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下界に降りて

2ー2

空に浮く光の球。神の頭が声を発する。

『この道まっすぐいってね、途中で迎えの人族がむかってくる手筈になってるから』

「う、うん…身体能力向上って、酔いには効かないのね…」

秀は酔ったまま呟いた。


「おう、ご苦労」

神はその言葉を残して音もなく姿を消した。

手違いでロウケン国へ入国させられそうになったものの、どうやらここは人族の国サンタマギナ。その首都近くの林の街道。

直接送ると混乱が生じるため、まずは事情を知った者が迎えにくる、との事なのだ。

「あー、やっと下界かぁ」

竜人と化した陸斗がぼやく。

しばらくして、体調の戻った三人は林の中、木陰を進みいざ最初の街を目指すべく歩みを進めた。

「くぅぅぅ…」

狼獣人になった翔大は半泣きで地面を見つめ、自立できるようになった足で土を踏みしめながら歩を進めていた。「まぁまぁ」と慰める兎獣人の秀もようやく酔いが治り狼の背中を撫でながら歩いていた。

最初に訪れる町は首都コウミというそうだ。

創造主曰く、多人種の街でこれといって弊害なく過ごせるとか。

これでも爵位を持つ三人、それなりの待遇を期待して一路町へと向かう━━━


ガサガサ


近くの茂みが音を立てる。

三人の足は止まり音のする方を見れば、そこから飛び出してきたのは体長2メートルもあろうかという白毛の狼だ。

「グォォォォ!」

敵意を剥き出しにして迫る狼。

だったが。

「ほ、本物の狼だ!」

「やだ、なにこれ、モフモフじゃん!」

「おっきぃぃ!」

危険を察知する陸斗、先ほどまでのモフモフパラダイスとダブったのか喜ぶ翔大、動物園感覚の秀。地球の現代っ子が生活していくにはハードルが高い世界であった。

一人は恐れ二人は恐る事なく狼を見ていた。

そんな心中を察することのない狼は、三人に向かって駆けていた。

知らず知らず縄張りに入った三人を今日の食事にするために。

距離が縮まる。

下界に降りてきたばかりの三人はこれも一つのイベントなのかと色んな意味で胸を高鳴らせた。

迫りくる狼に動けない陸斗。しかし。

シュッと、身を踊らせるように白狼に走りよるは小さなウサギと青い狼。

「うふふ、わんちゃ〜ん♪」

「もふもふさせてぇ〜♪」

「いやいや、おかしいだろ二人とも。絶対食うつもり満々だってあいつ。」

陸斗の声も聞かず狼へと歩み寄る二人。

一方迫りくる二匹の獣に対し、白狼はとっさに思った。

まずは小さい方から。両手を突き出しこちらへと突進(?)してくる二匹に冷静に判断する。

まずは小物から仕留め徐々に残りの戦力を奪う。

狩りに慣れた白狼の考えだった。

そして、小さなウサギをターゲットとした白狼は接触するであろう距離に差し迫った時、大きく口を開いて━━━


白狼の牙が襲いかかる子ウサギ。が、身を半歩横へとずらし、難なくかわせば左の腕は首へ、右の手は白狼の左前足。そのひじともいえる部分を指で摘み上げていた。

「ぎゃうんんん!!!?」

神経の通り道でもある関節、そこにかかる圧力は並みの人間が出せるものではない。

神の恩恵、そして子ウサギは並の人間ではなかった。

本来。身長190cmを超え、格闘技では高校生ながらにして一般の部で表彰台に上がるほどの実力者。

己が身を襲う白狼に対して冷静な対処。

「うふふ、ダメだよ、おいたしちゃ〜♪」

近代トレーニングを熟した彼の握力、俊敏、反射神経。野生の動物など赤子も同然。

首にかかる圧力。左前足にかかる痛み。

右方向に重心をずらしなんとかふんばる狼だったが、懐に入られたこの体制で子ウサギを振り払う事に四苦八苦する。

前足に力が入らない、爪も牙も届かない。

「秀ナイス〜♪」

兎より足遅くその場に到着した狼はこれより行う行動への歓喜に友を褒めていた。

完全に動きを止められた巨狼の横を通る狼は、急に足を止めた。

ニマっと笑いを浮かべ巨狼の脇腹に手を伸ばした。

(殺される!?)

野生の本能が叫ぶ。

野生にとって、体に触れる感触は、心許した家族。

もしくは捕食者。

このままやつらの爪と牙が己が身に降り注ぐことを覚悟した。その瞬間。

「モフモフだぁーーーーー!」

降り注ぐはずの牙爪も、降り注ぐことはなかった。

代わりに降り注いだのは手のひら。

己が体毛を掻き回される感覚。

懐に至っては子ウサギが顔を擦り付けてくる始末。

そしてそれを遠目で見る竜人。

(どうしてこうなった?)

もはや左前足への痛みは消え、ただただ体を蹂躙され呆然と立ちすくんでいる巨狼。

害意はないのか、隙を作っているのか。

そんな疑問を脳裏が過ぎる、が一向に攻撃される気配はない。

「おっと、そうだ、テイムできるんだっけ?」

思い出したかのように翔大は毛皮をさわる手に力を込めた。

「テイム!」

どうやって魔法を出すのか。テイムするにはどうすればいいか。本能が伝える。

(全然わからんが、これで良いのか?)

取りあえす言葉にしてみたものの実感がわかない。

成功したかどうかも一切わからない状況だったが、毛皮を撫でる手は止められなかった。


テイム、の言葉に他の二人の動きが止まる。

従属魔法と思われる。

「お、さっそく?」

「僕が捕まえたのに…」

下界に降りて初めての魔法。

期待に胸を膨らませる二人とムスッとした一人。

結果的に何も起こらなかった。

三人は『初期イベントでしょこれ、成功じゃん。』と思っていたのだ。

しかし世の中そんなにうまくいかないものでテイムは失敗。

おそらく成功しているのだろう、そう思った秀は力を緩めてしまう。

その瞬間、ハッとした巨狼は力一杯後退し三人との距離を取ることに成功した。

「あっ…」

誰ともなく残念そうな声を出す。

なにが残念なものか、体を蹂躙された巨狼はその声を聞いたか聞かぬか踵を返し元来た茂みへと帰っていった。

「あのくらい大きいペットが欲しい…」

「わかる…」

「わかる…」

どれが誰の言葉だったろう。三人の心は一つであった。


「うーん、あのくらいならもっと捕まえられてたかも…」

ウサギの秀は顎に手を当てぶつぶつ独り言。

野生の動物に触ることのできた狼は満足げな顔をしていた。

毛並みが良かった。

お腹が柔らかかった。

雌だったな。

など、思いふけるように。町への道を進んで行った。

そんな折、今回何もできなかった竜人は悩むところがあった。

あのまま二人に任せていて良かったのだろうか?

自分もどういう形であれ参加するべきだったのでは無いか?

ウサギの真似をしているわけでは無いが、自分の顎をさすりながら街へと向かう二人に続いて歩みを進めるのだった。


と、そんなときだ━━━


ガサガサ!


またも茂みから音がする。

まさかと思い立ち止まる三人の前に、つい先ほど逃げ出した白狼が姿を表したのだ。

竜人は思う。(ん?まさかまた…?) 

狼は思う。(俺のゴッドハンドに魅了されたか?)

ウサギは思う。(あ、また狼さんだ♪) 

三者三様…?のおもい。しかし現れた白狼をみれば、その刹那迫りくる巨体。

(まずはウサギだ!)

そう思い駆けてくる白狼。

ウサギもそれを察したのか、一歩二歩と距離を縮めた。

牙がダメなら爪。

先ほどの失態を学習し、攻撃の方法を変えてきた。

体の大きさ、突進力、そして腕力。

小さなウサギに劣るところは、なに一つない。

高慢ではなく長年の経験と自信による白狼の右腕は子ウサギへと伸ばされた。

(死ね!)

お互いに距離を詰めていた二人。

距離を詰めていた?

白狼は一瞬不思議な感覚を覚える。

小さきもの、脆弱なもの、それは自分から遠ざかり逃げ出すもの。

向かってきたものは、体が大きく、力にあふれたものだけだ。

こんなに小さな、それもウサギが向かってくる?

またも近づくのか。馬鹿にするなとばかりに右の前足をウサギへと振り下ろした━━━



━━━━━━━━━

後に陸斗は語った。

「え?爪が当たるかって?」

机に置かれたハーブティーを一口すすり、遠くを見たのだ。

巨大な狼をまえにした小さなウサギ。

誰が聞いても結果は明らか。

狼の餌食になるウサギ。

殴ら、踏まれ、噛み砕かれる予想は安易にできる。

ハーブティーのカップを机に置いた竜人はさも当たり前のようにいった。

「いやいや、ないない。秀ってウサギはウサギの皮かぶった化け物なんですよ━━━」


━━━━━━━━━


降りかかる爪、襲われるウサギ、その光景をただただ蔑んだ目で見る二人。

右の爪が振るわれる瞬間に合わせた様に右手あげて迎えるウサギ。

二匹の獣が接触した瞬間だった。

己が体を反転させ、白狼の懐へと潜り込むウサギ。

それに対してなんの反応も出来ず力任せに爪を振るう白狼。

力こそ正義の野生は、それで間違ってはいなかったのだ。

が、相手が悪かった。

敵の力を利用する「合気」。

その存在を知らぬ白狼、それを使うウサギ。

ぎちっ、と握られた前足。懐に潜り込み背を向けるウサギ。

自分自身を梃子の支点とし、相手の突身力を殺さない様受け流し、ウサギの左足は白狼の胸を後ろ足で蹴り上げた。

「ラビット!フォ〜〜〜〜〜〜〜ル!」  

兎流対獣投術、逆釣奈落落とし。

ふわりと空に浮く白狼の体。目の前に地面が?

ウサギに迫っていたはずの体が急に向きを変え浮きあがる現象に気を取られただただされるがまま、地面と直角に持ち上げられる。

なにが起こっている?自分の体は?

白狼はその一瞬の出来事に目を白黒させた。

が、そんな余裕はウサギが許さない。

相手の力をそのまま利用した投げ。

捕まえた巨体を自分を軸として180度反転させたのだ。

ゴッ!!

大きな音を立て、背中を地面へと強打される白狼。

受け身、などという概念のない野生動物は、突進力と自重を利用された『投げ』により激しく地面へと叩きつけられた。

「ガッハ!!」

背中からの衝撃は一瞬で駆け巡り、その痛みで体を硬直させてしまった。

その瞬間、投げを放った秀は動いた。

スルスルと白狼の左前足の下へと潜り込み、下から肉球を握りしめるように両手を伸ばし、両足を二の腕に絡めればヘソを前に突き出して。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

叫ぶ白狼。

今までにダメージを受けたことがなかったわけではない。

殴られた、踏まれた、噛まれた。痛みに対する経験がないわけではない。

だが、白狼はこの痛みを知らない。

サブミッションは初体験。

関節をきめられる。こんな経験は今までになかった。皮膚を切り裂かれたり、強い打撃により骨を折られたり。

そんな瞬間的な痛さでは無い。持続的に締め付けるこの痛み。

関節が折れる直前の痛みがずっと続く。地獄だ。

「もう離さないぞ〜♪」

白狼の腕にしがみついた秀はその前足の匂いを堪能するように顔を擦り付ける。

「こいつ、さっきのでわかんなかったんかね?」

「まぁまぁ、動けないのならそれはそれで…」

今度は二人だ。

ウサギが動きを止め、残りの二人が近づいてくる。

前足を振りほどこうともがけばもがくほど痛みが強くなっていく白狼。

その視界に入った狼と竜を見て思う。

また、陵辱されてしまうのか。

その時だった。

「アオォーーーーン!!」

遠吠え。

これは白狼のものでも、ましてや狼獣人になった翔大のものでも無かった。

草むらから一頭の茶色い毛の狼が飛び出せば、それに続いて数頭の狼が姿を表す。

『あねさん!無事ですか!』

声が聞こえた。その瞬間、白狼の周りにいた三人は体が強張った。

話がわかる?それは神が言った「知性ある生き物」の判断材料。

「お、お前たち!くるんじゃ無いこいつらは化け物だ!」

白狼の放つ言葉、それは三人に理解できた。

毛皮を楽しもうとしていた翔大、陸斗。腕にしがみついていた秀。

それぞれが顔を見合わせ、立ち上がり頭をボリボリとかいていた。

気まずい、相手の言葉がわかってこんなにきまずい感情を持ったのは初めてだった。

少年たちはまだ神との約束を瞬時に思い出したのだ。ここで何かするわけにもいかないと、少し離れたところに座り込んだのだった。

しかし、前足の拘束を解かれるた白狼は続けた。

「逃げろ!そして生きろ!」

「あ、あねさんがいなくてどうして群れが成り立つんだ!?」

白狼と狼はお互いに見合い、言う。

すでに拘束を解かれたにもかかわらず仰向けのまま言葉を続ける白狼。

「私が引きつける…逃げるんだ…」

瞳に涙を浮かべながら仲間たちを見る。

一頭の狼の後ろに数頭の狼。

まだ体の小さな子狼確認できる。

「出来るわけねぇでしょ!あねさんがいなきゃ俺たちは…!」

二匹のやりとりを傍で見守る三人。

(これいつまで続くんだ?)

(もう、動けるんだけどね…)

(『知性ある生き物』の相手は結構面倒でござるな。)

小声で話し合う三人。

神から『知性ある生き物』は殺さないようにと言われている。

殺して創力を得るより生きて創力を出し続けてもらいたいからだと。

おそらく、他の者が見れば狼同士がギャンギャン騒いでるだけに見えるこの光景だが、

三人には神より授かった『知性ある生き物の言葉を理解する』能力が働いてことの成り行きが全て聞き取れるのだった。

「あの〜」

秀が声をかける

「ふふ、どうせならお前の子…産んでみたかったな…」

「あ、あねさん!…そ、そんな…」

二匹はお互いを意識した。

そして頬を染め視線を逸らした。

「あのーー!」

秀は声のトーンを少し上げた。

その声が聞こえなかったかのように二匹はゆっくりとお互いの視線を重ね合わせる。

「何ラブコメしてんだこらぁ!!」

この状況に一番耐えれなかったのは竜人の陸斗だった。

立ち上がり、白狼の元へと走り寄ればそのままの勢いで白狼を蹴り飛ばし狼の元へと。

「ぎゃうんんん!!!?」

「あ、あねさん!!こ、このクソトカゲ!あねさんをよくも!」

尊敬する白狼を足蹴にされ、唸る狼。

怒りの感情のまま三人へと襲い掛かろうとした瞬間。

「うるせぇんだよこの色ぼけ狼ども!俺たちはこれから始まる長い旅路に心踊らせてんだよ!なんで最初の最初で獣のラブコメみせられにゃならんのじゃボケェ!さっさと帰って交尾せぇや!」

「!!!!?」

その時だった。初めて言葉が通じることに気がついた。

二匹は顔を合わせそして三人の方へ振り返る。

なぜ言葉が通じるのか?獣には獣の言葉がある。それを理解する者がいることを狼たちは知らないのだ。

そんな怪しいものたちに唸る狼。

自然とは獲物を捕まえ、食らい、寝て、群を大きくするものだと認識している狼。

そこに立ち入れるものは野生を生きたもの。

そう認識していた狼達。

しかし、目の前の竜人の言葉が分かるのは解せなかった。

唸り声を上げ威嚇する狼だったが、陸とはそれに動じず続けた。

「テメェらが愛し合ってんなら、他に迷惑かけずに愛はぐくめよ!こちとら忙しいんだよ!」

『あ、愛し合うなんて、そんな…』

『お、俺はあねさんを尊敬してるだけだし…』

二匹の獣は竜人の言葉を意識したのか、お互いの顔を見ることなく明後日の方向を向いて呟いていた。

もじもじとした獣二匹。その姿を見せられる三人。

なんだ、この状況?

三人は一斉にあきれ返ったが、竜人はその中に怒りを覚えていた。

そして、茶色の雄狼を指差して言った。

「そこの狼!その白いの好きなら連れ帰ってさっさと子作りでもなんでもしろよ!そいつ嫁にして、さっさと俺たちの前から消えろ、こっちは忙しいんだよ!」

狼達を指差しながら大声で怒鳴る陸斗。

その言葉に、白狼をチラチラと見ながら狼はいう。

『お、お前達が何もしないと言うなら…』

プライドでもあるのだろうか、あくまでも相手の都合を言い訳にしているような物言い。

「しねぇよ!むしろ関わんな!」

狼と白狼はお互いを意識するように視線を交差させて、奥の茂みへと姿を消していったのだった。

そして三人の前から姿を消した群れ。三人は一息ついて。

「なんだったの今の?」

「神様が用意したイベントって感じじゃなかったな」

誰からともなくため息が漏れた。

ともあれ、三人は神様の示した方向へと向かって足を向けるのだった。


数分後

『あ、あおぉぉん!』

遠くからなんか変えが聞こえた━━━━

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