彼氏として紹介された俺
あれから放課後。
最高の一日を終えた。
俺は帰ろうと席を立つ。
けど、樋笠さんがジッとこちらを見つめていた。
「……ひ、樋笠さん、どうしたんです?」
「あ、あー…その、霧島くん……」
もじもじと何か言い辛そうにしていた。
なんだろう。
この一緒に帰りたいみたいな気配。
って、そういうことなのか……!
ま、まさかな。この俺と一緒に? ありえない――こともないか。昨日からずっと隣にいる。ワンチャン誘えるかもしれない。
俺は玉砕覚悟で樋笠さんを誘ってみた。
「よければ一緒に帰ります?」
「う、うん! 一緒に帰ろう!!」
とても嬉しそうに近寄ってくる樋笠さん。手を握られてしまった。そんな風にされると、俺は勘違いして惚れるぞ!?
――いや、すでに。
「じゃ、じゃあ……行きましょう」
「決定だね!」
カバンを持ち、教室出ていく。
部活に向かう者もいるが、俺は入っていない。
スポーツは出来る方だと思うけど、敢えて避けていた。勉強に時間を使いたいし、もしもあるなら青春に振りたいと思っていたからだ。
まさか、そんな日が来ようとは思いもしなかったけど。
校門を出てそのまま家を目指す。
「樋笠さんの家ってどの辺りです?」
「わたしは銀杏町。大通りにあるんだ」
銀杏町か。って、俺と同じ町内じゃないか。
そんなご近所さんだっとは知らなかったぞ。
「近いですね」
「そうなの? わたしね、家が喫茶店だからさ」
聞いてもないのに教えてくれた。
ほう、これは同級生でも知る人の少ない情報ではないだろうか。少なくとも男子は。
「喫茶店が実家なんですか? 凄いですね」
「パパの趣味でさ~。あ、良かったら来る?」
興味はあるけど、イメージとして個人店っぽいし……一見さんお断りな雰囲気。あくまで勝手なイメージだけどさ。
どうしたものかと悩む俺。
そりゃ、興味はある。
樋笠さんのことを知る良い機会でもあるし。
そうだな……恐れていても仕方ないか。
かなりの勇気を振り絞って、俺は返事をした。
「い、行ってみたいです」
「ほんとー! 良かった、断られても無理矢理連れていこうとしたから。ちゃんと返事してもらえてすっごく嬉しい」
強い風が吹いた。
まるで祝福するみたいに。
俺はこの先に進んでいいらしい。
いつも無難な方向ばかりへ歩いていた俺が……別の道を歩くことになるとは。
この先には樋笠さんの家があるんだよな。
しばらく歩くと――喫茶店が見えてきた。
大通りに面していて、立地の良い場所だった。お客さんもそれなりに入っているようだし……普通に大きい喫茶店だった。
お店の名前は『アブラカタブラ』という。
確か、もともとは呪文だったような。
それを店の名前にしてしまうとはな。なんというセンスだ。
「雰囲気ありますね」
「でしょー。こだわりの外観なんだよー」
木造でちょっと魔女の館っぽい感じ。
ファンタジー要素が強い。
変わった花とか植物がそこら中にある。あの赤いのって、ラフレシア?
その前で写真を撮る若い女性たち。そうか、写真映えして人気があるんだ。
正面から中へ入るとこれまた良い雰囲気。
少し古びた木造の内装だ。
コーヒーのニオイが漂っている。
「いらっしゃい~。って、繭じゃないか。おかえり」
「ただいま、パパ」
あの人が樋笠さんのお父さんか。
オールバックの金髪だけど、優しそうな顔立ちだ。なんていうか、イケメンだな。
「その方は同級生かな」
「うん、彼氏」
「「え!?」」
俺もお父さんもビックリした。
いきなりそんな紹介!?
マジかよ。
俺、殺されるんじゃ……。