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チートがさく裂

 慎重に慎重に歩を進める。

 今のところ、四人に不審なところは無い。


「扉だ」

 緒方さんが足を止める。十分ほどすると、右手に扉が現れた。

「慎重に進もう」

 緒方さんが扉に耳を当てる。


 行動力がある。リーダーのような感じだ。


「物音はしない」

 緒方さんはドアノブに手をかける。

「私が先に進みます」

 もも恵ちゃんは横入りして、ドアノブを掴む。


「危険だ」

 俺はもも恵ちゃんが心配だったので止める。

「そうそう! もも恵ちゃんは俺たちと一緒に待ってようぜ」

「その方がいい」

 晃と一は下心丸出しで止める。


「スマホの明かりが必要だと思います」

 もも恵ちゃんが目配せしたので、さりげなくもも恵ちゃんの後ろに並ぶ。

「俺がもも恵ちゃんと一緒に部屋に入る。何かあったらすぐに知らせる」

 三人に振り替える。


「なら、お願いしよう」

 緒方さんは深々と頭を下げる。ヤクザの親分には見えない。

 他の二人は犯罪者に見えるが。


「開けます」

 もも恵ちゃんはドアノブをゆっくり回す。

 後ろからちらりともも恵ちゃんのスマホ画面を見る。

 地図? のような物の上に、ピンピンと光が点滅していた。


 おそらく人間や敵に反応する感知アプリだ。

 目前の部屋に反応が無いところを見ると、部屋の中はとりあえず安全らしい。


 ガチャリ! もも恵ちゃんがドアノブを捻ると、大きな音が鳴る。

 もも恵ちゃんがドアを押すと、ギギッと鈍い音が鳴る。


「敵は居なさそうです」

 もも恵ちゃんはこちらに振り向くと、三人をチラリと見る。どうやら俺と二人きりになりたいようだ。


「もも恵ちゃんと一緒に中の様子を見ます。三人は通路の警戒をお願いします」

「ええかっこしが」

 晃が肩を竦める。

「俺の筋肉に任せろ!」

 一は腕まくりして力こぶを作る。

「良いじゃないか」

 緒方さんはやんわりと二人を止めた。


 緒方さんは紳士的だが、何となく作っているように感じる。

 なぜかは分からないが。


「先に入ります」

 もも恵ちゃんが中に入ったので、急いで後に続いた。


 部屋の中は、寝室だった。

 ベッドが三つ、本棚が二つ。机もある。


「ダンジョンにベッドがあるとは」

 ベッドに手をかける。埃が舞う。

 何年も使われていないようだ。


「一馬さん。ちょっと伝えたいことがあります」

 もも恵ちゃんが耳打ちしてきた。


「なんだ?」

「多分、先に出て行った人たちは死んでいます」

 ドキッとする。


「なぜ分かる?」

「胴体感知アプリです。私たちと部屋に残った人たち以外、反応がありません」

 最高のアプリだ。天才だね。

 知らせは最悪だが。


「どこで死んだのか分かるか?」

「ここから十分くらい歩いたところです」

「なぜ距離が分かる?」

「ここに来た時から、ずっと感知スキルを発動させていました」

「なるほど」

「ちなみに、反応が消えた場所は全部同じです」

 ここから十分歩いた先に死地が待っている。


「俺だけに伝えた理由は?」

「三人に伝えたら、晃さんは私たちを洗脳します。緒方さんは拳銃で私たちを脅します。一さんは私を連れ去ります」

 ありえそうだ。


「もも恵ちゃんは罠の有無とか分かるか?」

「一応分かります」

 もも恵ちゃんは画面をスライドさせると、違う画面になった。

 先ほどと同じく、地図? のようなものが表示されている。そこに何個か、光が点滅している。


「そこに罠があるってことか」

「そうです」

 中中に参考になった。


「ちなみに、アプリの効果範囲は把握してる?」

「範囲は一キロメートルです」

 十分な範囲だ。


「先発が死んだと思われる場所に着いたら、静かに三人と離れよう」

「一緒に進むんですか?」

「緒方さんと晃はヤバいスキルを持ってる。逃げたら何をされるか分からない」

 時間操作相手に逃げられるか不安だ。下手すると殺される。


 先発が死んだと思われる場所なら、目くらましになるはずだ。


「分かりました」

 もも恵ちゃんが頷いたので一緒に部屋を出る。


「何かあったか」

 緒方さんが開口一番に言う。

「寝室だった。罠とかは無い」

「休憩できるということか」

 三人はあまり興味が無いようだ。

 先発の様子が知りたいのだろう。


「行きましょう」

 もも恵ちゃんと一緒に先に進む。三人は後から追いかける。


「緒方さん、さっきは俺たちと並んで歩いていたのに」

「ここが想像以上に危険だと直感したんです。だから私たち二人を先に進ませています」

 食えない爺さんだ。




 十分程度歩くと、変な臭いで足が止まる。

「血の臭いだ」

 緒方さんは舌打ちする。

 血の臭いと分かるなら、もも恵ちゃんが言ったようにヤクザの可能性が高い。大穴で医者か?


「二人とも、先に進んでくれないか」

 緒方さんと晃、一が険しい顔になる。警戒心と恐怖心が隠せなくなった。


「行きましょう」

 もも恵ちゃんが腕を掴む。顔色は真っ青だ。

 やはり女子高生だ。

「俺から離れるな」

 俺自身、小便漏らしそうだったが、もも恵ちゃんには勇敢な姿を見せたかった。


 それから、ゆっくりと歩を進める。


 血の臭いで心臓がドクンドクンと脈打つ。静けさで耳が痛い。


「きゃあああああああ!」

 もも恵ちゃんが足元に転がる物体を見て悲鳴を上げる。


「軍曹!」

 軍曹の首が転がっていた。目はカッと見開いている。

 何があったのか、分からないうちに殺されたようだ。証拠に薬きょうが無い。

 銃を撃つ暇もなかった。


「先に進め!」

 緒方さんが怒鳴り声とともに、懐から拳銃を取り出す。

 もも恵ちゃんは本当のことを言っていた。


「分かった!」

 急いで振り向く。

 そしてもも恵ちゃんの目を隠す。


 晃は洗脳スキルを持っている。目を見るのは不味い。


「晃と一の様子も変わったな」

 武術を極めているためか、後ろの様子が手に取るように分かる。


「一さん、ヤバいッすね」

 晃は一の肩を叩く。

「そうだな」

 一は不用心に晃と目を合わせる。


 その瞬間、一の目から光が消えた。

 洗脳だ。盾にするつもりだ。


「一だけ洗脳したか」

 晃は緒方を洗脳しなかった。銃を持っているため刺激したくなかった。プラス、強力なスキルを持っているため、洗脳したくなかった。

 洗脳したら、スキルを発動してくれるか分からない。そう考えると、英断だ。


「しかし、地獄絵図だぜ」

 軍曹の首をまたいで進むと、続々と死体が転がっていた。

 ゲーマーも首を切断されていた。

 柔道家の女性は体をバラバラにされていた。

 クソガキは喉を押さえて、涙目で息絶えている。


「吐くなよ……吐くなら部屋に戻ってからたっぷり吐け」

 こみ上げる胃液を飲み込む。

 下を向いている間に殺されるかもしれない。


「うう!」

 もも恵ちゃんはスマホで前を照らし続ける。口元を押さえて吐き気をこらえる。それだけで精いっぱいの様子だ。

 アプリを使う余裕は無い。


「何か来ている?」

 遠くから風キリ音が聞こえてきた。だが足跡はしない。


 風キリ音は鋭さを増して、こちらへ近づいてくる!


「全員伏せろ!」

 もも恵ちゃんと一緒に血だまりに飛び込む。


「は?」

 三人は間抜けに口を開ける。


 次の瞬間、晃の首が飛んだ。


「こ、こいつは!」

 緒方は晃の首から噴き出す血を浴びながら、必死に銃を振り回す。


 そして、後方に立つ敵を見つける。


「クキキ」

 敵は、真っ黒なピエロだった。両手には鋭いナイフを持っている。ナイフは血に濡れている。


「ク」

 ピエロは俺たちを小ばかにするように、首をかしげた。


「時よ止まれ!」

 緒方が呪文を唱える。

 次の瞬間、ピエロはハチの巣になっていた。


 緒方は時を止めている間に、ピエロを撃った。

 証拠に、緒方の銃から煙が立ち上っている。


「てめえ! なぜ敵が来てることを言わなかった!」

 緒方は興奮した様子で、俺に銃を向ける。


 緒方の後ろでピエロが倒れる。


「伏せろって言っただろ」

「うるせえ!」

 興奮状態だ。聞く耳持たず。

 危険を覚悟で、逃げるしかない。


 そう思った時、ハチの巣のピエロが、音を立てずに起き上がる。


「おいおい……」

 ピエロの傷は綺麗に塞がっていた。

 強力な治癒能力持ちか? だが脳天を撃ち抜かれていたぞ?


「緒方さん。時を止めて振り返ったほうがいい」

「ああ?」

 緒方は怒りの顔で振り返る。


 ピエロは緒方が口を動かす前に、緒方の体をバラバラに切り裂いた。


「ひぃいいいいい!」

 一は洗脳が解けるや、一心不乱に、来た道を引き返す。


「クキキキキ」

 ピエロは一を笑うと、一に向かってジャンプする。


 一は悲鳴を上げる間もなく、頭を真っ二つに両断された。


「は、は、は」

 もも恵ちゃんは俺の腕の中で震える。息もできない恐怖だ。

「安心しろ」

 俺はもも恵ちゃんの頭を撫でて立ち上がる。


 耳を澄ます。今のところ、敵の気配は目の前のピエロだけだ。

 ならばこいつを倒すことに集中する。


 拳を構えると、自然にステップを踏み始める。まるでキックボクサーだ。

 あらゆる武術を極めたってチートが役に立った。


「一つ、お前に言っておく」

 俺は気持ちを落ち着かせるために軽口を叩く。


「クキキ」

 ピエロは大きく体を揺らす。


「お前が無双してどうするんだよ!」

 チート持ちの転移者相手に、敵が無双する!


 ゼラが言っていたのはこのことだった!


「クキキキキ」

 ピエロは風のように飛んでくる。


 俺は魔眼でありったけの状態異常をかける。

 ピエロの動きが鈍くなる。


「スローすぎて欠伸が出るぜ」

 間合いに入ると、考える前に左ジャブを放つ。間髪入れずに右ストレート。止めに左のハイキック。

 流れるような動きだ。


「グキ」

 ピエロは首の骨が折れると、ぐにゃりと倒れた。


「立つか」

 緒方の件があったため、しばらく拳を構える。

 数分経っても立ち上がらない。


 ちゃんと殺せたようだ。


「そうか……ここの敵は不老不死なんだ」

 一息ついたところで、ゼラを思い出す。


 奴は不死者殺しのスキルがあると分かると、俺に感心した。

 なぜか分からなかった。だが、ダンジョンの敵が不老不死なら、感心した理由が分かる。


「チートだからと油断するな、か」

 こっちがチート持ちなら、敵もチート持ち。


 ふざけた展開だ。

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[一言] まず筆者様のお名前が気になってクリックしてしまいました。 私も猫大好きです。 スロー過ぎて欠伸がでるぜ。素敵なセリフです。 これから気になる内容でしたので評価やブックマークをさせて頂きました…
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