独りぼっちだった少女
「破壊神って何?」
マリアから話を聞いていないもも恵ちゃんは首をひねる。
「この世界で最悪の悪役だ」
もも恵ちゃんにマリアから聞いたことを説明する。
「あれが破壊神……」
「証拠があるわけではない。だがまず間違いない」
亜里香は周囲を畏怖を込めて見渡す。
「創造神が作り出したチート能力すらあざ笑うダンジョン。そんな趣味の悪い物を作れるのは、創造神と同等の力を持つ存在しか居ない」
「そう言われれば、このダンジョンが地獄の理由も良く分かる。
破壊神なんてふざけた相手じゃ、ぶち殺されるのも無理はない。
「奴はなぜここに転移者を送り込んでいると思う?」
「時空のはざまに囚われているから暇なんでしょ」
さすがの亜里香も、破壊神の思惑は分からない。
「色々話してくれてありがとう。礼を言う」
「こっちも話せて中々楽しかった。新しいご主人は話し上手の聞き上手で助かるよ」
亜里香は再び服を脱ぐ。
「契約の証として、この体を自由にしていいよ」」
「待ちなさい!」
もも恵ちゃんが俺の目を両手で隠す。見えない。
「もも恵ちゃん。目を瞑って向こうを見るから離れてくれ」
「ダメダメ! 一馬さんは黙ってて! 私が何とかするから!」
「この体勢だともも恵ちゃんの胸が後頭部に当たるんだけど」
「それくらい我慢して!」
俺が我慢するの!
「とにかく! 亜里香は早く服を着なさい」
「男は女の裸に喜ぶ。お前も飯が食いたかったら、早くその邪魔な服を脱ぎ捨てたほうがいい」
「なんでご飯食べるのに服を脱がないといけないのよ!」
「このダンジョンに食料や水は一切落ちていない。そうなると、生成チートを持つ一馬に頼るしかない」
「一馬さんはそんな酷いことしない!」
「馬鹿な女だ。そんな生意気な口だと、今日から飯抜きにされるぞ」
「あんた……一馬さんが信用できないの?」
「信用してるよ。だから服を脱いでる」
「全然信用してないじゃない」
「私を犯すと信用している」
「どんだけ人間不信なの?」
「一万年もここに居れば、お前だって私の言うことを信じる」
全然話が進まない。
「亜里香ちゃん、君の言い分は分かった」
「おお! ならもも恵も早く服を脱げ! ご主人がその気になってくれたぞ!」
「今の俺はそんな気分じゃないの!」
とんでもなく癖の強い子だ。
「男の汚い物を吐くほど見てきた君なら分かるだろ。男はその気にならないとやる気にならないって」
「おお! 確かにその通りだ!」
「今はそういう気分じゃない。だから服を着てくれ」
「裸の方がすぐにやる気になるぞ」
倫理観が壊滅している。
「俺はそういうのは嫌なの! 分からないなら追い出すぞ!」
「お、追い出す」
ガクガクと部屋に何かが震える音が響く。
「嫌だ……一人は嫌だ……なんでもする……犯しても殺しても良い……どんな酷い子としても良い……だから一人にしないで……お腹が空いたら食べても良いから……」
亜里香の力ない声が響く。
「なら、服を着てくれ」
「着る……着るから捨てないで……」
ごそごそと肌と布が擦れる。
それが終わると、もも恵ちゃんが手を離した。
目を開けるとガチガチ歯を鳴らす亜里香が居た。
「嫌なこと言ってごめんな」
「謝らなくていい……全部私が悪いから……だから置いてかないで」
かなりの重傷だ。
「しばらくベッドで休め」
「休む……休むから捨てないで」
話ができないほど憔悴する亜里香をベッドに寝かせる。
「置いてかないで……」
離れようと思ったら、ギュッと腕を掴まれる。
「一緒に寝ろと?」
「犯していいから……」
良くないね。
「落ち着くまで一緒に寝てあげるしかないんじゃない」
もも恵ちゃんは盛大なため息を吐く。
「……仕方ないな」
三十歳が中学生と一緒に寝る。バレたらとんでもない事態だが、非常事態と言い訳しよう。
「そっち詰めて」
俺が亜里香のベッドに入ると、もも恵ちゃんもベッドに入ってきた。
「なぜ一緒に?」
「亜里香が一馬さんに変なことしない様に見張る」
なら俺の隣じゃなくて亜里香の隣に寝るべきだろ。
「腕枕して」
もも恵ちゃんは俺など気にせずに、グイッと腕を引っ張る。そして脇の下に頭をのせる。
「亜里香にも腕枕してあげたら」
「淡々と言うな……」
試しに亜里香の頭に腕を差し込む。
「ふにゅ……」
亜里香は抵抗せず、俺の体にすり寄ってきた。
「亜里香の気持ち、ちょっと分かるな」
もも恵ちゃんは亜里香の顔を見ると、同情する。
「分かるのか?」
「さっき、一馬さんが一人で出て行ったでしょ。私、その間取っても怖かった」
ギュッともも恵ちゃんが体を密着させる。
「一馬さんが死んだら、私はモンスターがうごめく暗闇で独りぼっち。自殺したほうがマシだと思う」
「そこまでか」
「一馬さんは強いから分からないと思うけど、弱い私は耐えられないよ」
もも恵ちゃんは目を瞑る。
「一馬さんは、私のこと捨てないよね?」
「捨てるわけない」
「酷いことしない」
「だから一緒に生きたい」
告白を受けた気分だ。
「ちょっと寝るね」
「お休み」
もも恵ちゃんが目を瞑ると、二つの寝息が部屋を包む。
「両手に花。こんな状況じゃなかったら喜べるのに」
男にとって地獄ですよこれは。