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10. 2019年3月31日(日)④

「(やっぱり殺せない)」


 これが書き込まれたのは、事件の一ヶ月前、2018年の7月。


「モンブランはここで殺意を捨てたんです」〈ナンバー4〉の声は震えていた。「さっき、キャプテンが言ってましたよね。あいつ、僕もですけど、東京スプレッドに入った後、シルバさんが美礼さんを殺してないことを知らされました。それに、この時点でシルバさんと四ヶ月過ごしてたんです。いくら最初敵視していたって、情が湧かないはずないじゃないですか。俺たち五人は本当にシルバさんといい関係を築いていました。金がないときには、シルバさんは飯を食わせてくれました。寝る場所だって用意してくれました」


 丸多は聞きながら、諭される気分でいた。同時に〈モンブラン〉を安易に犯人だと決めつけたことを後悔した。


 〈ナンバー4〉は語り続けた。

「これは僕の考えなんですけど、あいつは罠にはまったんじゃないかと思うんです。金に目がくらんで、軽い気持ちで自分のアドレスを貼ったんでしょう。後先を考えずに。実行役としてシルバさんの後輩グループに紛れたとしても、そのグループが有名になってしまえば、いずれ足がつくに決まってます。この記録を誰かがリークしないとも限りませんし。そうなれば、海外にでも逃げない限り、捕まるのは目に見えています。本人がそこまで考えていたかはわかりませんけど」


 丸多は返す言葉もなく、PCに視線を戻した。そこでは犯罪者たちの意思が苛烈(かれつ)に沸き立っていた。


「は?」

「おい、実行役。お前まさかここまで来て、怖気(おじけ)づいたんじゃないだろうな」

「俺たちがお前にいくら払ったか忘れたのか」

「払い戻しなんて、今さら出来ないのわかってるだろ」

「お前が上げたGNの画像から、お前が誰か特定することだって出来るんだぞ」……


 罵声に近い言葉はいくつも続いた。括弧を見つけるとそこでまた手を止めた。


「(GNさんは無実なんだよ)」

「そんな嘘で逃げれると思うなよ」

「GNがやったことを忘れたとは言わせない」

「金だけ貰って何もしないなんて、うらやましい限りだわ」

「待て待て。じゃあ、こうしよう。実行役はこっちで用意できるから、おい、元実行役、聞けよ。お前は予定通りGNと一緒に部屋に入れ。そこで、窓から代わりの実行役が入る。そのときにお前はGNの体を抑えて口をふさげ」

「おい、聞いてるか」

「(聞いてるよ)」

「そのときに、実行役にここで集めた金を渡せ」

「(金に代わる物でもいい?)」

「それなりの金額になるんなら何でもいい。ただし、足がつく物は持ってくるなよ。十万以下の物だったら、どうなるかわかってるな?」……


「元実行役、お前は実行役がGN殺して出ていったら窓閉めて、すぐ買い出しに行け、他の参加者連れて」

「同行者が買ってくる物も、事前にGNに指示させればいい」

「よし。おい、他の奴ら。お前らは部屋を回転させる作業に専念しろ。元実行役の代わりに。もちろん、買い出しに行った連中が現場を離れた後な」

「じゃあ、元実行役、決行の日が決まったら、またこの板で教えろよ」

「(わかった)」……


 丸多が顔を上げたとき、〈ナンバー4〉が消えそうな声でつぶやいた。

「キャプテンの腕時計もどうなったかわかりますよね。事件の日の出発時に、モンブランがキャプテンに『腕時計を忘れてないか』何度も尋ねていたのを覚えてます。普段、キャプテンは腕時計を家に保管していました。そのときだけ、あいつ『空き巣に入られるとまずいから、腕時計を持っていくべき』だとキャプテンに言ってたんです。いつもそんなこと言わないのにおかしいと思っていたら、こういうことだったんです」


「殺害の流れも、これではっきりしました。モンブランさんはシルバさんの死を見届けたあとすぐ、車でキャプテンさんたち三人をレストランまでエスコートした。そして、コンビニで買い出しを済ませて、またレストランに戻り、三人を拾って帰ってきた。モンブランさんは弁当ができるのを待つ必要はないので、これらを往復約一時間で行うことができたんです。一方で、正体不明の奴らは周囲の山林から悪鬼のごとく湧き出てきて、中央の部屋を回転するなど隠蔽のための作業を行った」


 事件を明らかにすればするほど、胡乱の者たちの影は遠ざかっていった。記録は記録でしかなく、犯罪者たちの姿はもはや幻の隅にさえない。

 ただただ無力だった。

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