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1話目 デスサイズちゃんと日本刀ちゃん

 長い白髪をなびかせたオッドアイの少女に見えるものの右手に黄色の水晶玉。ナロードレスのようなネイビーの服を彼女は身につけていた。

 夜空にかがやく流れ星を盗んだのを悪びれることもなく、取り返せるものならやってみなさいとでも言わんばかりに白髪の少女は黄色の水晶玉を頭の上にかかげた。

 高層の廃ビルの屋上に、設置をされたままの貯水タンクにのっている白髪の少女の姿は芸術品のようにも。

「今回は星をモチーフにしようかしらね。きらきらとかがやいて、もしかしたら可愛らしいデスサイズちゃんも気に入ってくれるかもしれない」

 まったく化けものをつくる人の気持ちも考えて、ていねいに破壊してほしいものだわ……とつぶやく白髪の少女が目をつぶり呪文を詠唱えいしょうする。

「我をあるじと認めしものよ、その姿を見せ思うがままに魔を振るいたまえ」


 白髪の少女がまぶたを開いた。かかげていた水晶玉から出てきたぼくの出来が良かったからか満足そうに彼女が笑う。

「しゃべれるのかしら?」

「はい。ご主人さま」

 口の部分がなさそうなのに器用ね。とでも考えているようで、白髪の少女が砂時計のような形をした生きものをじろじろと見つめる。

 ぱかぱかと開いたり閉じたりする頭のてっぺんが砂時計に似た生きものの口のようだった。

「お名前は」

「オリフィスです」

闘争とうそうは苦手そうに見えるんだけど……実は変身ができるとか」

「できません」

「一応、星をモチーフにしたつもりで」

「身体の中に星の砂のような物質があります」

 透明なひょうたんにも見える、オリフィスの身体に流れている血液のようなものに白髪の少女が目をらす。


「本当ね。赤い星の砂みたいなのが見えるわ」

 白髪の少女が空中に浮くオリフィスを見上げる。

 貯水タンクと同じぐらいの大きさかと考えているのか白髪の少女が足元に視線を向けた。

「なにができるのかしら」

「人間を殺せます」

「どんな人間でも?」

「質問の意味がわからないのですが」

「具体的には……セミロングの赤髪の中学生ぐらいの女の子。わたしがデスサイズちゃんと呼んでいる本物の死神があつかうような大きな鎌を振り回していて」

 わたしががんばってつくったオリフィスを一撃で真っ二つにしてしまうようなタイプよ……と白髪の少女は言う。

「強そうだから、大きくしてみたけどダメね。デスサイズちゃんがすぐに気配でわかってしまうし」

「なにを言って」

「ありがとう、オリフィス。勉強になったわ」


 黄色の水晶玉を持っていたはずの白髪の少女が、いつの間にか両手で日本刀を握っていたことを質問しようとしてかオリフィスが頭の部分をぱかぱかと動かす。

「今のデスサイズちゃんの動き……見えなかったんでしょう。わたしは見えていたからこの白銀しろがね一切いっせつでガードをしたのよ。とても危なかったから」

 白髪の少女の視線の先には、デスサイズちゃんと呼ばれている中学生ぐらいの紺色のブレザーを着た女の子が空中に立っていた。

 風で制服のスカートがめくれても良いようにか、赤髪の彼女は黒のスパッツを穿いている。

「バイバイ」

 えい……と言いつつ白髪の少女がデコピンをするとオリフィスの身体が砂のようになり消えていく。日本刀を握った彼女の目つきは冷たかった。

「さて、他力本願も良くないと勉強になったところで決着を」

「なんで今日だったのよ」


 大きな鎌を両手で持ったデスサイズちゃんが身体全体を震わせる。

「今日は肌寒いわね」

「違うわ! せっかく……かざくんとデートをしていたのに! こんな幸運、もう二度と」

「ごめんね」

「だったら大人しくつかまってくれない」

「それはできないわね。わたしにも自由にこの世界を生きる権利はあるはずよ」

 取り乱した状態では白髪の少女との闘争とうそうに支障をきたすと判断してか、デスサイズちゃんが深呼吸を繰り返す。

 涙をぬぐった赤髪の彼女の表情がきりっとする。

「相変わらず余裕たっぷりなようで」

「デートの邪魔をしてしまったお詫びのつもり……わたしも移動をしたかったし」

 貯水タンクから飛び降りた白髪の少女が笑いつつもデスサイズちゃんの動きを見逃さないように注意している様子。


 空気が張りつめていく、ほんの一瞬の隙さえも。

 デスサイズちゃんの大きな鎌と白髪の少女の日本刀がぶつかる。突進をするように近づいてきた赤髪の彼女は無表情になっていた。

 大きな鎌に切られないように白髪の少女が日本刀を力強く振り……はじく。体勢をくずされながらもデスサイズちゃんが身体全体を回転させて。

「おっと」

 軽くジャンプして、白髪の少女が両足を切ろうとしてきたデスサイズちゃんの振り回す大きな鎌の刃を避ける。

容赦ようしゃないわね」

 デスサイズちゃんの脳天に振り下ろした、白髪の少女の日本刀を赤髪の彼女が表情一つ変えずにつかで受けとめる。

 白髪の少女は笑っていた。

 着地をしたのと同時に白髪の少女が切りかかる。スピードや角度、あらゆる緩急をつけているはずの斬撃ざんげきをデスサイズちゃんはこともなげに対処する。

 どこまでも冷静に。

 デスサイズちゃんのスカートのポケットの中からスマートフォンの着信音が響き……ついさっきまで殺し合いをしていたのであろう少女たちのきんちょうの糸がちぎれたような音が聞こえた。


 白髪の少女が日本刀を振り回すのをやめて、デスサイズちゃんから距離をとる。

「カザマくんとかいう男の子からじゃない。さっさと電話に出てあげたら」

 デスサイズちゃんが眉毛を動かすも、相変わらず無表情のまま。

「あなたとの勝負が優先」

「今日はもうなにもしないつもりよ。女の子の恋路を邪魔するほどの外道でもないし」

 白銀しろがね一切いっせつと呼んでいた日本刀をマジックのように白髪の少女がどこかに消したのを確認して、デスサイズちゃんも臨戦りんせん態勢たいせいを解除する。

 スカートのポケットの中から取り出したスマートフォンの液晶画面を見てかデスサイズちゃんのほおが赤くなった。

 真っ黒になっていた両目も普段の状態に戻る。

「お言葉に甘えるけど……今日はわたしも風間くんとのことで忙しいから見逃してあげるだけで」

「わかっていますよ」

「わたしの声、変じゃないよね?」

「大丈夫だから、さっさと電話に出てあげなさい」


 死神があつかうような大きな鎌を片手で持ちスマートフォン越しに会話をしているデスサイズちゃんの姿を見てか白髪の少女が息をつく。

「だまされやすいのね、デスサイズちゃん」

 白髪の少女が目を細め、背中を向けたデスサイズちゃんに。

「不意打ちで倒すことができても意味はないか」

 恋する女の子を邪魔するのもすいでしょうし、と口にした白髪の少女が高層の廃ビルの屋上から飛び降りた。

 コンクリートと激突をする直前、紫色の煙に身体全体が包まれていき白髪の少女は消えてしまう。

 近くを歩いていた通行人の男性が夢でも見たのかとでも言いたそうにまばたきを繰り返している。

「忘れといてね」

 上空から落ちるように移動をしてきたデスサイズちゃんが大きな鎌で通行人の男性の首を切りさく。

「ひっかかってくれなかったか」

 デスサイズちゃんがつぶやいた。

 通行人の男性は倒れたままで動かなかった。




「ずいぶんとご機嫌だな」

 昨日までと同じように一緒に登校をしているデスサイズちゃん。もとい自分よりも一回りほど小さい赤髪の常夏とこなつヒトミを木下ツクヨが横目で見下ろす。

「わかる? 風間くんとデートをしたんだよね」

 ヒトミがからっとした笑顔をつくって、ツクヨに自慢をするように言っている。

「だから今日はポニーテールなのか」

「んーん……今日はポニーテールの気分なのもあるけど、転校生が来るみたいだからさ」

「関係あるのか」

「ポニーテールの女の子ってさ……なんとなく話しかけやすくない?」

「銀髪の男よりは話しかけやすいだろうな。うわさだと転校生も女の子みたいだし」

 歩きながらヒトミがツクヨの顔を見つめる。なにかに気づいたのか赤髪の彼女がにやつき、銀髪の彼にたいたりをしていた。

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