24ページ,勇者と転移者
───数日前、長霊族訓練場───
「───夕夜は、剣よりも槍の方がいいかもな」
夕夜が剣を突き出し、さらに振り落とすところでパルが声をかける。パルと夕夜の関係性は、薄い。だが、それで話しかけないということは、パルはしない。
むしろこういう所で関係性を広められたらいいと思う方だ。
「あっ、クライシスさん、どうも。それってどういうことですか?」
しっかりと挨拶を返すのが、夕夜の主義。そういう主義が多い夕夜だからこそ、リーダーシップがあり、人望も厚い。
パルが夕夜の疑問を一つ一つ解きほぐす。
「まず、夕夜は剣の突きがいい。さらに広範囲で敵を殲滅するのが夕夜にとって効率的で性に合っているだろう。あと……お前のステータスを見ると〈剣術〉のスキルレベルよりも〈槍術〉のレベルが高く、〈槍錬〉になっている」
そこまでの証言をいわれ、夕夜は納得するしかなかった。
パルは、虚空を掴むと、そこには槍が生まれていた。そして、その槍の本質は聖と魔が混ざり合った混沌が渦を巻いているような物だった。
「混交雑槍、グラインシュベルタ。常時、混沌に飲まれてその力は計り知れない代物だ。並の者なら、触っただけでその深淵に飲まれて狂いだす」
武器には、種類と銘がある。それは、武器の深淵を覗き込めば見えてくる。否、感じ取れるという方が正当だろう。
グラインシュベルタを例として挙げるなら、混交雑槍が武器の種類で、グラインシュベルタが銘だ。武器の種類は、その武器がどんな効果を齎すのかがわかる。
「……そんな恐ろしい物を僕に扱えるんですか?」
パルは笑みを浮かべて告げる。
「お前自身は気づいていないようだが、お前の主スキル。それは〈調合〉。ありとあらゆるものを調合し、やがては混沌に導けるスキルだ。つまりお前は、混沌とすこぶる相性がいい」
主スキルは、自分自身の主なスキルのことだ。それ以外は副スキルと呼ばれ、主スキルとは効果が違ってくる。主スキルは、自身の体に刻み込まれているものであり、どうやっても離れない。ある意味、束縛スキルと呼ばれることもあるものだ。
しかし、自身の体に刻みこまれる主スキルは、それ相応の効果を発揮し、副スキルとは桁違いな力を引き出すことがある。
「……クライシスさんって、もしかして〈鑑定眼〉の上位スキルを持ってます?」
能力、〈鑑定眼〉は、持っているだけで珍しいと重宝され、転移者組の中でも持っている者は数少ない。
でも、その効果はステータスを見るだけ。しかも、そのスキルレベルが低いなら見えない部分もある。だから、こんなにも夕夜のスキルのことを言うパルは、どう考えてもステータスを見ることだけでは不可能だ。
「それは今、関係ないことだな。集中、集中」
パルは、夕夜にグラインシュベルタを持たせる。瞬間、夕夜の心臓部から灰色の液体らしきものが溢れだした。その灰色の液体は、周りのものを腐食せんとばかりに荒れ狂った。液体が溢れだした可動部分は、魂の最奥。つまり、その液体は魂からあふれだしている。
パルは、一瞬のうちに〈探求知見把握察澄眼〉を発動してその液体を調べる。その正体は、《刻印能力》、《"混沌の血"》。
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・《混沌の血》
・詳細:魂に刻みこまれる血。《刻印能力》であり、その効果は周りを腐食させるもの。《刻印能力》が発生する条件は、混沌の共鳴、または魂の損傷。
・※鍛錬次第では制御可能。
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パルの思考の中にこの文字が浮き出た。パルは、対処方法は書いてねえのか、と世界の管理者に悪態を吐くも、現状は変わらない。
とりあえず被害を最小限に結界を張って留まらせた。
「これは……鍛錬のし甲斐があるな」
パルは、混沌の血をだす夕夜を横目に、口角を上げて微笑んだ。
***
───皇宮一棟留置所───
「《刻印能力》、《混沌の血》」
混交雑槍、グラインシュベルタを片手に構え、夕夜は溢れ出る混沌の血を見事に制御していた。
「あのときは、地獄だったけど……その代わりにこの力を制御することができるようになった」
夕夜は、パルとの特訓のときを思い出す。短いときであったが、それでも強力な《混沌の血》を制御できるようになった。
リャクセランもリャクセランで、後頭部に突き刺さった槍を抜いて夕夜を見た。
二人に、絶妙な距離がその場を支配する。
先に動いた夕夜がグラインシュベルタを突き出す。だが、聖人のリャクセランとは距離があった。しかし、攻撃が届く。《混沌の血》がリャクセランを腐食したのだ。
その腐食の力はすさまじく、聖鎌をもってしても敵わぬものであった。
「混沌の力……!」
リャクセランは、聖鎌で混沌の血を抑えようとする。グググガガガッという音が転移者を閉じ込めている留置所に響き渡る。リャクセランは混沌の血の勢いには勝てず、グググと少しずつ後ろに後退していた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
しかし、夕夜の方も大丈夫とは言えなかった。混沌は、その名の通り全てが曖昧で混ざり合っている。理さえも渦巻き、捻じまく。危険な力なのだ。
もはや夕夜は満身創痍で意識は朦朧としていた。
そんな夕夜に、肩が置かれる。それは、ケーラの手だった。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
ケーラが後ろを向くと、息を上げている転移者たちが居た。先程、倒れているケーラを、小優魅が治療していた。しかし、小優魅は<力>の量が圧倒的に少ない。そんな彼女を支援したのが、谷内だった。
残りの<力>が少なくなっていることを彼女が一早く気づき、分けたのだった。その後も、彼女に続き、祐亮も<力>を与え、いつの間にかそこにいる転移者全員がケーラの治療をしていた。
傷が深かったケーラも、その大人数で治療を施してもらい、もう完全回復といっていいほどだった。
息を荒げながらも、祐亮は言う。
「……俺よ、谷内のこと……ギャルで、陰口しか言わないヤなやつだと思ってたけど……」
谷内の方へ顔を向き、微笑んだ。
「いいやつだな、おまえ……っ!」
「べ、べつに……~~~~~~っ!」
顔を赤らめて谷内は言葉を窮してしまった。他の転移者たちもいい仕事をしたと言わんばかりの笑顔だった。
「おごれるなよ、お前ら」
途端、異様なほどの青白き粒子が留置所を包む。
発生源は、リャクセラン。混沌の血が収まり、耐えきれたようだった。
「私は、聖人、リャクセランだ。お前ら如きの小童に、負けるはず等、木っ端もありえんわ!」
聖鎌をブンブンと回し始めると、辺りの地面から青白き粒子が立ち込めた。それは、人の形を模り、やがては具現化されていく。
「『聖操作支配人形』」
聖の力を纏った人形が、聖剣を持って転移者を襲った。
「きゃ……っ!」
人形が小優魅に向かって剣を振りかぶる。しかし、そこに剣が阻まる。ケーラが剣で防いだのだ。
「仲間など、そんなものはただの足手まといだ。なぜ大事にしようとする」
人形の聖剣をケーラは振り払った。そして、人形の赤い部分を突き刺す。すると、人形が跡形もなく消えた。
「足手まといなんかじゃない」
他にも、次々と人形を消していく。
「仲間"など"なんかじゃない」
ケーラを真似して、転移者たちも人形を消していく。
「この人たちは、僕の大事な仲間だ。そこに何故はいらない。絶対に、この人たちを生きて返す!」
ケーラは魔剣を力強く握ると、そこに青と赤の粒子が同時に纏わせた。
その魔剣を横一線に薙ぐと、人形が一気に消え去った。
その余波が、リャクセランの所に来るが、弾かれた。
「無駄だ」
聖鎌をゆるりと構え、グググと柄が壊れてしまいそうなほどに握った。
その構えは───投げだった。
ブンと腕を振るうと鎌は人形を通り過ぎ、ケーラの方へ向かう。相対するのは危険だと判断したケーラはそれを避ける。そして、気づいた。今が隙だと。
一気にケーラはリャクセランのところに駆け出した。
「だから無駄だといっただろ」
ケーラが間合いに入った瞬間、リャクセランが告げた。その次、戻ってきたホグリャムガヴエンがケーラの心臓部を突き刺さった。
切り裂く鎌は、魂さえも逃さず───
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・『限界結界』
・詳細:使用者の<力>によって大幅に威力が左右される<法>。ありとあらゆる攻撃を防ぐが、威力が結界を上回るようでは結界が破壊される。又、この<法>は聖法なので法線を繋いで相手の陣に干渉できることができれば、魔力を流し込んで陣崩壊が起こすことができる。
・※この<法>は上級法である
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