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決意

 その夜、俺はベッドに腰掛け、スマホを眺めていた。


 「なんて送ろう……」


 遅れてすみませんが無難だけど、その後何話して良いのかわからないし。

 かと言って、普通の感じで送るのも何か申し訳ないし。


 「あああああああ。わっかんない」


 悶える俺。

 なんでこんなに悩んでるんだろう。別に普通に送れば良いだろうに。

 ……でも、結城さんは確かに俺のことを待ってる。

 あの結城さんが。

 そう考えると、身体の奥が熱くなるのをじんわりと感じた。

 結城さん。お姉さんみたいなのにどこか弱々しいような、そんな女の子。

 俺が初めて、綺麗だと自然に言葉が漏れた女の子。

 ……そう言えば俺、結城さんのこと全然知らない。

 それもそうか、一回しか会ってないんだもんな。

 俺はふと、相原さんの言葉を思い出した。


 『天野君のことをもっと知る為に、今度の日曜どこか行ってくれないかなって』


 そうか、俺も結城さんのこともっと知らないと。

 俺は、ラインに打ち込み始める。


 『遅くなってすみません。こういうの慣れてなくて。

 あの、迷惑じゃなかったら今度遊びに行きませんか?

 もっと結城さんのこと知りたいです』


 書いてみると、こうなんかどうなんだろうかと冷静な気持ちと気恥ずかしい気持ちが同時に俺を襲う。


 「いや、これでいこう! よろしくお願いします、と」


 送信を押した。これでもう取り返しはつかない。

 正確には送信取り消しはできるが痕跡は残ってしまう。

 これはもう、なるようになれだ。

 緊張から解放された俺はベッドにスマホを置き、そのまま倒れこんだ。

 後は返事を待つだけだ。

 ……断られない、かな。大丈夫だよな。

 木崎さんも待ってるって言ってたし。

 そう考えていると、スマホが振動し、通知を告げた。

 ……返ってきた。

 俺は恐る恐る画面を覗く。

 するとそこに表示されていたのは、「今日はありがとう。日曜日どこにいく?」との相原さんからのメッセージだった。

 そっか、相原さんからライン来るの忘れてた。

 俺はラインを開き、すぐに打ち込む。


 『こっちこそありがとう。隣の駅に出来たショッピングもモールとかどう?』


 するとすぐに既読がついた。


 『いきたい! 服買いたかったんだよね』

 『おっけー。何時くらいに会う?』

 『んー、お昼も一緒にたべちゃおっか』

 『じゃあ十一時くらいに駅集合かな?』

 『了解! 楽しみにしてるね』

 『俺も楽しみにしてる』


 そうしてお互いスタンプを送りあって、連絡が終わる。

 凄いスムーズに決まったものだ。

 結城さんの時はあんなに悩んだのにな。

 やっぱり付き合いの長さだろうか。

 元々友達だしな、こんなものなのだろう。


 「……結城さん。会いたいな」


 心の奥の本音がポロリと溢れる。

 さっきまで他の女の子と連絡していたにも関わらず、次の瞬間には別の女の子を考えてるってなんかクズっぽい。

 俺ってこんなだったっけ。

 いや違う。今までこんな状況になったことがないだけだ。二人の女の子と近づける機会なんて、贅沢だ。

 とはいえ、別に付き合ってるわけでもなく、二人とも自分が好きかもわからない。

 ただ、少し距離が近いだけだ。

 奢るなよ俺。期待するなよ俺。

 長年良い人止まりなんだからな。それが治ったわけじゃない。

 女の子との交際経験もないわけじゃないが、たった一人だ。

 それも一ヶ月。無いに等しい。

 こんなの交際に入らないよな……。

 俺は過去をふと思い出すのだった。







 中学三年の冬。

 その頃の俺は、まだ一人称が「僕」だった。

 今もそんなに人付き合いが上手いほうじゃないが、昔はもっと酷かったはず。

 ギリギリクラスカースト二軍といった感じで、目立たない立ち位置だったと思う。

 それでも強いたげられることもなく、ある程度遊ぶ友達もいて、可もなく不可もない学校生活を送っていた。

 そんな中で、よく話す女の子がいた。

 よくよく考えると特別自分とその女の子が話していたわけはなく、誰にでも分け隔てがなかっただけだったのだ。

 それでも当時の自分にとってそれは大切な時間で、大切な人だったのだ。

 時間を重ねるごとに募る思い。

 ただの友達では満足できない感情が中学生の「僕」へと襲いかかる。

 ついに我慢できなくなった「僕」は告白を決意し、その女の子へと思いをぶつけた。

 すると予想外にも、「いいよ付き合おっか」という返事を貰え、交際を始めることになったのである。

 その後は浮かれまくりの、はしゃぎまくりの「僕」がそこにはいた。

 ただ、浮かれていたのはあくまで自分だけの話で、女の子はというと特別「僕」のことが好きという訳ではなかったのだろう。

 年頃特有のとりあえず付き合ってみようってやつだ。

 その結果。

 何回かデートを重ねた後、告げられたのが、


 「なんか良い人なんだけど、君ってつまらないよね」


 という無情な言葉だった。

 そうして「僕」の初めての交際は終わりを告げ、その後何回も「良い人」扱いされる未来が「僕」をそして俺を待っているのは、この時は全く知らないのであった。






 今、思い出しても泣きそうになる。

 弱いな俺。

 そう言えば、「つまらない」ってのはこのあと言われたことなかったな。

 少しは変われたのだろうか。

 そうであって欲しい。

 その為に、「僕」は「俺」に変わったのだから。



「なんか嫌な過去思い出しちゃったな」



 俺は気持ちを切り替えようと、無理矢理身体を起こす。

 昔なんて関係ないのだ。

 今を生きている。それが紛れの無い事実で、過去はあくまで過去なのだ。

 決して変わらない。

 だけど今は、そして未来は変化するはず。

 そう信じたい、と今の「僕」はそう思った。



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