プロローグ
高校三年生、三月──卒業式。
この三年間、大した恋愛イベントもなく、つつがなく俺の高校生活が終わりを迎えようとしていた。
「はぁ……。十八年間、彼女なし、かぁ……」
青空を優雅に舞っていく桜の花びらたちが、やたらと切なげに俺の瞳に映る。右手には卒業証書が収まった筒。先生から受け取った直後は、蓋を開けたり閉めたりして、小気味のいい音を奏でていた──ポンッという軽快なサウンドが、高校生活の終焉の合図だと気付いたのは、三回ほど繰り返したあとだった。
……高校生って、もっと青春で、もっとキラキラしていて、永遠に続くような時間じゃあなかったのか。
恋愛がすべてというわけではないが、卒業式に告白されるシチュエーションを夢みなかったといえば、嘘になる──それらは無事、夢に終わったわけだけれど。
「おーい! 置いてくぞ〜!」
同じバレー部の、いつものメンバーが校門から俺を呼んでいる──あいつらとは、なんだかんだ一番長い時間を共に過ごしたなぁ。
俺の青春は部活だった──地区予選二回戦敗退の弱小校ではあるが、楽しかった、と形容するには十分なひととき。
それも、もう終わる。
卒業式の後は、謝恩会。その開催時刻まで部活の面々で遊ぼうなんていう、いたって普通の高校最後の一日だった。
「今行く!」
俺は、桃色が舞い踊る春の澄んだ空気を蹴飛ばして、仲間のもとへ駆け寄る。
男子バレー部の三年生合計九人の男が並んで、学外を少し歩いたところに位置する横断歩道を渡っていく。普段となんら変わりない通学路。目指すは駅前──ちなみに、何をして遊ぼうだとか、そういう目的は未定だ。駅まで行ってみりゃ、なんとかなるさ。
俺の高校生活と俺自身を表す四字熟語を問われたら、『平々凡々』と答えるだろう──名乗るほどの陰キャでも陽キャでもなく、恋愛経験がないからと言って女友達がいないわけではない。どっちつかずの中途半端。
最後の、という形容詞こそあれど、全員が、卒業式からいつもの放課後へ、何事もなく移り変わろうとしていた。
そんな中、俺だけ、俺だけが──
信号無視をして、横断歩道に突っ込んできたトラックに、撥ねられてしまったのだった。