表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/65

6. 2019年3月23日(土)⑥

 急激な血流の変化により、丸多のこめかみはまだうずいていた。

「丸多さん、大丈夫ですか」

「大丈夫です」丸多は運転席でまだ放心している。


 明日美はあれから「何をしているか」も問わず、しとやかに二人に退出を促した。門の自動扉が閉じられるのを外で眺める二人は、まるで突然寝床を奪われた情けない居候(いそうろう)のようだった。


「裏庭に」隣の北原が訊いた。「怪しい直方体の物体があったんですか」

「はい」丸多はこのままではいけない、と姿勢を正した。

「中に何が入ってたんですか」


 丸多は空気を大量に吸ってから答えた。「おしゃれな家具がいっぱい入ってました。透明なプラスチックの椅子やら、真新しい木材でできた棚やら」

「丸多さんは何が入ってると思ったんですか」

「いや、正直わからなかったです。わからなかったからこそ、どうしても見ずにはいられませんでした。あの人は前回の帰り際、あの幕で覆われた鉄格子を隠すようにして、カーテンを引いたんです」


 丸多はシートベルトをして、のろのろと車を発進させた。すっかり気力を抜かれた持ち主の態度は車にも伝わるらしい。それは一方通行の路上で一度エンストした。



 東京駅周辺に戻ると日没を迎えた。

「気を取り直して、何か食べますか」この時点で少しずつ、丸多は精気を取り戻していた。

「この辺でですか」北原が訊き返す。

「今日この辺は空いています。良かったらどこかに寄りませんか。エリートサラリーマン御用達(ごようたし)のレストランが沢山あります。美味しそうでない店を探す方が難しいくらいです」


 東京の見栄を総結集した駅直通の巨大ビル。その地下駐車場に車を停め、二人は降りた。

「また世話になったんで、北原さん何かおごりますよ。二万円の松坂牛なんかは無理ですけど」

「いやあ、いいですよ。自分で払います」北原は楽しそうに歯を見せて笑った。


 一階のエレベーターホール脇。各店舗の自慢げな写真が並ぶパネルの前を、スーツ姿のカップルが何組も通り過ぎていく。

「しかし、今日は予想外のことが色々ありました」丸多の顔に、疲労と達成感が半々ずつ現れていた。

「本当ですね」北原が答える。「女の表向きの皮を剥いだら、怖いってことがわかりました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ