不死身の少女
ぐっすり眠るとバッチリ目が覚める。
「くぅ~」
もも恵ちゃんは未だに爆睡中だ。
「しばらく寝かせるか」
美少女と同じベッドなのは心にも体にも良くて悪いが、心頭滅却すれば火もまた涼しなので気にしないようにする。
「敵と戦うか、逃げるか」
両手を頭の上に置いて、今後の方針を考える。
当面の目的はダンジョンから脱出すること。そのためには進む必要がある。
問題は、どうやって進むか。
具体的には、敵と出会った時、逃げるか、戦うか。
「もも恵ちゃんのスキルを使えば、敵と遭遇せずに済みそうだ。だがそうなると、探索できる範囲が狭くなる」
かと言って戦うのも気が引ける。戦っている最中に敵が集まってくるかもしれないし、もも恵ちゃんが怪我をするかもしれない。
「もも恵ちゃんは拠点に待機、というのはどうだろう」
もも恵ちゃんは戦闘要員ではない。だから後方待機の方がいい。
幸い、もも恵ちゃんの胴体探知機はスマホのアプリだ。だからスマホを借りれば、俺でも使える。
「私は一緒に行きます」
独り言を呟いていると、上目遣いで睨むもも恵ちゃんと目が合った。
「起きてたの」
「おかげさまでぐっすり眠れました」
一緒にベッドから起き上がる。
「本当に一緒に行くのか。危険だぞ」
「どこを拠点にするつもりですか」
「こことか」
「ドアをけ破ってくるかもしれません」
それを言われると弱い。
「結界を張って置くとか」
「一緒に行きます!」
力強く言われたので仕方なく頷く。
「飯食おう」
「ハムトーストッて作れますか」
「作れますよ」
ハムトーストと牛乳を作って朝食をとる。
「どうやって進みます?」
もも恵ちゃんは食べ終わると、興味津々といった感じに聞く。
「もも恵ちゃんはスマホで敵が居るか調べる。俺は周囲を警戒して進む」
「敵や罠はどうしますか」
「少数なら戦う。大勢なら逃げる」
「戦うんですか? 数日はマッピングに集中したほうがいいと思います」
「マッピング……」
そう言えば聞き忘れていたことがあった。
「ここの地図って表示できる?」
「表示できます」
スマホの地図を見る。
方眼紙を塗りつぶした感じに地図が表示してある。
「階段や扉が表示されてないね」
黒と白しかない。
「部屋や通路の名前もありません。部屋かと思ったら通路の一部、なんてことも」
「面倒な話だ」
だが指針を立てるには十分すぎる情報だ。
「敵がどこに居るか見せて」
「分かりました」
もも恵ちゃんがポチポチッと画面をタッチする。
「900メートル先に生物が集まっています」
「何匹」
「十匹です」
「モンスターの巣か」
放置が安定か?
「他に生物は?」
「今のところ見当たりません」
それは朗報だ。
「俺がモンスターの巣を覗いてくる。もも恵ちゃんはここで待ってて」
「一人で行くんですか!」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずだ」
もも恵ちゃんの頭を撫でる。
「ちょっと見てくるだけだ。すぐに戻ってくるから安心しろ」
「……必ず戻ってください」
涙目が可愛い。不覚にも萌えた。
「行ってくる」
もも恵ちゃんの地図を暗記した後、部屋を出る。
「いってらっしゃい」
もも恵ちゃんは健気に見送ってくれた。
「姿隠しの魔法と消音の魔法、それに体臭隠しの魔法なんてあるかな」
部屋を出ると隠密魔法を試してみる。
「サイレント、インビジブル、オードレス」
英語で適当にそれっぽいことを発音する。
すると体が透明になり、足音も消えた。体臭もしなくなった。
「よしよし」
全魔法取得を持っていて良かった。
もも恵ちゃんの地図を頼りに進む。
もも恵ちゃんのアプリは素晴らしい。地図の通りに進んだら、罠に一つもかからなかった。
「中の様子はどうだ」
部屋の扉の前で息を殺す。
中でくちゃくちゃ、ズルズルと音がする。
「何か食ってる」
扉を開けるのは危険だ。
「扉を透視すればいいのか」
できるか試してみる。
「千里眼」
すると扉が透明になった。
中では五匹の吸血鬼と、四匹のピエロが、少女を貪っていた。
「こういう展開は頭に来るね」
見過ごす訳にはいかない。
「時間停止なんて使えないかな」
試してみる。
「時よ止まれ」
念じてみたが、モンスターの動きは止まらない。
「時止めの魔法は無しか」
仕方がない、魔眼を使って奇襲しよう。
「部屋はそこそこ広いな」
剣を振るスペースはある。
「聖剣エクスカリバー生成」
スルリと光り輝く剣が生まれる。
静かに扉を開ける。
モンスターたちは食事に夢中だ。
「ぶっ殺してやるよ」
魔眼を発動し、弱体化させる。
「クキキキキ」
気づかれた。だが遅い。
モンスターに横一線。それだけでモンスターは真っ二つになった。
簡単に勝てた。これなら必要以上に怯えることも無い。
「これは……」
俺は助けた少女を抱きかかえる。
体中食われている。血も無くなっている。
死んでいるのは明白だ。
「蘇生魔法とかあるか」
試しに蘇生に関する英単語を片っ端から呟く。
しかし、魔法は発動しなかった。
「蘇生魔法はチートか」
全魔法を取得したが、できないことも多い。
こんなことなら、もっと多くのチートをもらっておけば良かった。
「どうすっかな」
少女の死体を放置するのは忍びない。できればどこかに弔いたい。
「ぅ……」
少女が突然、呼吸を始めた!
「ぁ……」
見る見ると傷が癒えていく!
「これは、不老不死のチートか」
驚く間にも少女の体は元通りになる。
「ここは」
数分後、少女は綺麗な体で目を覚ました。
「これを着ろ」
生成した毛布を被せる。
「あ、ありがとう」
少女は困惑したように毛布で体を隠す。
じっくり顔を見ると、見ない顔だった。
俺たちと一緒に転移した人ではない。
「君は転移者か」
「そう。お前も転移者?」
「そうだ」
一足先に転移した人間の生き残りが居た。
「君の他に誰か居ないのか?」
「皆死んだ」
少女は自虐的に笑う。
「俺は新庄一馬。君の名前は」
反応しずらいので別の話題に移す。
「私は佐藤亜里香」
「良い名前だ。よろしく頼む」
手を差し出して握手を強請る。
亜里香は顔を強張らせる。おっさんだから警戒したか?
「こいつらは首を切断しようと体を灰にしようと、すぐに再生する不死者だ。なのに倒れてる」
亜里香は床に転がるモンスターの死体に瞬きする。
「お前が何かしたのか?」
言葉遣いが荒い。
「俺は不死者殺しというチートを持っている。だから倒せる」
叱りたいが、今は我慢だ。
「まさかそんなスキルを持った奴が転移してくるなんて」
亜里香は俺の顔をじっと見る。
そして、諦めたように笑う。
「良いよ。好きにしても」
「は?」
亜里香は毛布を脱いで、素肌を晒す。
「犯されるのは慣れてる」
「慣れてるじゃねえよ!」
急いで毛布を被せる!
亜里香は美少女だが、もも恵ちゃんよりも年下だ。
胸は膨らみ駆け出し、腕も足も細い。
顔は幼っぽさが強い。
髪型はポニーテールで金髪。ハーフだろう。
とにかく美少女だ。
そんな子が変なこと言ったら、叫びたくなる!
「なんで慌てる? 男が女を犯すなんて当り前だろ」
びっくりされる。俺の方が驚きたい。
「まずは服を着ろ」
下着一式とワンピースを作成する。ダサいかもしれないが、我慢してもらおう。
「なあ」
服を手渡すと、亜里香が顔を上げる。
「向こう向いてる」
クルリと背を向ける。
「本当に犯さないのか」
「君はどんだけハードな人生送ってきたの?」
ここは予想以上に過酷なダンジョンかもしれない。