口の悪いさっちゃんと女神…私も少し
この物語は、短編『口の悪い聖女、さっちゃん』の過去の物語です。
私はメイド見習いです。
「聖女様は高貴なお方。頑張らないと」と健気に聖女見習い寄宿舎をお掃除しています。
私は将来「口の悪い聖女、さっちゃん」に登場する聖女さっちゃん様に仕えるメイドを押し付け…いや、やらされるハメに…いや、まぁそういう者です。
今日は大聖堂で聖女候補から聖女が選ばれる「聖女昇格の儀」が執り行われる日です。
聖女に選ばれると言う事はとっても名誉なことなのです。
どんな素晴らしい聖女様が誕生するのかとっても楽しみです。
私は廊下を掃除しないと。
では…
ーーーーーー大聖堂ーーーーーー
「ただ今より聖女昇格の儀を執り行う」
大司教の声が大聖堂に響き渡りました。
ここには将来聖女となる聖女候補が15名、聖印を切り祈っています。
聖女となるためには女神様から祝福を授けられたという信託が降りてこなければなれません。
この中から、誰かが必ず選ばれる。という事はありません。
女神様に選ばれ、祝福を授からないと聖女になれないため、1度に複数の聖女が誕生する場合もあるし、誰も選ばれない場合もあります。
聖歌隊の歌が静かに流れています。
聖女候補たちは少し緊張して祈り続けています。
ゴーン ゴーン
鐘が鳴り響き聖女昇格の儀が始まりました。
眩い光が大聖堂を包み始めます。
参列者は息を潜めて聖女候補たちを見守りました。
「…………………………」
大聖堂を包んでいた光は静かに消えていきました。
「何という事だ」
「一人も聖女がいないだと」
「大司教、女神様にお願いすれば」
大聖堂は騒然となりました。
「静かに」
大司教の言葉に皆が黙りました。
「女神様どういうことでしょうか?」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「答えてくださらないのでしょうか」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
そうすると女神像が輝きだし、厳かな女神の声が聞こえてきました。
「愚か者、今見たものがすべてです。貴方達は聖女がどういった存在なのかという事を勘違いしてるようですね。この中に貴族から頼まれた大司教が、お金を貰って候補にした者が居るのはわかっています。そのような事を許す教会に聖女は必要ありません。聖女は私が選びます」
「…………………………」
「何てことしてくれるんだ」
「恥を知れ」
「女神様が騙されるとでも思っているのか」
「大司教責任を取れ」
「その貴族もだ」
「関係者は誰だ」
大司教や不正に関与した者に対する非難の声が大聖堂に響き渡った。
この噂は瞬く間に民衆に広がっていった。
ーー教会の信用は、完全に失墜したーー
ここは中央広場の一画
「っらしゃい」
華麗な手さばきでたこ焼きを焼いている。
「お兄さん昨日も来てくれてたね」
「やっぱりさっちゃんを見ないと一日が始まらないからなぁ」
「嬉しい事言ってくれるねぇ一個おまけしとくね」
「ありがとよー」
中央広場では露天がたくさん出て、賑やかな雰囲気に包まれていました。
どうやったらそんなことが出来るのか、さっちゃんはもの凄い勢いでタコを切り、材料をかき混ぜ生地を作り、たこ焼き用の鉄板に流し、確実に一つずつタコを入れてくるくると焼きました。
「まいどぉ」
どうやらこれで最後のようだ。
「ふぅ」
さっちゃんは一息つくと、ぱぱっと屋台を片付けて広場から家に向かいました。
ごろごろと屋台を引きながら、路地裏に差し掛かった頃。目の前が淡く光が灯り、女性が姿を現しました。
「ん?」
さっちゃんは不思議な状況に理解ができず、戸惑っていました。
「あなたがさっちゃんですね」
いきなり声をかけられ。
「そうだけど、アンタ誰?」
「私は女神です」
「新聞なら間に合ってるよ」
「え、いえの本当の女神ですよ」
「あっそ、んじゃ」
全く興味を示そうとせず帰ろうとするさっちゃん。
「ちょちょちょっと待ってください」
「わけのわからんツボもいらんぞ」
「いえいえそんな怪しい者ではありません」
「充分怪しいだろういきなり女神とかさぁ」
「いや本当の女神なんです、どうしたら信じてくれますか」
「座れ」
女神は訳がわからず。
「は」
「わからんのか座れ」
「あ、はい」
「あのなぁ人に話しかける時はさぁ自己紹介とかいろいろするだろ」
「だから先ほどから女神と」
「じゃぁもう女神でいいわ。で何か用」
「聖女になってください」
「は、頭沸いてんのか」
「いえいえあなたからはすごい聖力が感じられます」
「せいりょく?」
「はいとても大きな聖力が感じられます」
「それで100歩譲って聖女になって何すんの?」
「人々を導き、心を救済し、病を癒してください」
「馬鹿か、たこ焼き屋のねーちゃんがそんなことできるわけねーだろ」
「あなたのやりたいようにやればいいのです」
「じゃぁたこ焼き焼くわ」
「ちょ、ちょ、とりあえずたこ焼きから離れてください」
「たこ焼きからは離れられんな」
女神はちょっと頭にきていた。
「少し優しくし過ぎたようですね、これならどうですか」
女神から膨大な聖力が広がり普通の人なら立ってられない位の力でさっちゃんを包み込みました。
「ほぅ脅迫ときたか」
さっちゃんも自覚はないが、女神に負けない位の聖力を放ちながら…
「てめえの事情を人に押し付けるな、そんなもん権力しか持ってない豚なヤツらと一緒だぞ、てめーのやってる事は最低なクズのやることだ、わかってんのかこのクソ野郎」
「んな、そんなつもりはありません」
「だってそうだろう、こっちは興味のねーことを一方的に押し付けるよーなこと、今お前がやってることじゃねーのか」
さっちゃんはちょっと怒ってきたのでさらに聖力を放出し始めました。
女神は数十万年生きてきて、今初めて「恐怖」という感情を体験したのであった。
「あああのあのあの」
ガクガクと倒れ込んだ女神。
さっちゃんは女神を見下ろして。
「どうだビビったか、てめーがやってる事はこういうことだ」
「すすすみませんああ話だけでもおもお」
女神は教会がダメなので、代わりに聖力の強いさっちゃんを聖女にしたいという理由だけではありません。
彼女こそこの腐敗した世界を正せると信じているからなのです。
女神がびびりながらもさっちゃんにしがみつく。
あまりにも女神の必死な懇願に、ついにさっちゃんは根負けしました。
「あーもぅうっとーしーな、それで聖女になってどうすりゃいいんだ」
「なってくれるんですか?」
「条件次第だな」
「とりあえず前あった大聖堂のところに行ってください、そこに神父とメイドがいます。そこで詳しい話を聞いてください」
「じゃあ私からの条件だ」
「はい」
「私の言うことは絶対聞け、最優先して聞け、速く駆けつけろ、全力でやれ、反論は許さん」
「はぃぃ絶対聞きます、何でもやります、お願いします聖女になってください」
「ん、わかった明日行ってみる」
「ありがとうございましたあぁぁぁ」
そう言って女神はすーっと空に昇っていった。
と思ったらまだ戻ってきて「祝福と加護を授けるのを忘れてました」
女神がさっちゃんの頭の上に手をかざすと淡い光がさっちゃんを包み込みました。
「それでは今度こそ失礼します」
そしてまた空に昇って行きました。
「忙しいやつだな」
やれやれと家に向かうさっちゃんでした。
ーーー元大聖堂
(不正をした教会に怒った民衆に破壊され、今は元大聖堂の隣に仮設の建物が建てられている)
「ちーす」
「あ、これはこれは女神様より伺っておりますさっちゃん様。私は神父でございます」
「私はさっちゃん様のメイドをさせていただきます」
「さ、メイド、さっちゃん様をお部屋にご案内してあげて」
「はい、こちらへ」
さっちゃんはメイドに案内されて部屋に入りどっかと椅子に座りました。
「さっちゃん様、今日はとりあえずゆっくりしてください、明日から聖女についていろいろお伝えいたします」
「分かった」
「他にご用はございませんか?」
「たこ焼き売りに行こう」
「は?」
(この後、メイドの方がさっちゃんよりたこ焼きを作るのが上手になるのだが、それはまた別の話)
おわり
サイドストーリー『メイドと、口の悪い聖女さっちゃん』があります。
メイド視点での本作品のサイドストーリーです。こちらもよろしければご覧ください!
メイドが頑張ります。