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悩み

 少し肌寒い風が通りぬけた。

 あの時、ドキドキしながら告白のことで頭がいっぱいだったからなのか、特に感じなかったような冷たさを感じた。

 フラれた女の子とフラれら場所に二人きり。

 まるで、あの時に戻ってしまった様に感じる。

 とはいえ、前回とは状況が違う。今回は、彼女の方から呼ばれたのだ。

 そう考えると、前回とは違うドキドキを感じ始めた。

 何を言われるのか全くわからない状況。

 フラれてなければ舞い上がる様な状況なんだけどな。


 「それで、話って?」


 と切り出してはみたものの、何か冷たい言い方な気がした俺は、取り繕うように、彼女の言葉が出る前に、次の言葉を口にしていた。


 「別に、フラれたことは気にしていないからね! 勿論、辛かったけど、仕方ないことだし、相原さんはなにも……」

 「ごめんなさい!」

 相原さんは早口な俺の言葉を遮るように言った。

 「私、ちゃんと考えてなかった。突然のことに戸惑って、その場で、適当なこと言っちゃったの。

 そういう風には見られないなんて、嘘、なの」

 「え?」


 突然の彼女の告白に戸惑う。


 「やっぱり付き合ってとかではないんだけど、もう一度真剣に考えさせてください!」


 何が起こっているのか全くわからなかった。

 何度も、複数の女の子から良い人宣言を受けているものの、こんな展開は初めてなのだ。

 何も言えずに固まっている自分。


 「告白された後、気まずくて天野君と話せなくなって、凄い、なんていうか喪失感というか、その、寂しかったの!

 凄い勝手かもしれないけど、考える時間をください!」

 「えと、あの、わかった」


 彼女の勢いに圧された自分は、何となく承諾をしてしまった。

 何も、考えられてない状況だが、別に悪い状況ではないはずだ。

 自分の好きだった女の子からセカンドチャンスをもらったのだから。


 「ありがとう……。なるべく早く結論だすから。まってて」

 「うん、待ってる」


 これが正解なのかはわからない。

 だけど、今の自分としては、この言葉以外に持ち合わせがなかったのだ。


 「それでね。天野君にもう一つ勝手なお願いしても良い?」


 相原さんは、狙っているのかわからないが、上目使いで聞いてきた。

 正直可愛かった。

 後ろで縛っている長めのポニーテールが肩に流れた。

 それを見た俺は、綺麗だなと思いつつ、ふと別の女の子の顔が浮かぶ。

 結城さん。

 無意識に出てしまったあの言葉。それだけ本気で感じたあの瞬間。

 決して、今が劣っているわけだはないはずなのだが、どこか違う気がする。

 確かにそう感じたのであった。


 「お願いって?」

 「あのね。二人で出掛けたことなかったなって。

 天野君のことをもっと知る為に、今度の日曜どこか行ってくれないかなって」


 考え込む俺。何も予定はなかったはずだが、承諾していいのだろうか。

 いやでも、好きな女の子と出掛けられるなんて、喜んでいいはすだ。


 「予定埋まってた?」

 「いや、空いてるよ。

 ……じゃあどっか行こうか」

 「やった! じゃあどこ行くか後でラインしよっ!」


 凄く嬉しそうだ。ピョンピョン跳ねている姿を見ているとこちらも嬉しくなってくる。

 まるで、さっきまでの違和感がなかったように、彼女に吸い込まれていく様な気がした。


 「オッケー。連絡するわ」


 すると、彼女は首を横に振る。


 「連絡するね」


 満面の笑みで、長い髪を揺らして、彼女はそう言い放つのであった。











 その後は、お互い談笑しながら教室へと戻る。

 今までの気まずさはまるでいなかったかのようだった。

 教室へ戻ると「またね」と言い、お互いのコミュニティへと別れていく。


 「おせえよ!」


 待ちくたびれたように友ちゃんに怒られる。


 「ごめんごめん」


 素直に謝る俺。


 「相原と一緒だったみたいだけどどうしたん?」

 「いや、まあ、なんというか」

 「なんだよ。やっぱり付き合おうって言われた?」

 「ちがうんだけどさ。なんか説明できないわ」


 簡単に説明できないわけでもないのだが、自分の中で整理できない分、まだ表には出せない。


 「おいおい、何があったか教えろよ」


 友ちゃんは気になるようで、食いついてくる。そりゃそうだよね。

 一人で抱え込んでも仕方ないし、説明するしかないか。

 ということで、説明しようと思った瞬間、無情にもチャイムがなった。


 「くそっ、タイミング悪いな。また後で聞かせろよな。あと急いで食っとけ」


 そう言って、友ちゃんは俺の頼んだゴールデンメロンパンを投げる。


 「了解。ありがとうな」


 端的にお礼を言うと、席へとお互い戻る。

 俺は急いでメロンパンを口に押し込む。

 正直、こんなに急いで食べるのはもったいないパンだ。ゆったり食べたい、なんて感じつつも、自業自得なので諦める。


 「……これ、うまっ」


 そういえば、相原さんは昼食べたのかなと思いながら、小さな声でそう呟くのだった。



 午後の授業は退屈だった。

 正直、どの授業も午後に関してはダルい。

 自分は真面目でも不真面目でもないタイプだと思う。適度に授業を聞き、板書をする。

 成績もいつも真ん中くらい。

 それに対し友ちゃんと言うと、勉強苦手そうなキャラに反して、かなり真面目だ。いつも真剣に授業を聞き、予習も復習もする。

 俺には真似できない所業である。

 そのせいか、友ちゃんはいつも校内でのテストは上位の方だった。

 とは言え、アニメや漫画のキャラみたいないつも校内で一位ですという訳でもなく。ギリギリ、十位に入れないくらいの成績だ。

 それでも俺からしたら凄いんだが……。

 ともかく、友ちゃんは毎回のように十二、三位で悔しがっていた。

 そして俺は、「がんばれー」と他人事のように適当に応援する。毎度のやりとりだ。

 友ちゃん、天才っていうより秀才タイプだからな。別に器用なわけでもないし。

 いつか十位以内に入れる日はくるのだろうか、なんて他人のことを他人事に考えていると、バチが当たったようだ。


 「天野、続き読め」


 先生に当てられた。

 困った。全く聞いてなかった。どこのページだっけと焦っていると……。


 「……二五ページの最初だよ」

 と小さな声で教えてくれる相原さん。


 俺は「サンキュ」と小声で返す。

 そうして読み終わり、危機は脱した。

 と思ったのだが。


 「ちゃんと聞いとけよ天野。そして教えんなよ相原」

 バレバレでした。


 クラスに大きな笑いが起きる。

 俺と相原さんは目を合わせて、お互い苦笑いになる。

 そんな感じで、教室が盛り上がっているとチャイムが鳴った。

 チャイムは空気を読まないこともあれば、空気を読むこともあるのだ。

 こうして授業が終わり、自由な風が流れ始める。


 「優ちゃん、クラスで爆笑かっさらてんじゃん! うらやま」


 友ちゃんが終わって早々いじりにやって来た。


 「うっせえ! 狙ってたわけじゃねえし」

 「まあでも、なんか相原とも平気な感じだし。よかったな」

 「まあな」

 「やっぱ、昼休みのやつ? てか何があったか聞かせろよ」

 「はいはいわかった」


 俺は、友ちゃんに向き合い、昼休みのことを話し始めた。

 呼び出されて、フラれた場所に行った話。そこで、改めて考える時間が欲しいと言われた話。

 そして今度二人で出掛ける話。

 とりあえず自分の感想はなるべく省いて簡潔に話した。

 

 「なんだよそれ。よかったじゃん」

 友ちゃんはまるで自分のことの様に喜んでいる。こういう姿を見るとやはり良いやつだと改めて思う。

 「そうなんけどさ……」

 「なんだよ。嬉しくねえの?」


 嬉しいことは嬉しい。それは間違いない。

 だけど、引っ掛かるのだ。

 結城さん。

 彼女の話をしなければいけない。


 「嬉しいんだけど、あの、実はさ……」


 ついに話を切り出そうとすると、


 「天野、木崎さん来てるぞ」

 と、クラスメートに声を掛けられる。


 「はい? 俺? なんで?」

 「知らね。お前に用事だってさ」


 俺と友ちゃんは顔を見合わせた。


 「ま、まさか優ちゃんお前、あやちゃんと……」


 いつのまにか、「あやちゃん」呼びになっているのが気になったものの、とりあえず触れないで話を進める。


 「ちげえよ! 俺もなんのことか全く」


 とりあえず何が何やらわからないため、二人で教室の入り口まで移動する。


 「あ、天野くんこんにちは。友くんも一緒だったのね」


 木崎さんも「友くん」呼びになったのね。

 二人は着々とカップルの道を進んでいる。


 「木崎さんこんにちわ。俺に用って?」


 木崎さんは少し悩んだ後、友ちゃんの方に向かって、


 「友くん。ごめんちょっと二人きりにしてくれない?」

 「……え」


 絶句する友ちゃん。


 「ち、違うのよ友くん。そういうのじゃなくて、その……かおちゃん、結城さんのことなの」

 「結城さん?」


 友ちゃんは首を傾げた。

 それもそのはず、結城さんとのことはこの後話す予定だったのだ。

 にしても、いったいなんの話だろうか。

 

 「木崎さん。なんの話かわからないけど、結城さんのことをちょうど友ちゃんにも相談するところだったから、一緒に話聞いても良い?」


 木崎さんは、少し悩んでから、了承をしてくれた。

 その後は、三人で人の少ない静かな場所へと移動する。

 まさかあの場所にまた行くのかと、ふと思ったが、流石に違った。

 自販機近くのベンチだった。

 ここは意外と人が来ない。部活をしている人のエリアから少し離れているからだ。

 お昼時は人が来るものの、放課後をむかえてしまうと途端に人が来なくなる。

 そのせいか、たまにカップルの逢い引き場所になっていることがあり、自販機の利用を諦めたことも何回かある。

 そんな感じで絶妙な場所だ。

 木崎さんは、飲み物をその自販機で買い、俺と友ちゃんに手渡す。おそらく、カラオケの時のお返しだろう。

 俺達二人は、お礼を言い、近くのベンチへと腰かける。

 背もたれのない、シンプルな青いベンチ。三人でかけても余裕なベンチだ。

 俺達三人は、話が聞きやすい様に、真ん中に木崎さん、両サイドに俺と友ちゃんという形で座った。


 「それで、かおちゃん。結城さんの話なんだけど」

 と話を切り出す木崎さん。


 「うん」

 「ラインの話はしても大丈夫?」


 一応、友ちゃんに聞かれても平気か確認をしてくれる。

 その言葉に、何のことかわからないという顔をしている友ちゃん。それを尻目に「大丈夫」と俺は答えた。


 「カラオケの帰りにライン……連絡先をもらったと思うんだけど」

 「連絡先をもらった? 優ちゃんが? 結城さんに? 知らなかった」


 友ちゃんは大層驚いていた。

 それはそうだろう話していないのだから。


 「それを相談しようとしてたんだよ。言うの遅くなってすまん。

 木崎さん続けて」

 「かおちゃんが全然連絡来ないって凄い落ち込んでて」

 「え、結城さん落ち込んでるの?!」

 「なんで連絡してくれないのかなって」


 想定してなかった。

 勿論、早く連絡しなくちゃいけないとは思っていたけれど、落ち込んでいるなんて。

 落ち込んでる結城さんを想像してみる。

 ……可愛いかも。

 なんて思っていると顔がにやけてしまった。


 「天野君?」


 木崎さんが心配そうにこちらを見てくる。


 「ごめん。言い訳なんだけど、こういうの慣れてなくて。

 なんて送ろうか迷った結果が、現状です。すみませんでした」

 「そっかそういうことだったのね。了解です。

 じゃあちゃんとかおちゃんに連絡してね。待ってると思うから」

 「了解。今日にでも連絡して謝るよ」


 木崎さんは、お願いねという顔で微笑んだ。

 先ほどから理解が追い付いてない友ちゃんは大分考えた後、


 「とりあえず、なんかあったら俺にもちゃんと言えよ」

 と少し不服そうな顔で言う。

 「悪かったって。ちゃんと言うよ」

 「ならいい」


 こうして、俺の少し長いお悩み期間は終了したのであった。


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