この三人、実はケモナー
(ケモナー)男子高校生が異世界に誘われる
日本F県、学校帰りの学生三人がおりました。
学校帰りのいつもの道。
近道になる人気の少ない路地裏。
「なぁ、だいちゃん。バイト代入ったんでしょ?飯奢ってよ。」
金髪でピアスを3個あけた少年。
頬や腕に生傷が目立つ、今時珍しい不良はスマホを弄りながらいう。本人曰く『売られた喧嘩を買うだけ』とのこと。
「俺は時給680円でござるからな、贅沢できぬよ。コミケもあるし…てか、りくも髪黒くしてバイトすればいいじゃん」
それとは対照的な黒髪黒目、メガネをかけたどこにでもいるような普通の高校生は英単語帳を見ながら軽くあしらった。そして軽いオタクの気をもっている口調でもあった。
「二人とも前を見て歩いてよ。」
その後ろから歩くのは190センチはある体格のいい少年。
腕は太く胸板もワイシャツの上からでもわかるくらいに鍛えられていた。
路地裏を歩くのは近道というのもあるが、実際はこの目立つ二人と街中を歩くと自然と道が開ていってしまうのが恥ずかしいから、という黒髪君の主張によるものだった。
三人は小さい頃から施設で育った幼なじみ。
事故や事件などで親を亡くした子供たちが集う場所で兄弟のように育った仲だ。
三人はそれぞれ、勉学、スポーツ、喧嘩(?)の道を仲良く歩んできた。
路地裏を進む三人はとある雑居ビルのまえで不意に声をかけられた。
『お前たちは選ばれた、私の世界へこないか?』
その言葉は同時に三人へと届いた。
周りを見渡す三者。
頭の中に男の声が響いた、と感じる三者はきょろきょろとあたりを見回しつつ一緒にいる二人へと視線を向けた。
「…なぁ、なんかきこえんかったか?」
「なんか…ね?」
「え?え?僕だけじゃなかった?」
三人は一様にきょろきょろと辺りを見回していた。
どうやら自分一人が聞こえている声ではないようだ。
『来るか?来ないか?』
三人の頭にはまた言葉が響いてきた。
「……その、あんたの世界ってのはどんな世界だ?」
興味があるとでも言うのか肯定とも取れる発言をしたのは眼鏡をかけた少年だった。
眼鏡を中指で上げるような仕草をしながら返答を待つ少年。
が、金髪の少年はこの目に見えない事象にとまどっている。
「おい、何言ってんだ?どうせオレオレ詐欺の類だよ。」
「りく、オレオレ詐欺はそういうんじゃないから。」
混乱はしているが冷静さはかいていない巨躯の少年は冷静になるよう金髪の少年を宥めた。
(これは俺一人じゃない、周りの二人にも聞こえている。)
電波かなにか知らないがこの交渉に乗り気な姿勢を見せよう。
少年は思った。
なぜなら少年は少なからず恐怖している。
いきなり頭の中に声が響くなんて異常だ、ただの高校生がそんなものにすぐ対処できるはずもない。
断ったら何をされるかもわかったもんじゃない。
どうすればそちらの世界に行けるのかと。
疑いつつも疑われない微妙なラインを維持しようと瞬時に思った。
(この言葉は三人に聞こえている、が、まわりの人間の反応はない…)
人通りが少なく、さほど騒音もない。
しかし他に人が通らないほどさびれているわけでもない。
辺りを見回したがこの現象に振り向くものはいなかかった。
いくら田舎とは言え頭の中に声が響けば周りを見渡す者の一人や二人はいるだろうに…。
だが誰もいない。
友人二人がキョロキョロとあたりを見回しているが他の誰も声を気にかけるようなそぶりを見せていない。
確実にこの声は三人にしか聞こえていない。
「俺たちをお前の世界に連れて行ってどうするつもりだ?」
黒髪の少年は問う。
『………』
声の主は考えふけったのか呆れたのか、しばし沈黙した。
『我の世界の住人になってほしいと、いったところかな?』
その言葉には疑問符がうかぶ。
昨今、他の呼ばれるのは死んだ魂か神隠しに会ったかのように姿を晦ます事象
。
信用のしがいがない。
「…お前の世界?どこの国のことをいっているんだ?」
ありえない。
こんなことはありえない。
自分の世界でくらさないか?
そんなのは国の王、さらには神でもなければ発さない言葉だろう。
しかも脳内に直接響き渡るこの言葉。
なんらかの最新技術の標的にされているのだろうかと疑いがはれない。
『国……いや、世界。我の星?にきてほしいのだ』
三人はお互いの顔を見て眉間にシワを寄せた
『宇宙人?』
一斉に声を上げる
それ以外の言葉がおもいつかなかったのだ
『うーむ、そうでもあってそうでもない…なんというか、その…』
表現し難い事象は、自身のことを表現することがむずかしいよいだ。
おかげでますます困惑する三人。
自分の星に来てほしい=この星とは違う星=別の星=異星人。
「……いいぞ?」
肯定ととれる言葉が漏れた。
他の二人はぎょっと言葉を発した眼鏡の少年を見つめる。
(おい、なんでのりきんだ?)
(え…今流行りの異世界転生?でも、まだ死んでないし…?)
死=異世界転生。
そんなアニメばかりみていた。
死ななければ他の世界に行けない、それが当たり前とさえ誤認していた。
『ふむ、ようやく来てくれる気になったか?』
「どうかな…?ここよりいい世界ならかんがえてもいいな」
相変わらず信じるとも信じないともとらえられる言葉を放つ眼鏡の少年。
実際声がひびく。
目を瞑り少し考えた。
この声はたぶん信用できる、そんな気がした。
「んじゃ、案内してもらおうかな」
『!?!?』
残りの二人は同時にこう思った
(あ、行くんだ…)
『ふむ、そうかそうか…ではみちを示さねばな。そこの建物の階段をあがるがいい。』
そこの建物。
直ぐ近くにある雑居ビル。
裏口なのか階段が見えていた。
ここを登る?嘘だったら不法侵入だぞ?
だが頭の中に声がする以上従ってみるのもいいかもしれないと思う眼鏡の少年。
みずから先頭を切って階段を登り始めた。
「お、おい翔大いいのか?はやめにかえらねえと母さんたちに叱られるぞ?」
「そ、そうだよ…大ちゃん、帰ろうよ…」
『母さん』とは施設で面倒を見てくれる職員のこと。
実際のところ血のつながりはない。
だが自分たちを今まで育ててくれた恩はある。
金髪の少年が言葉を発し、それに伴って巨躯の少年も言葉を続けた。
━━━が、眼鏡の少年はゆっくりと階段を上っていった。