第8話 新たなる出会い
ウリエルの魔法で明るくなった施設内を見渡すと確かにルカーサルの言う通り、周りの人達が気を失って倒れていた。
「悪魔の魔法って言ったよな
周りに危害を加えるのは禁止されてるんじゃなか
ったのか?」
「そのはずだが
はぁー、仕方ない
私はこの魔法を使ったと思われる悪魔に会って事
情を聞いてくる
優たちは先に帰っていてくれ」
「いや、さすがに気絶した人達を放っては置けない
からな
お前たちの話が終わるまで怪我した人がいないか
見て回ることにするよ」
「そうか、君は変わ・・」
「さすが、優さん
いやー私の旦那さんの優しい一面が見れて、嬉し
い限りです」
「いやいや、別に旦那さんでも優しくもないし
普通にほっとけないだろ
それとルカーサル、何か言いかけなかったか?」
「いや、対した事じゃないさ
じゃあ頼んだよ、優」
「おう!」
ルカーサルは悪魔の気配が分かるのだろう。
まっすぐ4階へ向かっていった。
「さて、ウリエル
俺はまず1階から確認するから
お前は2階を頼む」
「何言ってるですか
そんな事しなくても私の魔法一つで全員目を覚
ましますよ」
「おい、そんなもんあるなら最初から言えよ
何かさっき意味もなくカッコつけたやつみたいに
なっただろ俺」
「いやー、さすがに優さんが全力でカッコつけてる
所を邪魔する気にはならなくて」
「お前、面白がってるだろ
まぁいいや、じゃあその魔法とやらで頼む」
「わっかりましたー
ちょっと詠唱に時間がかかるので優さんはカフェ
でお茶でもしながら待ってて下さい」
「いや、だから詠唱なんていらないんだろ」
「いえいえ、詠唱なしの魔法なんて角の生えてない
ユニコーンと同じですよ」
「その例えはイマイチ分からんけど
要するに時間がかかる魔法ってことか
それなら大人しくそこら辺ぶらぶらしながら待っ
てるよ」
「やっぱり私たちは以心伝心なんですね
言葉なんてなくても通じ合っている
まさにベストパートナー」
「・・・・」
「あれ、優さんもう行っちゃいましたか
それじゃあ始めます
我、神様に仕え、人々を導く天使ウリエル
この世界に与えられるべき慈悲を授かるために請
い願います
人々の、特に優さんの幸せを願うこの私に力をお
わたえください
(以下略)
」
ウリエルが長ったらしい詠唱をしている間に、俺は普段なら入りづらいであろうオシャレな若者向けの洋服店へ入ってみた。
「あー、やっぱりこういうお洒落な店は女性ものが
ほとんどなんだな」
その時、なにやら熱心に店の服を見比べている女の子を見かけた。
黒髪のショートカットで癖毛が一本真ん中から生えている。
身長は大体160センチくらいかな?
制服を着ているところを見ると俺と同じ高校生なのだろうか?
ん、ちょっと待て。
なんでこの子は悪魔の魔法が効いてないんだろう?
まさか、この子の使い魔である悪魔がやったとか。
いやいや
大人しそうな子だし、たまたま効かなかっただけだろう、うんそうに違いない。
とは思いつつも念のためなその子に話しかけてみた。
「ちょっといいかな
聞きたいことがあるんだけど」
話しかけた瞬間、一瞬こっちを見たが、すぐに視線を外して顔を俯かせ硬直してしまった。
あれ、おかしいな
俺そんなに怪しかったのかな?
まぁそうだよな、普通ショッピング中に知らない人から話しかけられたら困るよな。
「ごめんね、急に話かけて
えっと・・・・」
どうしよう、さすがになんの用もなしに話しかけたというのはおかしいもんな。
かといって悪魔について聞く気にはなれないし。
そうだ、ここはスマートに褒めてこの場を立ち去ろう
由衣のやつも男は女の子の服装を褒めるのは義務でしょって言ってたし。
「今持ってるその服、絶対似合うと思うよ
ってそれが言いたかっただけなんだ
ごめんね、邪魔して
それじゃあ」
そう言って店を出ようとしたその時
「ほんとに?
ほんとにそう思うの?」
声は小さかったが確かにそう言ったのが聞こえた。
「うん、もちろん
やっぱこんなオシャレな店で服を買う人はセンス
が良いんだろうね
俺なんていつも安くて高品質のシロクロで服買っ
てるから尊敬するよ」
俺がそう言うと、その女の子は顔を赤らめてぼろぼろ泣き出してしまった。
あれ、俺なんか失礼な事言っちゃった?
女の子を泣かせるなんてあの時以来だな。
「大丈夫?
ごめん、俺変なこと言っちゃったみたいで」
「えっと、ちがうの
嬉しくて」
「あ、嬉しかったのか
それならよかった」
それにしても服のセンスを褒めただけなのに大袈裟だな。
まぁ凄いピュアな子ってことだ、実に好感が持てる。
その時背後から近づくもう1人の悪魔に俺は気づかなかった。
なにか今まで聞いたことないような不協和音が耳元で鳴り、俺は地面へ倒れてしまった。
どうなってる?
これは悪魔の魔法か
ルカーサルはどうなったんだ。
「花、大丈夫?
この見るからに変質者の男に何かされた?」
「おい、変質者って俺のことかよ
お前、さっきショッピングモールの人達を気絶さ
せた悪魔だな
どうしてそんなことを」
「これは驚いた、まだ意識があるとは
理由は言えないが、必要なことだったんだ」
「違うの、ベレト
彼は私を褒めてくれたの
それが嬉しくて」
「2人は知り合い?
ということは君の使い魔も悪魔ってこと?」
「う、うん
実はそうなんだ
私の名前は神原 花
使い魔が悪魔なの」
「嘘だろ、こんな近くに俺以外にもいたのか」
「ん、その口ぶりだとまさか」
その時、ルカーサルがその場に現れた
「優、大丈夫か」
「ああ、なんとかな
それより今回の事件は何か訳ありみたいだ
お前の言い分もあるだろうけど
まず話を聞いてからでも良いか?」
「分かった、優がそういうのなら
だが」
ベシッ
いつも冷静なルカーサルがベレトの頬を思いっきり引っ叩いた。
「私の主人に手荒な真似をした罰だ
まずは謝罪をしてもらおうか」
「く、仕方ない
悪かったよ
それとありがとう、花を助けてくれて」
「よく分からないんだが
どうして神原さんたちはこんな事したんだ?」
神原さんは大きく3回ほど深呼吸をして
30秒ほど無言になった後に言った。
「実はその、私は極度の人見知りで
だからベレトはそんなわたしのためにこんな事を
してしまったんです」
「なるほど、つまり人が多い所や店員さんに話しか
けられる洋服店は苦手だからベレトの力で皆を気
絶させたと」
「凄いな優
よく今の説明でそこまで分かるものだ」
「まぁなんとなくな
しっかし事情は分かったけどこんな事もうするな
よな
手遅れになってからじゃどうしようもないし」
「うん、本当にごめんなさい」
「よし、じゃあ連絡先教えて貰える?」
「え
ど、どうして?」
「いや、せっかく使い魔が悪魔な同士に会えたんだ
から情報交換とかしたいだろ?」
「えっと、その
ごめんなさーーい」
そう言うと、神原さんは全力ダッシュでその場を立ち去ってしまった。
さすがの俺も心が折れそうだ。
「優さーん、成功しましたー
怪我人もいなくて皆さん無事起きましたよー」
「そうか、何かもう疲れたから今日もう帰ろうか」
「何かあったんですか、優さん?
私が悪魔の寝顔を見た後と同じくらい顔がやつれ
てますけど」
「いや、大したことじゃないさ
俺はやっぱりきもがられる男なんだと再確認した
ところさ」
「よく分からないですけど、大丈夫です
私は優さんのどんな所も余さず愛しているので」
「わぁーすごーい」
「あらあら、これは重症ですね
じゃあさっさと帰りましょうか」
その後、俺たちは家に帰り
色々あって疲れていたせいか俺はすぐ眠ってしまった。
翌日、俺はお約束の展開を迎えることになる。
そう、神原さんがうちのクラスに転校してきたのだ。