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1ー2

1-2 扉が開いた


ゆっくりと階段を登っていく三人。

ここは雑居ビルだ人に見つかれば問いただされるだろう。

その警戒心は解くことなく一歩一歩階段を上がる。

その途中で気がついた、階段はまっすぐ前へと続いている。

普通なら階ごとに折り返しの踊り場があるはずなのに。

「やっぱり変だよ、戻ろうよ…」

1人が言った。

彼は佐伯秀、身長は190cm体重は90kgの巨漢。

大柄な体躯で柔道や空手など格闘技を部活としていた。

が、対人戦による。

不可思議な現象には滅法弱い。

「そうだぞ、まだ間に合うぞ?」

鬼龍院陸斗、彼はなんの変哲もない極々普通な高校生。

身長は170cm体重は60kgどこにでもいそうな体躯の一般人だった。

強いて言うなら売られた喧嘩は買わずにいられない喧嘩っ早い性格である。


階段を登ること数十秒。

あるはずのない空間へと辿り着く三人。

そこは何もなくただただ白いだけの空間だった。

「これは…漫画でよく見る『あの空間』!?」

声を出したのは眼鏡の少年。佐々木翔大。

陸斗とほぼ同背格好の少年だ。

もしかしたらもしかして、本当に異世界に行けるんじゃ無いかと半信半疑だったのだが、この光景を目の当たりにして少し興奮している。

異世界に行けるなんて、夢のようだと思うのだ。

その白い空間。よくよく見れば何もないわけではなかった、一人の人間らしき光る存在があった。

それは人の形をしたような光、顔は光が強いのかのっぺりとしていて確認できない。

『やぁやぁ、よく来てくれました。佐々木翔大君。鬼龍院陸斗君、佐伯秀君。』

光は声を放った。どこで知ったのか、三人の名前を呼ぶ。

ぎくりと身を硬らせるも、その言葉を聞いた瞬間三人はこの白い空間に取り残された。

今まで登ってきた階段が消えた。

いきなりのことに混乱する三人だったが光の主は淡々と話を進めて行った。

『えーと、僕の世界で暮らしてください、お願いします。』

頭らしき部分を下げる光。

どうやら首を垂れているような、そんな仕草が見受けられる。

僕の世界と言われた。

これが何を意味するものなのか三人にはまだ理解できるはずもなかった。

先頭に立って歩いた翔大が問う。

「だいぶ、雰囲気が違うな……」

『厳かな雰囲気って大事かなって思ってね。』

帰ってきた言葉は三人を唖然とさせた。

多少は無理矢理感のある物言いだった事に疑問を持っていたからだ。

失敗だったかな?と眉間にシワを寄せる翔大であったが、その横から陸斗が声を上げる。

着いてきただけではあったが、もし仮に地球とは違う場所へと誘われているのだとしたら。

「『僕の世界』とか言ってるけどどういう意味?おまえが神様で自分の世界に来てほしいとかいうわけ?」

当然ながら信じられることではなかった。

『自分の世界に』なんて言葉。そもそもここは日本だ、自分の世界なんてあるわけもなく

せめていうなら自分の土地くらいなもの。

法治国家なめんなよ、と言ったところである。

が。

『うんそうそう、ぼくは一つの世界を統べる神様とかっていう存在なのよ。』

三人はその言葉に胡散臭さしか覚えなかった、そして肩を落とした。

このご時世、自らを神やら神の使いなどと申すものは信用されないのだ。

この話をしているのは誰か?

何も分からないままの交渉をつづけた。

どうやら本人は『神』というらしい。

実際のところあやしい限りだ。

「僕たちを…どうしたいのさ?」

体の大きな彼は説いた。

実戦空手、柔道、若くしてその才を体現した男は今恐怖している。

この白い空間。

光る人物。

みるもの全てに現実味がない。

なんの目的で僕らを誘った?

そんな疑問が少年たちの脳裏を過ぎる。

『目的かぁ…僕の世界の人口を増やしたい、とか発展させたいとかからかな?』

人口を増やす?

今ここにいる三人で?

三人は思った。

(焼け石に水では?)

実際どの程度増やしたいのか、その辺はわからないがたった三人送ったところで…

『あ、僕の他にも募集かけてるから自分たちだけとか思わないでね?』

(お前の世界じゃないんか?)

三人は同時に思ったがここは大人しく説明を聞くことにした。

言ってる意味がよくわからないのは、こことは違う世界の神だからだろう。

『僕の世界はまだ出来たばっかりで、君たちのいた地球に比べると文明がまだまだ乏しい世界なの。そこに君たちの知恵や知識を持って発展に貢献してもらいたい、ってのが僕の希望なんだよね。』

えへん、と腰に手を当てふんぞりかえる姿。

お願いする立場なのになんでえらそうなんだ?と思うも口には出さなかった。

要は開拓民として移住してもらいたい、と言ったところ。

社会の教科書に出てきた屯田兵が脳裏を過ぎる。

「え、それって、どの辺の文明レベルからスタートなの?開墾から?」

翔大は聞いた。

ゲームで言うところのリアルタイムストラテジーゲームを思い出している。

小さな集落があって、資材を集めて街を発展させ、ゆくゆくは世界の覇権を握るという。

それをリアルでやらされるとなると流石に骨が折れるんじゃないかと心配した。

その思いに気づいたかどうかは定かではないが神は答えた。

『さすがにそこからではないよ。いろんな種族がそれぞれ国を持っていて、大きな街や小さな村も存在するし、武器もあれば魔法もあるし、生活に支障がないくらいには文明は発展してるさ。』

魔法という言葉を聞いた瞬間三人の目は輝いた。

「魔法!?どんな魔法あんの!?」

「火とか水とか出せたり、隕石落とせたりすんの!?」

「瞬間移動とか身体強化魔法は!?」

矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

年頃の少年は『魔法』という言葉に弱い。

想像力豊かな少年たちの言葉はいくつも飛び出し神を襲った。

『お、おう、あ、それは、ちょっと待って順番に答えるから。』

神ですら処理しきれない夢や願望の数々をぶちまける少年たちの勢いに後退り。

迫りくる少年たちにたじろぐも、そんな中一つの質問に首を傾げた。

「ところで…そっちの世界にいくとして、あの…見た目、変えたりできる?」

なにかと怯えていたはずの巨体の少年の何気ない一言。

もし、違う世界に移動できて違う人生を歩めるのなら。

親に先立たれ家族と呼べるものは同じ境遇の子供たち。

施設の職員。不幸を共にした子供たちと、仕事だからと面倒を見る大人たち。

その境遇、どうせなら一からやり直したい。そんな願望があった。

『え?お望みなら…?』

あっさりとした答え。

変えれるのか、この見た目。

神と名乗ったその存在からあっさり答えを聞いた三人は目を光らせ間髪入れずに発していた。

「俺、獣人!」

「俺、竜人!」

「僕、獣人!」

同時に発せられた言葉。

この三人コミケ等のオタク活動には積極的な部類。

夢みがちなのはお年頃だからだけではなかった。


神は思った。


(あ、この子達はダメな子なのかもしれない━━━━━)

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