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1ー5

1ー5、二時限目、魔法

「はぁ〜い、先生」

『う?』

これから転送を行おうとした神の手が止まる。

青い狼、翔大が手を上げていた。

「魔法の概念ってなんですか?体内の魔力とか外的要因とかあるんですか?」

『そ、そういうの、現地で学んでくれないかな?』

神は今すぐにでも三人を招待したい気持ちだった、そこの出鼻を挫かれ握る拳が震えている。

しかし、ここは神として?大人?な対応を取ろうではないか。

剣も魔法もない世界から移住してもらうのだ、知らないことに関してははっきりと答えておこう。


魔法、それは森羅万象を司る技法。

なにもない空間から氷や炎を表す。

なにもない大地に命を息吹かせ、大空を舞い光と闇を反転させる。

「お、おぉー!?」

兎と竜はくい気味に前にのめってい。

「いや、そういう大まかな説明じゃなくて、何ができるのか具体的にお願いします。」

が、狼は冷静だった。

先ほどの『キャラクリメイト』の場で、よくわからないながらも夢を託して魔法へと全振りした狼だったがそれが何を意味するものなのか、完全に手探りの状態で野に放たれるのは自分の可能性を知らしめてくれないことに思えたからだ。

『具体的に…』

神は悩んだ。

自分の世界の常識と彼らの世界の常識はどれほど食い違っているのだろう。

地球の現状は知っている。

文明が発達し、空を飛んだり、海の上を行き来し、地上を駆け巡る鉄の塊などが存在し、遠距離での通信、世界中が一つの塊のような世界。

魔法などに頼ることなく生活ができている世界。

『えと、ヒコウキ?の代わりに空を飛んだり…』

「ふむ」

『医術もあるけど、魔法で回復したり…』

「ほうほう」

何も興味を示さないように相槌を打つ狼の姿を見ていた三人。

(あれ?まさかここまできて、断るのか!?)

生まれ変わった姿で一旗あげたいなんて思っていたふたりと、どうにかして自分の世界に来てもらいたい神。

他の世界なら、もっと強引に、一言かわすくらいで招き入れている状況。

が、この神は違った。

お人好しな性格もあるが招待客に断られるとそれを受け入れなければならないほどに弱い存在なのだ。

自分の世界を形成してから、役十万年。五十億年以上活動している地球の神の子たちには同様、もしくはそれ以上の知識や力があるのだ。

そこで神は言った。

『あ、あと、主従関係を結んだり、魔石に力を注いで持続的に使ったり…?』

「あいわかった!」

何がわかった?

三人はまたも同時に狼へと視線を飛ばした。が、狼は一人ほくそ笑んでいるだけだった。

なにか、大事なことでも聞いたのだろう。

俺の勝ちだ…、ぶつぶつと独り言を言う狼にドン引きする三人。

絶対悪いこと考えてる。

三人は直感した。そんな状況など知らぬ存ぜぬ狼翔大。

「よーし、転送よろしゅうに!」

パン、両手を合わせて懇願する狼に一抹の不安を覚える神。

何を目的として自分の世界に来るつもりなのだろう。

『一応言っておくけど、魔法は万能じゃないからね?なんでもできるって思わないでね?』

神の言葉が届いているのかいないのか、翔大は不敵な笑みを漏らしていた。

頭の回転が速い翔大、今後生きていくストーリーをすでに頭の中に思い浮かべているのだろう。

たまにうっすら笑い声が聞こえてくる。

(だいちゃん、絶対変なこと考えてると思う。)

(うん、同感。)

ヒソヒソと陸斗と秀は話し合っていた。

だが、どんな思惑を抱いているかまでは予想できるはずもなく、不安を抱えるだけであった。


『さ、さて、そろそろ準備はいいかな?』

もう、送り出したい神が急かしている。

「あ、最後に」

そんな神の心情を意にも返さず質問の挙手をする翔大。

「机の奥にしまった薄い本!バレませんかね!?バレますよね!?」

ほんとに個人的な意見だった。

コミケや通販などで集めたコレクションの数々。今思えば持参したかったほどの一品揃い。

青少年の汗と涙で買い揃えた一品は、一般向けではないものが揃い。

地球からいなくなるとしても、その存在を公にされるのは後ろ髪を引かれる思いなのだ。

『………』

その「薄い本」とやらの事は神の知識になかったものの、何やら公表されてはいけない秘密であることは察しがつくようで。

『あー、そのへんは大丈夫。地球の神様が君たちの存在自体なかったことにしてくれる手筈だからね。』

『神様すげぇ!』

三人は同時に声を発していた。


もう、思い残す事はない。

これなら他の世界で自由に振る舞える。

狼だけでなく、兎も竜もそう思った。

『じゃぁ、そろそろいいかな?』

『はーい、おっけぃでーす。』

ここも三人仲良く返事をする。

実はこの時、秀も陸斗も、翔大ほどではないにしろ、同じような後ろ髪は引かれていたが、何もなかった事にしてもらえるのならなんお後腐れも感じる事なく、異世界へ集中できる、と感じていたのだ。


『あ、そうだ!秀、ちょっとこっちに。』

「はい?」

言われるがままに髪の元へと足を進める秀。

何が起こるのかと傍観者の二人。

神は手を伸ばし秀の頭へと添えた。

『これは僕からの加護。身体能力向上の加護だよ。世界に一人だけの高みに登れるくらいのね。』

創造神の加護。唯一無二の能力。

地球にいた頃読んだことがあるさまざまな異世界転生の話。

その中に登場する「チート」能力。

そのことが頭をよぎる翔大と陸斗は思わず反論した。

「お、おい!ずりーだろ秀ばっかり!」

「拙者達には何もないんでござるか!?」

二人の反応を聞いた神は深々とため息をついた。

わざとらしく両手を上げ頭まで振って。

『僕が秀にあげたのは、身体向上の力。これは体の力を増幅させる力だよ?』

「じゃぁ、俺たちにもくれよ!」

ただでさえ身体能力、戦闘において、秀には劣る二人。それがますます開いてしまうことを危惧するからこその発言。

『この力は本人のそもそもの筋力を増加させるの。屈強な体に鍛えられた秀ならともかく、君たちに施したら中から弾け飛ぶよ?いいの?』

うぐぅ、二人は唸った。

そもそも天才的な格闘センスと恵まれた肉体をもつ秀。そして、平凡な肉体の二人。

神が言う体の基準からすれば、自分たちがその領域に達していないことなど、自分たちがよく知っている。

「で、でもよ。俺たちにもなんかあってもよくない?」

陸斗は食い下がった。せめて他に何か、余っているものは無いか。

残念ながら神の答えはノー。

そもそも創造神の力に耐えれる者などそう居たりはしないのだ。

しかし、その逸材を見つけたのだから、与えられるものは与えたい。

今後も贔屓にしていきたい。

神は秀の頭を撫でる手を離し、秀の腹に顔を埋めていた。

『だ〜いじょうぶ。秀について行けば安心安全だから。』

スリスリと顔を擦り付けられながら当の本人は頬をポリポリとかき、「ご、ごめんね」と二人に振り返る。

ぐむぅぅぅ!

二人の視線は特別な恩恵を受けた秀へと向けられていた。

『あ、そうだ。』

何かを思い出す神の言葉に顔が明るくなった。

「なんだ!?何思い出した!?」

「拙者達のもなんかあるよね!ねぇ!?」

食い気味に髪に近寄る二人。

吐息が顔にかかるほどに近さ。

期待の度合いが半端なかった。

『あ、う、えぇと。これ、みんなにあげるから無くさないでね?』

しどろもどろになりながら、神が提示したのは三つの小さなバッグ。

日本では見慣れない素材でできたバッグ。

一応もらっておこうと三人は腰へと巻きつけた。

『それは、僕の世界での通貨が発生するから絶対無くさないでね?』

通貨。金。

自動で生成されると言うことは何もしなくても収入が見こめるということ。

自身の体への付与ではなかったがそれでも二人は満足したのだった。

寝て暮らせる条件を手に入れたのだから。

「お、気が効くじゃん?」

「ふふ、存分に楽しもうでは無いか、お主の世界とやらを!」

二人は現金な性格だった。


『それじゃ、今度こそ!』

三人は身構えた。

これから始まる第二の人生。

自分の知らない世界への不安と興奮。

三者三様拳を握りしめてその時を待った。

『僕の世界へ、ようこそ!』

神が放った言葉と同時に、三人の視界は白い光で包まれ、体が消えていった。


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