ひまわりの冠
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
う〜ん、花冠をこさえるシーンか。
アニメとかじゃお約束だけど、このへんじゃなかなか実践できないね。
ほんの数十年前は、あそことかが野原で花摘みには絶好のスポットだった。それが、しばらくしてから道路の拡張工事。今では交通の便こそよくなったものの、昔の景色はものの見事に変わってしまった。
いったい、どれだけの花があそこから姿を消してしまったのだろう? 普段、過ごしているときには気にしないけど、ふとした心のスキに、そのようなことを考えてしまう。
自然たちも、たとえ姿がなくなっても、こうして私たちの心に残らんと頑張っている。
いや、私たちが頑張って記憶に残そうとしているのかな? はるか過去より受け継がれた遺伝子が、あれを完全に忘れてはならないと、呼びかけてくれているのか?
実際、科学的な毒や薬効以外にも、植物にはさまざまなパワーがあるかのごとき伝説は、古今東西に伝わっている。
私もむかしに体験したことがあるんだが、聞いてみないか?
今は別に暮らしているが、私には姉がいてね。小さいころは二人で、花咲く野原で遊んだ経験が多かった。
先の花冠に関しても、姉はこさえるのが好きだったから、外へ出るたび冠を用意されたっけ。
姉の冠は手間がかかる。彼女自身の手先は器用なんだが、選んで取り付ける花にこだわりがあるようでね。
種々を彩る花こそあれど、ワンポイントで違うものを添えたり、冠の四方を同じ花をあしらって飾り付けてみたり……ただ寄せて集めただけのつくりとなるのを、えらく嫌っていたんだ。
その花探しに私も付き合わされるんだが、冬のその日に見つけたのは、ごく特殊なものだった。
ひまわりの花。
多くの花が密集した黄色と、中央にたっぷり詰まった種たちは、夏のおりおりで見かける、陽を向く花のそれだったのさ。
私たちが驚いたのは、そいつの咲いていた時季がはずれていたばかりじゃない。
背が、とてつもなく低い。
ひまわりと聞けば、人の背をゆうに超えるもののイメージがある。
もしそれらが密集する畑に子供が迷い込んだなら、たちまち迷ってしまいそうな、柱のごとき背高のっぽたち。
けれども、私たちの目の前に生えるひまわりは、花の下の密集部が地面にくっついてしまうかと思うほどの、おちびさんだったんだ。
こと珍しいものにおいて、姉の目が光らないはずがなく。
二本だけ生えていたそれは、たちまち収穫されて冠に取り付けられる運びになってしまった。
茎は太く、それを冠にねじこむだけでも、他の細々としたものを圧する存在感を放っている。そいつを額の真上にあたる位置にねじ込んで、姉は冠を紡いでいった。
存分に陽を受けていたためか、かの低いひまわりは指で触って、はっきりわかるくらいのぬくみを帯びている。複合機から取り上げたばかりの、コピー用紙を思わせたよ。
まずできあがったひとつを、姉は私へかぶせてくる。
長く生きているもの、力あるものは、下のものへ施さねばならないと、ノブレス・オブリージュにかぶれたようなことを、早くも口にし始める時期だった。
受けてやらないと、とたんに機嫌が悪くなることもすでに経験済み。甘んじて受けてやったんだけど、厄介なことはそのすぐ後で起こった。
姉が自分の分の冠を用意する間、私は冠をかぶったままでぐるりとあたりを見渡してみる。
野原といっても、地図上で見れば周囲をひし形ではさみこむ車道が走っているんだ。
より細かく見たならば、そこから一部、野原側へ土を盛って作った駐車場や資材置き場の姿もちらほらと確認できる。
私たちの遊ぶ場所の近くにもあった。
昼間からもそこから漂ってくるのは、ビール瓶の特徴的な香り。瓶の回収場所のひとつだったんだ。
回収車が止まるスペースあり、瓶をいくつも入れるためのケースもあり、もろもろの作業をするときに使うと思しきすのこがあり……子供たちの中にも、あそこをこっそり遊び場にする子は多かったよ。
そちらを、私は向いた。
その時は車もケースもなく、やや高く積まれたすのこの山ばかりが目立つ。
時間の関係上、すのこの上方に太陽が輝いていて、私はそれを正面から受けて立つような格好でたたずんでいたんだが。
いきなり額に、熱い鉄を押し付けられたような痛みが走った。
驚いて、ついそこへ手をやった私は、じかに熱源が触れたのではなく、その上から発せられる熱に、肌も神経も敏感に反応したのだと悟ったよ。
姉があしらってくれた、冠のひまわり。その花の部分がメラメラとかすかな音を立てて、燃え上がっているのがわかったのだから。
大騒ぎしながら、冠をとっさに足元へ落とす私。作業中の姉も、声を聞きつけてこちらを見、状況をすぐに把握する。
ひまわりは火の輪となって、早くも転がった近辺の草たちの茎を、黒くこがし始めていた。放っておけば本格的な火事になる。
水を持たない私たちは、二人して近辺をひたすら踏みつけまくって、火を消したものの、靴や靴下まで焦げて穴が開いてしまったよ。だいぶギリギリの解決法だと思った。
その日はもう、外遊びはこりごりで、家へ引き返したんだけど、数時間後に地域に住む人から報せが入り、消防車が来る気配もした。
あの瓶の回収所で、火事が起こったらしいんだ。火元は積まれたすのこの一角とみられているらしい。
火の消し止めは成功したものの、回収所の土はたっぷり焦げ付いちゃったのを、私は翌日以降に、目にしたよ。
あのひまわり、花冠と私の額のみならず、向き合っていたすのこたちも、過剰に暖めてしまっていたのかもしれない。




