忠告とわがままは紙一重

 ノコミがきこんだからか、アテラが唇を動かさないまま「大丈夫なの?」と聞いた。

「お姉さまとの約束通り掃除しているだけですよ。それよりもデスサイズちゃんにアドバイスなんて、なにか考えでもあるんですか」

「精神攻撃もかねて、ヒトミを弱体化させるためのきっかけをつくろうとしているかしら」

 アテラの返事を聞いたからかノコミがうなり声を上げる。

幼馴染おさななじみの木下くんに対するヤキモチだけで、デスサイズちゃんを弱体化させるの難しくありません」

「そんなこともなさそうよ。想像以上にツクヨくんに対するヒトミの執着心は強いようですし」

「お姉さまがそういうなら、そうなんでしょうね」

「なにか言いたいことでもありそうね……ノコミ」

 しばらくの間、ノコミがだまってしまった。


「わたしに文句があるなら、同じ指名手配犯として教えておいてほしいんだけど」

「文句というか、これまでのお姉さまのやりかたと違う気がしただけですよ。デスサイズちゃんを直接的に倒そうとしませんし」

 意見を聞き、ノコミがだまった理由について納得したのかアテラが息を大きくはき出す。

「仕方ないでしょう。ほとんど一般人のツクヨくんのためにも肉体的にヒトミを傷つけるのはダメそうになってきましたし」

 彼に特別な力はありませんが好きになった女の子の敵討ちのために、なにをしでかすかと考えただけでも頭が痛いでしょう……とアテラが続ける。

「目的はデスサイズちゃんを倒すことではなくて、あくまでもモルテプレディオンですからね」

「ノコミの言う通り。こちらとしても派手なことをして、鳴上なるかみさんたちと話し合いができなくなるのが一番」




「また……もう一人の指名手配犯と会話をしていたんですか」

 教室の自分の席にもたれかかり、天井を見上げるような体勢でさっきまで眠っていたアテラがツクヨと目を合わせる。

「今回はただの居眠りですわ。まさか彼氏役であるツクヨくんに恥ずかしい姿を見られることになってしまうとは」

 なんて言いつつもアテラは恥ずかしそうにせず、ツクヨのほうを見たまま顔をそらそうとしない。

「わたしになにか用事でしょうか」

「彼女役として、おれに協力をしてもらえるのかと思いまして」

 アテラが目を細めた。

「内容によりますね。できることならヒトミ以外の連中と殴り合うことなどは」

「相談のようなものなので大丈夫ではないかと」

「彼女役ではありますが、ツクヨくんの情欲をおさえる手伝いはできませんよ。今のようにわたしの胸を見下ろすていどなら笑ってあげられますが」

「自覚があるのなら、せめて恥ずかしがったりしてくれません」


 文句を口にしながらツクヨが自分の前へ移動していく姿を楽しそうにアテラが見つめる。

「サッカー部に所属する生徒がケガとかをしているのを才藤さんは知っていますか」

「ヒトミから聞いたような記憶はありますね。確かかざくんもサッカー部に所属していたような?」

 アテラの質問に対してかツクヨが首を縦に振り、肯定をしていた。

「才藤さんやもう一人の指名手配犯のわざではないんですよね」

「少なくとも、わたしとは関係ありません。相方もおそらくはからんでないと思いますよ。やりかたが直接的すぎますし」

 そのサッカー部の問題の解決をわたしに手伝ってほしいのですか? とアテラに言われて、ツクヨがさっきと同じように首を縦に振る。

「どうしてわたしに……ヒトミのほうが適役では」

「才藤さんたちのような不可思議な連中の仕業だと決まってませんし。わざわざナツと風間のきっかけを与えるようなことをするのも面白くないので」

 アテラがくすくすと笑う。ツクヨくんも悪いことを覚えてしまいましたね、とでも言いたそうな顔をつくった。


「わたしは彼女役なんですから嘘をついてくれても良かったのに。ちなみに問題を解決した場合、なにか報酬はあるのでしょうか」

 予想外のアテラの返事に戸惑っているのかツクヨが固まった。

「おれが才藤さんに提供できるものがないような」

「そんなことありませんよ。鳴上さんからわたしの異名は聞いていません?」

「アーティスちゃんやトーリちゃんとか、ニア先輩が言っていた気がしますけど」

「アーティスちゃんがわたし、相方はトーリちゃんと呼ばれているようですね。名前からもわかりそうですが……芸術活動でツクヨくんも役に立てる部分はあったりします」

「才藤さんの趣味ですか」

 ツクヨの声が震えている。

「こわがらなくても悪趣味なことはしません。異性の、男の子の身体に興味があるだけのこと」

 今回の問題を解決すれば、わたしの屋敷のベッドでツクヨくんの身体を触らせてもらったりできますか、とアテラが言いなおしている。


「才藤さんがマッチポンプをするためにサッカー部にちょっかいを出したとかではないんですよね」

「ツクヨくんの身体を触るだけならばそこまで回りくどいことをする必要もないかと。女の子に接触をされても大抵の男の子はよろこんでしまう」

 ましてや、わたしとツクヨくんはカップルですしとアテラが続ける。

「サッカー部にそちら側が関与していて才藤さんが解決してくれた場合は芸術活動を手伝うで、お願いできますか」

「おおせのままに。と言ってあげたいですが条件がもう一つ。次からわたしのことをアーティスちゃんと呼んでもらえますか、彼女役とはいえ才藤さんは他人行儀ではないかと」

 わたしはツクヨくんと呼んでいるのに……不公平でしょう? というアテラの主張を聞いてか銀髪の彼が苦笑いを浮かべた。

「アーティスちゃんなりのヤキモチですか?」

「そんなところですわね」

 満足そうな顔つきをするアテラを廊下のほうからヒトミがじっと見つめていた。




「仕方がないんじゃない。才藤ちゃんはれいだし、胸も大きいし、どことなく支配されてみたいパワーがあるんだから」

「最後の一言はいらないような」

 などと否定的な言葉を口にしつつも向かい合わせに座るイオリの意見にはおおむね納得しているのかヒトミが不服そうな表情をした。

「木下は幼馴染おさななじみであってヒトミの彼氏じゃないんだから、やいのやいの言う権利ないでしょう」

 幼馴染として祝福なり応援してあげるのが筋だと思うけど……というイオリの言葉を聞いてかヒトミがうなり声を上げる。

 自分の机にヒトミが左頬をくっつけていた。

「なんとなくだけど、アテラは危険な感じがする」

「ただのヤキモチだって」

「違う! それとは別で、詳しくは説明できないんだけど。とにかくなんにも知らないツクヨがアテラと付き合ったりするのはダメだと思う」

「相変わらずわがままだな」

 そう言いながら、机に顔をくっつけて幸せそうに眠っているアテラをイオリは見た。

「根本的な話になるけど、ヒトミは風間が好みじゃないの? 木下は幼馴染であって恋愛対象でもないんだから気にしなくても良いような」

 仮にだまされたとしても、ツクヨもアテラほどの美人と付き合うだいしょうだったと割り切るでしょう。


 イオリの理屈に納得できないのか、ヒトミがほおをふくらませる。

「わたしはツクヨのお姉ちゃんだからこそ心配してあげているだけの話。人間としての愛情だよ」

「多分、木下はヒトミを妹だと思っているよ」

「姉でも妹でもわたしはツクヨの恋愛対象ではないということか。幼馴染だから関係ないけど」

 空気をはき出して、ヒトミがふくらませていた頬をしぼませていく。

「女の子としては意識してくれているでしょう……妹あつかいなんだからさ」

「イオリとかと違って、応対おうたいが雑っぽい感じがするような」

 男心がわかってないねー、とイオリがつぶやくがヒトミには聞こえてない様子。

「個人的にはお似合いだと思うけどね、木下と才藤ちゃん。髪の色もそっくりな感じだし」

 廊下を歩くツクヨの姿を見つけてか、自分の机に頬をくっつけていたヒトミが上半身を起こす。

「本人に聞いてみる?」

「姉としてのげんとかがあったりするので却下」

「わたしが個人的に聞くのは問題ないでしょう」

 ヒトミの返事を聞かないまま、イオリはツクヨを追いかけていった。

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