ツナマヨが大好きで
初夏を感じさせる陽射し。
広がる青い空がまぶしい。
屋上は、昼休みにも関わらず人気はほとんどない。
適当な場所に腰掛け、柵に身を委ねた。
それから予め購入しておいた昼飯のカレーパンを開封。樋笠さんはランチパンのツナマヨを手にしていた。
俺が言えたことではないけど、アレだけなのか。
視線に気づいたのか樋笠さんは「ツナマヨが大好きで」と笑った。どうやら好物らしい。へえ、覚えておこう。
「樋笠さんは、あんまり食べないんですね」
「ダイエット中でね~」
「ダ、ダイエット!?」
俺は耳を疑った。
まてまて……樋笠さんはスタイル抜群だぞ。
手足もスラっとしているし、胸だって平均より大きい。
男子受けはかなり良い方だ。
なのに、ダイエットだなんて。
「驚いた? でも、ほら……わたしって胸が大きいから」
確かに、ちょっと重そうだ――って、何をまじまじ見ているんだ俺は。
「……そ、そうでしたか」
誤魔化すように俺はカレーパンを頬張る。
濃厚で、スパイスが効いて美味い。
さくっと食べてコーヒーで流す。
「へえ、そのカレーパン美味しそうだね」
ふと樋笠さんの視線に気づく。
ジッと見つめられてる。俺ではなくカレーパンが。……そうか、欲しいのか。
うん、そうだな。ここはシェアするべきだ。
「新発売で気になって買ってみたんです。良かったら、食べます?」
「えっ、いいの? ありがとう」
大胆に顔を近づけてくる樋笠さんは、俺が手に持つカレーパンを“はむっ”と齧った。……ち、近い! 近すぎる!
「ひ、樋笠さん!?」
「美味しい~。このカレーパン、味が濃いんだね」
よほど気に入ったのか、樋笠さんは再びカレーパンを口にする。猫にちゅ~るぅあげるみたいな状況になった。やば……可愛すぎる。
結局完食されてしまったけれど、幸せなのでオーケーです!
「美味しかったです?」
「うん、とっても――って、あ! 霧島くんの全部食べちゃった。ごめんね」
申し訳なさそうに謝る樋笠さん。
「いいんですよ。俺はもうお腹いっぱいなので」
「うそ~。さすがにお腹減るでしょ。そうだ! わたしのツナマヨあげるよ」
さっきまで樋笠さんが口にしていたツナマヨパンじゃないか。
「で、でも……それは」
「いいのいいの。さっきも言ったでしょ~、わたし、ダイエット中だからこれ以上食べたら太っちゃう」
だから、あげるねとツナマヨを渡される。
……なんてありがたい。
正直、カレーパンを少し食べただけなので、午後に差し支えるレベルだった。けど、この樋笠さんの食べかけであるツナマヨをいただけるなら、体力全回復だ。
ていうか、間接キスってヤツだよな……!
意識しすぎて俺は手が、足が震えた。
「これ……貰っていいんです?」
「うん、遠慮せずに食べてね」
そんな春風みたいな笑顔で言われたら、もう断れない。
それに。
俺はツナマヨを食べたい。
受け取ったパンをしっかりと掴み――落とさないよう、ゆっくりと口へ運ぶ。
しっとりとした感触がありつつも、絶妙に甘くて蕩けるようだった。……美味い。人生ではじめて感じる甘味だ。
ツナマヨなんだけど、ツナマヨではない。
これはいったい……。
「ツナマヨがこんなに美味いとか知らなかったです……」
「でしょー! またシェアしようね」
次回予告とかなんて嬉しい。
確定した未来に俺は、心の中で踊った。