女子の財布を拾った
可愛い財布を拾った。
明らかに女子のものだった。
これは落とし物らしい。
当然、俺はこれを届けるべきだと思った。
しかし、相手が分からない。
となると、この中身をチェックしないと。
失礼ながら俺は財布を開けた。中には銀行のカードや会員カードがいくつか。それと現金。……と、学生証も入っていた。
名前は――。
樋笠 繭。
俺と同じ高校二年で同じクラスの女子だった。
ああ、樋笠さんか。
隣の席じゃないか。
なら、このまま学校へ向かえば会うことになるだろう。歩いて教室を目指した。
学校に到着すると早々、昇降口から慌しく女子が走ってきた。その顔には絶望感が漂っていた。なにか大切なものを失くしたような、そんな顔だった。
「うそ、うそ……どこに落としたっけ……!」
もしかして、もしかしなくとも樋笠さんだった。
これは丁度いい。
「樋笠さん、お財布を落としましたよね」
「……え。君は同じクラスの霧島くん! あ、それ!」
樋笠さんは俺の手元の財布に気づいた。
「これ、道端で拾いましたよ」
「ありがとう、霧島くん!! わぁ、良かったぁ! カードとかお金はどうでもいいんだけど、お母さんから貰ったお守りが一番大切だったから……だから本当にありがとう!」
泣きながら微笑む樋笠さん。
何度も何度も感謝され、俺は照れた。
今十回は頭を下げたぞ。
こんなに頭を下げられたことはない。
嬉しい反面、俺は自分で言うのもなんだけど真面目だから――見返りなんて求めることはしないし、これも一時的なものだと事務的な対応で終えた。
「良かったですね、樋笠さん。では、俺はこれで」
「うん、ありがとう。でも教室は一緒でしょ! 席も近いし、ほら、行こう」
「お、おぅ!?」
手を引っ張られ、俺はビックリした。
い、いきなり!
女子に手を引っ張られるだなんて、これが初めてだぞ……。
遅刻することなく無事に教室へ。
席へ座って落ち着くと、樋笠さんがこちらを見ていた。……なんだか見られているな。でもきっと、これでオシマイ。これ以上は期待したってなにもないさ。
――そう思っていた。
次の日。
登校すると、道中で樋笠さんと出会った。
こんな時間で今まで会ったことはなかった。偶然か?
「おはよ、霧島くん」
「お……おはようございます」
「ずっと疑問に思っていたけど、なんで敬語なの~。前から真面目な人だなって思ったけどさ、もっと気楽にいこうよ」
昔から周囲にそう言われていた。
この真面目野郎ってな。
でもこれが俺の性分なんだ。
なぜかこうなってしまうのだから……直しようがない。
「申し訳ない……です」
「あはは。面白いね、霧島くん」
いや、笑わせるつもりはなかったけど――なんだろう。樋笠さんの笑顔にドキドキした。……なんだこの謎のモゾモゾ感。俺はいったいどうしたんだ?
よく分からないまま、樋笠さんと登校することに。
人生初の女子との登校。
なぜこうなったのか理解できなかった。けど、けれど……とても楽しいってことだけは分かった。