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二人で進む

 敵を倒して安全になった。だが油断はできない。

 もも恵ちゃんを抱きかかえて、急いで部屋に戻る。


「その姿は!」

 部屋に戻るや、インテリ含めて全員が動揺する。


「説明する」

 俺はもも恵ちゃんの背中を撫でながら、何があったのか話した。


「チートを持ってるのに全滅……」

 インテリ含めて全員が絶句する。


「敵もチート持ちだ。シャレにならない強さだ」

 俺は簡単に勝つことができた。だが軍曹含め、先発隊は何もできずに殺された。

 とんでもない速さだ。銃が撃てる、魔法が使える程度では接近に気づく前に殺される。

 さらに相手は不老不死だ。たとえ宇宙を吹っ飛ばせるような魔法が使えても、絶対に勝つことはできない。


「お前が先に進んで敵を倒してこい! 安全になったら俺たちも行く!」

 インテリは小便漏らしながら喚き散らす。汚い。


「俺一人だと?」

「俺は戦闘スキルなんて持ってない! 殺されるだけだ!」

 インテリの声に、周りも反応する。


「家に帰りたい」

「こんなことなら天国に行ってれば良かった」

 グスグスと泣き声が響く。

 心が折れてしまった。


「私も行きます」

 もも恵ちゃんは真っ青な顔で立ち上がる。

「大丈夫か」

 ついて来てくれるのは嬉しい。一人旅は寂しいし、女の子と二人っきりなら嬉しさ抜群だ。加えて彼女は俺にない感知スキルを持っている。とても心強い。

 だが、無理をして欲しくない。

 全力で守るつもりだが、守り切れる自信は無い。それくらいこのダンジョンはヤバい。


「大丈夫です」

 もも恵ちゃんは気丈な顔で、そっとスマホの画面を見せる。


 画面にはインテリなど部屋に居る全員のパラメータが表示されていた。


 その中に一つ、最悪の情報が載っていた。


 発狂の二文字だ。


 転移者の多くが、恐怖によって気が狂ってしまった。

 今は大人しいが、時間が経つと症状が進行し、暴れまわるだろう。


「分かった」

 俺はもも恵ちゃんを抱き寄せて、急いで部屋を出る。

「良いか! 安全になるまで戻ってくるな! 戻ってきたら殺すぞ!」

 インテリは俺たちが部屋を出るまで、目を血走らせて叫んだ。


「さっきの寝室に行って、作戦会議しよう」

「分かりました」

 もも恵ちゃんは顔色が悪いのに感知スキルを使い、周囲を警戒する。


「強いな」

「弱音吐いても殺されるだけです」

 力強い瞳でスマホを睨む。


「明かりが必要だな」

 俺はライトと呪文を唱える。すると通路が光で満たされる。

 さっきよりも視界が良くなった。


「凄いですね」

 もも恵ちゃんはスマホを見ながら褒める。

「まあね」

 もも恵ちゃんの前では取得したチートを見せても問題ない。存分に活用する。




「まずは血を落とそう」

 寝室に着くと、生成チートでたらいとお湯、タオルを作り出す。

「私もたくさんチートをもらっておけばよかった」

 もも恵ちゃんはベッドに腰を掛けると、無造作に服を脱ぎだす。


「く! 美少女の生着替え!」

 ガン見したかったが、仲が悪くなると困るので背を向ける。


「もも恵ちゃんはどうして複数のチートをもらわなかったんだ?」

 血だらけの服を脱ぐと、ゴシゴシと体の血を拭う。


「もらえるチートは一つだけだと思ったんです」

 後ろからもも恵ちゃんの声が聞こえる。振り向きたい。


「振り向いたらぶっ飛ばします」

「振り向きません」

 心を無にして体を拭く。


「一つだけ?」

「あの女神、説明してくれませんでした」

 なんてドジな女神さまだ。おかげで三十人死んだぞ。


「一馬さんはここに来る前はどんな仕事してたんですか」

 バシャバシャと服を洗う音が響く。

「俺はプログラマーだ」

「私と同じですね」

 なんやと?

「君は女子高生だろ?」

 歳を偽っていたのか。興奮を返してほしい。


「歳は偽ってません。高校一年生のときに起業したんです」

「その歳で起業したのか」

 雇われプログラマーで日々残業で安月給な俺とは雲泥の違いだ。


「どんな会社を作ったんだ」

「スマホゲームです。プリンセスオーシャンッて知ってます?」

「悪いが聞いたことない」

「でしょうね。残念ですが、人気が出なくてサービス終了しました」

 天才少女でも挫折はするか。


「それ以外はどんなゲームを作ったんだ?」

「作ったのはそれだけです。普段はフリーランスのプログラマーで学費稼いでました。主にアプリゲームのプログラミングをやってました」

「フリーランスか。俺とは大違いだ」

「一馬さんはどんなプログラムを作ったんですか」

「俺はしがない派遣プログラマー」

「派遣ですか?」

「会社の命令で他社に出向するんだ。今日はA社、明日はB社ってね」

「色々なプログラムが作れるんですね」

「ところが俺は自分がどんなプログラムを作ったのか全然分かってねえ!」

「自分の仕事なのに分からないんですか!」


 もも恵ちゃんの驚きの声が聞こえた。社会の汚さを知らない少女には、信じられない話だろう。


「ほんとほんと。何せ突然、このプログラム作れ。何に使うのか、なぜ作るのか、何の説明もなしにやれって感じ」

「そんなんで仕事になるんですか?」

「やるんだよ。できなくちゃ首だ」

「うわー」

 ドン引きされた。俺もドン引きする。


「それどころか、俺が稼いだ金は九割がピンハネされる」

「九割も!」

「200万の仕事なら、俺が受け取るのは20万。派遣の辛いところ」

「そんなんだったら辞めちゃえばいいのに」

「辞めるのも勇気が必要なんだ」

 辞める勇気があったら、俺はヒーローになっていただろう。


「一馬さんの趣味って何ですか」

 無言になるのが嫌なのか、積極的に話しかけてくる。


「スマホゲームが大半かな。あとはアニメとか小説とか」

「スマホゲームが好きなのに私が作ったゲームは知らないんですね」

「オッサンだからね。いろんなことできないのよ」

「怒ってません。女性向けのゲームですから」

 ようやく体とスーツが洗い終わった。


「鎧を作ったほうが良いか」

 スーツのままだと動きづらい。だが鎧も動きづらそうだ。


 だいたい、ここの敵に鎧は効果あるのか?

 さっきのピエロを見ると、あまり効果が無い気もする。


「音が出るな」

 鎧を着るとガチャガチャ音が鳴る。そうなると敵に気づかれやすくなるかも。


「一馬さん! 聞いてます?」

「聞いてるよ聞いてるよ!」

 もも恵ちゃんに怒られたので反射的に嘘を吐く。


「じゃあ私が何を言っていたのか言ってください」

「じゃあ私が何を言っていたのか言ってくださいと言った」

「やっぱり聞いてなかった!」

 ふんと鼻を鳴らす。


「ごめんごめん。考え事しててさ」

「もういいです!」

「怒るなって。今度はちゃんと聞くから、何を言っていたのか言ってくれ」

「私の趣味はアニメとゲームと読書ですって言ったんです」

「俺と同じだ」

「でも世代と性別が違うから絶対に相容れません」

 なんてこったい。


「もも恵ちゃんは洗い終わった?」

「洗い終わりました」

「バスタオルそっちに投げるから受け取って」

「こっち見ないでくださいね」

 見たいけど見ませんよ。


 もふもふのバスタオルを後ろに放り投げる。


「ありがとうございます」

「そっち見ていいか」

「ダメです」

「はいはい」

 腰にバスタオルを巻いて、地べたに座る。


「もも恵ちゃんは服とか鎧とか居る?」

「鎧も剣もいりません。そういったスキルは一切持ってないので」

 華奢な女子高生が、数十キロの鎧やら剣を持ったら、倒れてもおかしくないな。


「一馬さんは鎧や剣を見に着けないんですか」

「剣は狭い通路だと触れないから要らない。鎧はガチャガチャ音がして気づかれやすくなりそうだから着ない」

 剣術関連のスキルがまるで役に立たない。武術関連のスキルを取っておいて良かった。


「銃は作らないんですか?」

「発砲音で敵が集まってきそう。あと、あいつら、弾丸避けそう」

 つか絶対避けるだろ。あのピエロと戦ったから確信がある。

 あいつは下手すると、弾丸よりも速かった。


「最悪の場所ですね」

「全面的に同意するよ」

 しかし、悲観に暮れている暇もない。

 進まないと始まらない。


 ピトッと背中に温かい感触がする。


「もも恵ちゃん?」

「こっち向かないでください」

 なぜかもも恵ちゃんが俺の背中に寄りかかってきた。


「一馬さんは、どうしてここに来たんですか?」

 声のトーンが暗くなる。

「言いづらいことを聞いてくるね」

「ごめんなさい。言いたくなかったら言わなくていいです」

 そんな暗い声を出されると困る。


「俺は交通事故。歩道を歩いていたらトラックが突っ込んできやがった」

「交通事故ですか」

 もも恵ちゃんがグッと俺の背中に体重をかける。


「私も交通事故です。家族と旅行中に、子供が飛び出してきて。父は避けるために急ハンドルしたんです。そしたら、ここに来ました」

「災難だな」

 親御さんはどうしたんだろう?

「両親はどこに居るか分かりません。もしかすると、生きているのかも」

 何とも言えない話だ。

「生きていたら良いな」

 それくらいしか言えない。

「そうですね」

 もも恵ちゃんが大きくため息を吐くと、静寂が訪れた。


 それからどれくらいの時間が経っただろう。

 とてつもなく眠くなったのは覚えている。


「眠くなってきた」

「私もです」

 俺たちはのそのそと離れ、服が乾いているか確認する。

 乾いていた。


「飯食って寝るか」

 着替え終わるとハンバーガーとコーラを生成チートで作り出す。


「食べ物まで作れるんですね」

 もも恵ちゃんは目を輝かせる。

「何が食いたい」

「同じ奴で大丈夫です」

 ハンバーガーとコーラを作ってもも恵ちゃんに渡す。


「いただきます」

 二人して手を合わせる。そして食べる。

「美味しい!」

 もも恵ちゃんは初めて、満面の笑みを浮かべてくれた。


「いくらでも食っていいぞ」

「はい!」

 パクパクと食べ続ける。

 これくらい食欲があるなら、とりあえず大丈夫だろう。


「ダメだ! 眠くてヤバい」

 大あくびすると、結界が張れないか試してみる。


「結界発動」

 すると、部屋が淡い光に包まれる。

「何をやったんですか?」

「敵避けの結界を張ってみた。どれくらい効果があるか分からないが、やらないよりマシだろ」

 生成チートで掃除機を作り、ベッドの埃を吸い取る。このまま寝ると服がヤバい。


「そっちの埃も取る」

「お願いします」

 ズズッと埃を取る。

 綺麗になった。


「疲れたから、今日はもう寝よう」

「おやすみなさい」

 ベッドに入ると明かりを消す。


「想像以上に疲れた……」

 横になるとスッと意識が遠くなる。


「一馬さん……起きてますか」

 うつらうつらしているともも恵ちゃんが話しかけてきた。


「ああ……おきてるよ」

 半分寝てる状態だ。

「そっちへ行っていいですか」

「うん……いいよ」

「ありがとうございます」

 もぞもぞっともも恵ちゃんがベッドに入る。


「え!」

 なぜ俺は美少女女子高生と一緒に眠る!

 俺だって男だよ! 我慢できないよ!


「怖い……」

 もも恵ちゃんが抱き着いてきた。体はブルブル震えている。

「……大丈夫」

 ここで襲ったら鬼畜だ。我慢しよう。

 そもそも、怯える女の子は苦手だ。


「一馬さん」

「なんだ」



「変な臭いがします」

「ごめんそれ加齢臭」

 俺も歳とったな(涙)。

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