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12話目 自分では正直者のつもりなのに

「窓を開けるわよ」

 高級そうで古びたベッドの上でうなっている青みがかった黒髪の少女に声をかけ、スクールバッグを肩にかけたアテラがレトロモダンな遮光カーテンをスライドさせる。

 断末魔のような声が聞こえた。

 ばたばたとベッドの上で暴れる白のバスローブ姿の青みがかった黒髪の少女のところにアテラが近づいていく。

「目が……視界がなんかきらきらしている」

「朝だからよ。たまには自分の身体も動かしておかないと大変なことになるわよ」

「例えば?」

 青みがかった黒髪の少女が身体を丸くする。

「ヒトミにここが見つかってしまった時に逃げられなくなるとかかしら」

 ほおに人差し指をくっつけながらアテラが言う。

「ヒトミって誰だっけ」

「デスサイズちゃんのことよ。モルテプレディオンに選ばれた女の子の名前が常夏とこなつヒトミ」

「思い出した。そのデスサイズちゃんの幼馴染おさななじみとかいう木下くんとアテラがそうカップルになったとか言っていたっけ」


 お姉さまの好みの男の子なの? とレスリングのブリッジをしている青みがかった黒髪の少女が口にする。

「育てがいはあるわね」

「珍しい。お姉さまがそこまでほめるなんて」

 ぽきぽきと腰の辺りから変な音がしたからか青みがかった黒髪の少女があおけの状態でベッドの上に倒れてしまう。

「動けなくなりました」

「身体を常に動かしておかないからよ。まったく」

「人形をあやつれるんだからわたしが直接的にがんばる必要もないような」

「人形をあやつれない状況になったらどうするの」

「色仕掛けとかかな。わたしってわいいし」

 てへ、と赤く小さな舌を見せる青みがかった黒髪の少女の言葉にあきれているようでアテラはつっこもうとすらしない。

「そもそもの話なんだけど……人形をあやつるように自分の身体を動かすイメージをすればスムーズになるんじゃないかしら」

「お姉さま天才すぎ!」


 アテラのアドバイス通りに自分の身体を動かしているのか青みがかった黒髪の少女がベッドから飛び降りて、腕立て伏せやスクワットをする。

「はしゃぎすぎると筋肉痛になるわよ」

「大丈夫だって、今日のわたしだったら難敵なんてきの掃除もおちゃのこさいさいかもしれない」

「掃除に勝ち負けはないでしょう。ノコミが本当にやる気になってくれているなら屋敷のすみずみまでやってくれると助かるわ」

「了解。楽しみにしておいて」

「期待しておくわ」

 ノコミにひらひらと手を振って、アテラは部屋を出ていき屋敷の外へと移動をする。

 名前のわからない植物のからみついた大きなもんを開き。登校中、アテラは屋敷を眺めているヒトミとツクヨを発見したからか立ちどまった。

 気配を感じてかヒトミが顔を横に動かす。アテラと目を合わせると赤髪の彼女が笑みを浮かべる。


「おはよう、アテラ」

「おはようございます。朝から仲良しなようで」

 アテラがヒトミとツクヨの顔を交互に見つめる。視線に気づいてか、銀髪の彼が屋敷から白髪の彼女のほうへ身体の正面を向けた。

「違うよ。家が隣で幼馴染おさななじみで学校が一緒だから」

 ツクヨの代わってかヒトミが慌ててしゃくめいしようとするとアテラはくすりと笑う。

「ただの冗談よ。わたしはヒトミほどわかりやすくヤキモチをするような女の子でもありませんから」

「こんなイケメン高身長を誰かに奪われるなんて、まったく思ってないからね」

 ツクヨに対するヤキモチであろう感情を否定するヒトミの言葉を聞き流し、アテラが銀髪の彼に頭を下げてあいさつをした。

「おはようございます。才藤さん」

「そちらから迎えに来てくれるなんて、ずいぶんとかいがいしいことで」


 意外と女の子のあつかいが得意なんですか? とでも言いたそうな目つきをするアテラが、ツクヨの顔を見上げる。

「ナツが才藤さんに用事があるとかで一緒についてきただけのです」

「用事……おそらくかざくんとの連絡先を交換することですかね。すっかり忘れてました」

 ツクヨが首を傾げた。

「ナツと風間が連絡先を交換するだけなら才藤さんにはあまり関係がないのでは」

「色々と付き合いがあるんですよ。偽装カップルをしなければならないツクヨくんとわたしみたいに」

 さりげなくアテラがツクヨの左手を握る。いつもの自分の立ち位置に、れいな白髪の彼女がいるからかヒトミがぎょっとする。

 赤髪の彼女がなにかを言いかけるが口を閉じた。

「昨日と同じように学校までエスコートしてもらえますか……ツクヨくん」

「おおせのままに」


 ヒトミの顔をいちべつしてからアテラをひっぱるようにツクヨが学校のほうへ歩き出す。赤髪の彼女が偽装カップルである二人の後ろをとぼとぼと追いかけていく。

「わたしを送り届けたあと、ヒトミとなにかしらのお話はしたんですか?」

「女の子の習性についてやおれと才藤さんが本当に付き合っているのかとか……というかナツの尾行に気づいていたんですね」

「電柱の知り合いは数えるほどしかいませんから」

 つっこむこともなく、ツクヨがスルーすると文句を言いたそうにアテラが視線を向ける。

「わたしを不思議な言動をするタイプだと、ツクヨくんは思ってくれているようで」

「不思議ちゃんだとは思ってませんよ。その、人間とは別の存在なので感覚が違うものなんだと」

「わざわざ説明をしてくれるなんて、ツクヨくんはお優しいですね」


 なんとなく恥ずかしくなったのかツクヨができるだけ手をつないだアテラから距離をとる。

 首を傾げつつ白髪の彼女が、隣を歩く銀髪の彼に近寄った。

「確定とまでは言えませんが、ヒトミなりに自分の気持ちに気づいてそうな印象ですかね。シンプルな精神構造をしてそうなので時間の問題だとは思っていましたが……意外とはやかったようで」

 アテラが小さくあくびをする。

「失礼。ツクヨくんもヒトミをいじめるのにちゅうちょがなさそうで安心しました」

「最終的にはナツのためですからね」

「そのナイトの仮面のようなものをひっぺがして、自分の欲望のためだと言うことができればヒトミも手に入れられるでしょうに」

おくびょうものにはハードルが高いかと」

「高かろうと難しかろうとツクヨくんなら越えられそうだとわたしは思っているんですがね」

 どれだけ我慢をできたとしても最終的には自分のためにしかがんばることはできないんですから、とアテラは続けた。




「ありがとうございます。帰りも同じようにお願いしますね、ツクヨくん」

 と満面の笑みをつくり自分の所属している教室へと向かうツクヨをアテラが手を振りながら見送る。

 白髪の彼女の背後に立つヒトミが穿いている制服のスカートを握りしめた。

「さて、風間くんとのLINN交換でしたわね」

「そのことなんだけどさ」

 アテラがヒトミの顔を覗きこむ。

「どうかしましたか?」

「アテラを巻きこんでまで風間くんと連絡先を交換するのはダメだと思う」

 ずるいことをするのが悪くないのはわたしも理解できているつもりだけど……ヒトミがまごつく。

「どうしても納得ができない?」

 ヒトミがうなずくとアテラがにやつく。

「なんかごめんね。色々とわたしのために手伝ってくれようとしてくれたのに」

「謝る必要なんてありません。むしろヒトミの考えかたがさらにわかった気がします」

 幼馴染とはいえ、自分が所有をしていたつもりの男の子を手放したくないですよね。とアテラに言われるがヒトミは首を傾げていた。

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