下界に降りて
2ー3お迎え
「うーん…」
「どした?」
秀の声にリクは答えた。
さきほど白狼を追い払って何を悩んでいるのか。
「さっきの狼、すんごく軽かったんだよね」
2メートルを超える巨狼が軽かったと言った。
おそらく100kgは超えるだろう巨体が軽いという。
「ふむ?」と顎に手を当てダイは考えた。
「もしかして神様の身体強化のせいであろうか?」
三人は悩んだ。
「秀、本気でジャンプしてみ?」
何を思っての発言か、リクが言った。
そこまでの跳躍力はないと自負している秀。おそらく60〜70cmがいいところだろう。
とりあえず言われるがままにその場で飛んでみた。
「お?おお!?」
飛んだ距離はおよそ4m。
自分の思う結果より遥かに高い。そして自由落下により地面へと引き寄せられる体。
「ほわぁぁ!?」
事件に向かう体。
それを受け止める竜人のリク。
「おぉ、結構飛んだな…」
「本気出したら、このへん一帯更地にできそうでござるな。」
秀の力を分析するダイ。
本気で飛んで4m。普通の6〜7倍の力があるであろう。
その身体能力、それが今の秀の力。
拳をふれば衝撃波で森の木々を根こそぎ吹き飛ばすであろうと計算した。
「ここまで強くしてくれなくてもよかったんだけどね…」
秀は己の体の身体能力を疑った。拳を振るうなんて今は考えられない━━
秀のおかげで難なく最初の遭遇をやり過ごした三人。
神に言われた通り指示された道を歩いていた。
「そうだ。異世界来たんなら、いろいろ出来んじゃね?」
発案する陸斗。
その言葉が何を意味するものか、一瞬で理解する二人。
「ステータスオープン!!!」
手を前にかざし吠えたのは翔大だった。自分のステータスを知ること、それは後々の自分育成への進路を示すもの。ステータスが目面のようなものが目の前に現れ、力や体力、魔法力などが教示される。
はずだった。
『その機能はまだ実装されていません。』
三人の頭に女性の声が響く。
三人とも空を見上げる。
何もない、青空が広がっていた。
「え?なんか言った?」
「いや、何も。」
「女の人の声だったね。」
見上げた空に向かって、三人は思い出す限りの言葉を言った。
「空間収納!」
「鑑定!」
「えと、あの」
二人に先を越された秀は何かないか何かないか、考えた。
「え、えっと、…ワープ?」
力なく呟いた言葉。
その全てを聞き入れたのか、件の女性は答えた。
『全て、その機能は実装されていません。』
三人はぽかんと青空を見上げた。その表情は虚だった。
誰とも知らぬ声に否定される。
地球にいた頃に読んだ本では、どれかしらもらえるものだと思っていたのだ。
そして三人は顔を合わせる。
「なぁ、ここって思ってたほど裕福じゃないんじゃ…」
「うむ、あり得るな…あの神もずいぶん丁寧だったし…」
「こう言っちゃなんだけど、僕たちのいたとこより随分、その…底ランな世界なのかな…」
ふーーーーーむ、三人はそれぞれ考えを巡らせていた。
『あ、あの!そういう暴言はよくないと思います!』
先ほどまでシステムのように喋っていた言葉は意思を持って語りかけてきた。
この言葉は、神が設定したシステム的なものだろと思っていたのだ。
ゲームで言えば注釈分のような。
考えても拉致が開かないと思った翔大は訪ねた。
「どなたですか?貴方は?」
一応初対面?と言うことになるのだろう女性の声に敬意を払った言い回し。
ん!んん!咳払いをする補正の声。
『私は、この世界の神、ミザ•ルーデンシュタインです。ミザ信仰の象徴にしてこの世界での神ですよ。』
決まった。この女神は思った。世界の信仰の対象として崇め奉る存在。それが自分である。
それをこの少年三人へと思い知らしめる。つもりだった。
「神様の下の神様だろ、それ?俺たちと同じじゃん?」
「拙者達、神様の勅命を受けているでござるからな。」
「二人とも、神様に失礼でしょその態度。」
青空に向かって言い放つ二人とは対照的に、二人をなだめる秀。
むぅぅ、と不満そうな声を上げる女性。多分今頃頬を膨らませている。
未熟な地の神と発展した世界の一般人、それは等しいくらいの知識や技術を持ったもの同士。
悲しいかな大して違いはなかったのだ。
この世界を反映させてくれ、それが神(創造神)からの依頼。
それに誓おう、と思っていた三人に。突如降り注いだ『神』を名乗る声。
『まぁ、創造神様からあなたたちのサポートは頼まれてますから命に従いますけどね。』
『ふーん?』
三人は良くわからないまでも、とりあえず信じておくことにするのだった。
と、神との交信をしていたとき、遠くから音がした。
車輪が道の小石を跳ねる音。
馬のいななき。
足音。
その音の方を見遣れば砂煙が立っていた。
『あ、来ましたね』
神の声を聞きつつ、音のする方を見れば、音の正体が近づいてくる。
馬三頭、場所、その後ろに数十人の兵士。
「ちょっと仰々しくねぇかあれ?」
出迎えの使徒は一人か二人だろうと思っていた三人の前に、近づいてくる団体。
それが三人の前で止まった。
「私はサンタマギナこの英騎士団所属、アリザ•スロッド副団長であります。そのお姿神徒様とお見受けいたしますが、間違いありませんか!?」
堅苦しい自己紹介をした女性。
その姿を見て三人は目を輝かせた。
「おい、騎士様だぞ!」
「カッコいい!」
「あ、えっと、神徒…で合ってる、はずでござる。」
そんな役割で降臨させられたはずではなかったが、多分おそらくこの世界では『神徒』と呼ばれる存在になるのだろう。創造神の勅命を受けているわけだし。
「僕は、ピョンキチ•サエーキだよ!」
おもむろに声を上げたのは秀だった。
腰に手を当てフンスと鼻息を吐きながら出迎えの者たちへの名乗りだった。
その行動に勢いよく振り向いた二人。
(それ、ハンドルネームじゃん?)
振り向いて不思議がる二人に対して。
(本名とかやばいでしょ?)
冷静に対処する秀。
それを聞いた二人はそれぞれのハンドルネームを名乗る。
「俺はリクだ」
「拙者はダイ・ブリューナク•ワング•デッセィ。ダイでいいでござるよ。」
(短すぎでしょ名前!)
(長すぎだろ名前!)
狼と竜はお互いにそんな想いを馳せていた。
三人はそれぞれに疑問を持っていたがそんなことは知らないアリザ。
馬上から降り、膝をついて三人の前。深々と頭を下げるとそのまま声を出す。
「神徒様方におかれましては、この地に降り立っていただいたこと歓喜の極み。どうぞ我々と共にここサンタマギナにて生活を共にしていただけないかと思う所z」
「そういう堅苦しいのいいから。」
翔大は跪いて首を垂れる女性の言葉を遮った。
後ろに控える従者の顔をうかがうアリザ。
神の使者への最大限の敬意振るったつもりなのだが、何か間違っただろうか。
そんな疑問の視線を向けていたのだが、二人の従者は「間違ってはいない」とばかり首を横に振った。
相手は神の使わせた神徒。敬意を払うのは至極当然。のはず。
「あ、俺たち、そういう挨拶慣れてないからさ。もっとフレンドリーでいいよ。」
そういう陸斗の言葉ではあったが、それをそのまま鵜呑みにするわけにもいかない立場。
もしやこれは試されているのか?
最後まで従順に尽くせる者であるかどうか、それを見極めるために━━━
「そうですか…と、とりあえずたち話もなんですから馬車の中へどうぞ。街へとお連れしますので。」
少しは砕けた言い方にしてみたが、三人の顔色は微妙だった。
(く、どうすれば!)
「まーだ硬いね。」
秀は言った。こそもそも高校生の三人が敬語を使われるなんていうことはあまりない。
部活の後輩に使われるくらいであって、見知らぬ他人にそれをやられるとむず痒さを覚えるというもの。
「でもまぁ、たち話ってのもあれだし、場所変えよっか。」
相手に警戒されないように自然な言葉をはなってはいた秀は馬車の方へと移動する。
そしてそれに続く二人。
(なぁ、おれこういう扱いされんの苦手だわ。)
(拙者もでござるよ。)
「では、出立!!」
そう言ったアリザの言葉に全員が動く。立ち上がり全員が帰路へと向きを変えた。
「信徒様達は馬車の中へ」
馬車へと誘われる三人。
チラッと後ろを見れば100人規模の兵士さんいよるお出迎えが見えた。
あはは、と頬が引きつった笑いを浮かべつつ馬車へと入っていった。
するとそこには老人が一人先に入っているではないか。
「あ、どうもぉ〜」
軽い会釈をして入る三人。
席的に老人の横に座った翔大。
向かい合って座る陸斗は体が大きいため、秀を抱き抱えるようにして座る羽目になった。
「お初にお目にかかります。サンタマギナ宰相、グーデン•モルグと申します。年寄り故跪くことが困難でして、こんなかたちで挨拶する無礼をお許しください。」
ぺこりと頭を下げ、グーデンと名乗る老人は会釈をした。
そこで三人は気づいた。お偉いさんの護衛だったのね、後ろの人達。
三人を回収した馬車は踵を返し、近くの街コウミへと歩を進めるのだった。
そして馬車の中、三人は質問攻めに合う羽目になったのだ。
この世界に来た目的?神から何か勅命を受けているか?今後の生活は?何かなりたい職業など?
いろいろ聞いてくる老人に一生懸命答える三人、まだ高校生の三人には夢も希望も野望もあって、それを三人が三人とも答えていた。
逆に、この世界での常識なども聞いていて。
冒険者になれるのか?学校はあるか?拠点はどこがいいか?この世界の相場などなど知りたいことをどんどんぶつけていった。
後に知ったことだったが、リザ神に聞けば全部解決する内容だった。
そうこうしているうちにコウミの街へと入っていく一団。
大勢の大行進は町の皆が振り返ることとなった。
「神徒様達はそのままでいられた方がよろしいかと。」
そういうと、グーデンは馬車の窓から身を乗り出し民衆へと手を振った。
それに反応するように民衆はざわめき、いろめきだつ。
宰相様ー!
声が轟く。
どうやらこの宰相、民衆に好かれていることが知れる。