セッちゃんは私の頭ん中でも優しいさぁ。
夜が明けて、お天道様かすっかり昇った時分、廊下をコツコツと力強く歩く足音が聞こえた。
この足音は…ナザル坊かのぅ。
婆だった頃と違って耳の聞こえが良くて、若いって良いさぁ。
足音が私の部屋の前で止まると、んん゛っと喉を鳴らす音が響いた。
「カルディナ!開けるぞ!!」
バンッ!
ノックもしないでドアを開けるナザル坊はマナー違反さぁ。
「おや、ナザル坊。レデーの部屋さ入る時にゃ、ノック忘れちゃ駄目だらぁ?着替えでもしてたらどうするさぁ?」
(※カルディナ様は淑女又はレディをレデーと言います。カルディナ語録よりbyセッちゃん)
「着替え?!そ、そ、それはすまなかった。」
顔を赤くして私に背を向けるナザル坊は、素直で良い子なんだが、慌てん坊な子だ。
「ものの例えだぁ。着替えなどしとらんけ。怒っとらんからこっちをお向き。」
気まずそうな顔で顔を向けるナザル坊は、本当に可愛いさぁ。
「せっかくだし、ちょっくら茶ぁ淹れてやっから、飲みなぁ?」
お洒落なテーポットに茶っぱさ入れて、茶にお茶にするさぁ。
よく茶を飲む私の部屋にゃ、ありがたい事に小さな台所あるんだぁ。いつでも茶ぁ淹れられるように、両親が付けてくれたさぁ。
(※テーポット→ティーポットです。 カルディナ語録よりbyセッちゃん)
「い、いや!今日は茶を飲みに来たんじゃなくて、その……。」
「遠慮しなくて良いさぁ!ささっ、そこに座りな。」
カルディナに転生してから残念な事に、畳がない。
床に座布団敷いて座るのも、お付きの家政婦さんのおときさんが嫌がるからしてないんだぁ。
白い布を敷いたお洒落なちゃぶ台にお茶と煎餅とお漬物さ置いて、これでお茶の準備は完璧さぁ。
「椅子さ座りなぁ?」
「うん。」
あ〜、茶がうんめぇ。
ほぅっと息を吐く私の前では、きちっと姿勢正しく座るナザル坊がいる。
「カ、カルディナ!そ、そ、その次の休み…に…一緒に…。」
私の名を呼ぶ声はでかかったのに、その後のナザル坊の声はちっさい。
「何だってぇ?」
いくら体は若くとも、そんなちっさい声じゃ聞こえないだぁ。
「あっ、いや…その。この間は干しいもをありがとう。美味しかった。」
ナザル坊は干しいもの礼を言いに来ただか!
さすがナザル坊は礼儀正しいねぇ。
「ナザル坊の喜んだ顔が見れたんだぁ。干しいも位安いもんさぁ。」
干しいもさ食べてる時のナザル坊の顔を思い出すだけで、私も嬉しくなっちまうよ。
「んふ!ん゛!」
ニンマリ笑う私の前で、ナザル坊が茶をグイッと飲み干すと…、むせた。
「おやまぁ!大丈夫かい?」
苦しそうにむせるナザル坊の後ろへ回り、背中を擦ってやる。
「ごほっ!ごほっ!」
えらい苦しそうだぁ。
ナザル坊の顔が真っ赤になっちまってるさぁ。
「す、すまない。」
「落ち着いたけ?慌てずゆっくり飲みなぁ?茶はいくらでもあるさね。」
ナザル坊の湯呑みに茶を足してやる。
「すまない。」
「今日のナザル坊は謝ってばかりだぁ。私にそんな謝らなくて良いけん。私とナザル坊な仲だらぁ?」
ナザル坊とは家族ぐるみの付き合いだぁ。たから赤ん坊の頃からよぅ見てきたけぇ。
「そうか、すまない。」
また謝ったさぁ。
「でもまぁ、ちゃんとお礼を言えて、きちんと謝れるナザル坊は良いと思うさぁ。私は好きだぁ。」
何かしてもらったら、ありがとう。
何かしてしまったら、ごめんなさい。
挨拶と一緒で、こ、こ、こみにけーそんの基本だぁ。
(コミュニケーションです。※byセッちゃん)
最近はそれが出来ん若人が増えとるからなぁ。
「好……っ!!あっつ!!」
カシャン!
えっらいこっちゃ!
ナザル坊が湯呑みをひっくり返して落としちまったさぁ!
「大丈夫かぁ?」
近くにあった台拭きさ掴んで、ナザル坊の様子を見る。
「ズボンが濡れちまっただ。熱くないかぁ?」
「熱くない!だから、そこは自分で拭く!!」
台拭きさズボンに押し当てたら、ナザル坊に振り払われちまったさぁ。
「着替えた方が良さそうだぁ。替えのズボンを用意してもらうさぁ。」
「……すまない。」
私がパンパンと手を叩くと部屋の外さいる執事さんが来て、ナザル坊を他の部屋へと連れ出して行った。
「あぁ…割れちまったなぁ。」
湯呑みはちゃぶ台の脚に当たったらしい。だもんで湯呑みの底が割れちまっている。
「お嬢様!片付けは私が。」
割れた湯呑みの破片を拾い集めていると、家政婦のおときさんが割れた湯呑みを片付けてくれた。
「……カルディナ。」
割れた湯呑みが片付いて、改めてお茶をのんでいると、服を着替えたナザル坊が、目を涙目にして戻ってきた。
「そんな目ぇして、どうしただ?火傷しただか?」
「……。」
目を潤ませて首を横に振るナザル坊に、安心する。
「カルディナ…ごめん。湯呑み割れちゃっただろ?」
あぁ、その事を気に病んでたのかぁ。
「ナザル坊が火傷しなかったんなら、別に構わんけ。湯呑み位気にしなさんな。」
「……でも、ごめん。」
私の横まで来て涙目でしゅんっと立ったまま項垂れるナザル坊を見てると、胸が締め付けられたみたいに苦しい。
「だったらさぁ。」
私も立ち上がり、手を伸ばしてナザル坊の柔らかい髪を撫でる。
「次の休みに、散歩がてら新しい湯呑みでも買いに行くかぁ?私がナザル坊専用の湯呑みさ買ってやるけん。」
「行くっ!!」
しょんぼりしてたナザル坊が、元気になったさぁ。
専用の湯呑みが嬉しいだか、お目々キラキラさせて喜んでるさぁ。
「約束だぞ!2人で買いに行くんだぞ!!」
本当に湯呑みさ嬉しそうだぁ。
ナザル坊が喜んでくれて私も嬉しいさぁ。