表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

五人の嘘つき

 赤い通路を進むと、赤い扉が現れる。

「どこまでも趣味が悪い」

 扉をカチャリと開けて先に進む。


 扉は俺が先に進むと、煙のように消えた。


「おせえぞ!」

 茶髪の学生が突然食って掛かる。


「悪かった」

 言い争うのも面倒なので流す。


「ここは、ダンジョン?」

 壁や床、天井は石造りだ。埃臭いし、燭台も電灯もない。

 誰かが光を生み出す魔法で、照らさなければ、真っ暗だっただろう。


 観察すれば、扉が一つだけ見える。あとは何もない。


 俺たち百人は、ダンジョンの一室に飛ばされたらしい。


「あの女はなぜこんなところに我々を飛ばしたんだ?」

 学者風の男が眼鏡をくいっと上げる。頭がよさそうだ。錬金術のチートを持ってそう。


「魔王の本拠地かも」

 可愛らしい女子高生がブルりと震える。

 セーラー服の前が盛り上がるくらいおっぱいがデカい。スタイル抜群だ。

 長い黒髪も美しい。

 どんなチートを持っているか分からないが、警戒心が強いから、探知系のスキルを持っていそうだ。


「ならさっさとぶっ飛ばしに行こうぜ!」

 茶髪の学生はやる気満々にシャドーボクシングを始める。こいつは喧嘩に関するチートか?


「色々情報収集したほうがいいかもしれない」

 大学生風の男は身長に部屋を見渡す。ゲーマーかな。この手のダンジョンには慣れていそうだ。もしかすると俺みたいに複数のチートを持っているかもしれない。


「さっさと先に進もうぜ!」

 茶髪の学生は警戒心もくそもなく喚く。

 こいつはクソガキで良いな。


「情報収集が先だ」

 軍服を着る男がクソガキを睨む。自衛隊か?

 武器に関するスキルを持っていそうだ。


「ち」

 クソガキは舌打ちすると静かになる。


「皆で部屋を調べよう。何かあるかもしれない」

「罠には十分警戒しろ。怖いとおびえるものは部屋の中心で待機だ」

 大学生風の男と軍服を着た男が皆に命令する。


 大学生風の男はゲーマーと呼ぼう。

 軍服の男は軍曹と呼ぼう。


「私は怖いからここに」

 女子高生は恐る恐る部屋の中心に立つ。あとで名前を聞こう。


「私も怖いから」

「よく分からないから任せる」

 女子高生に続いて、半分以上の転移者が部屋の中心に集まる。


「俺はどうするかな」

 じっくりと考える。


 アニメや小説と展開が違う。だからあれはいったん忘れよう。


 今の俺はよく分からない状況だ。

 チートを持ったらダンジョンに迷い込んだ。

 おまけに俺はよくよく考えると、たくさんチートをもらったが、使い勝手が分かっていない。

 どんな魔法が使えるのか? 武術をマスターしているがどれくらい強いのか? 分からないことだらけだ。


 止めとばかりに、他の転移者が何を考えているのか、どんなチートを持っているのか分からない。

 協力できるのか、それとも仲違いするのか、予測できない。


「現状、揉めるのは得策ではないな」

 協力する振りくらいはした方が良い。命令されたら、ムカつくが黙って従おう。


「探すふりでもするか」

 とりあえず、しゃがみ込んで床に触る。

 何の変哲のない石造りの床だ。罠は無い。


「このダンジョンがどれくらい危険か分からない」

 調査しながら考える。

 ゼラの言葉が耳にこびりついて離れない。


「あいつの口ぶりだと、チートを持っていても苦戦する」

 しかし、誰に苦戦するんだ?

 魔王のことを言ってるのか?


「考えても分からないことだらけだ」

 悩んでいても仕方がない。

 慎重に慎重に、行動しよう。


 それから数十分、部屋を調べたが、何もなかった。


「さっさと行こうぜ!」

 クソガキがシュッシュッと拳を振る。鉄砲玉になってくれそうだ。


「ここに止まっていても仕方ない」

 軍曹は皆を見渡す。


「我々は先に進む。臆病者は待っていろ」

 先が安全か確認してくれるようだ。さすが軍曹、頼りになる。


「初めは十人で進もう」

 ゲーマーが提案する。しっかり考えてるな。


「なら俺が行くぜ!」

 クソガキは息をまく。

 それに続いて勇敢な男が志願する。


「私が先に進む」

 軍曹はアサルトライフルを作り出す。武器生成チートか。


 軍曹はドアに張り付くと、向こう側の物音を確認する。

 そして十秒くらいじっとしていると、ゆっくりとドアを開けた。

「クリア」

 懐中電灯でドアの向こう側を確認すると、警戒しながら部屋を出る。


「めんどくせえな」

 クソガキたちは軍曹に続いて、部屋を出た。


「彼らが戻ってくるまで待機しよう」

 ゲーマーは扉近くの壁に寄りかかる。

 女子高生は部屋の中心で体育座りする。


 俺は女子高生の傍に座る。下心は正直ある。


「軍曹が居るから、簡単に出られるかもな」

 あれだけ慎重に行動してくれるなら、簡単には死なないだろう。

 火器も作れるし、頼りになる。


 そう思っていたが、軍曹たちは一時間経っても帰ってこなかった。


「どうして戻ってこないんだ?」

 部屋がざわめく。俺も不安になる。


「確認しに行こう。怪我で動けないのかもしれない」

 ゲーマーが立ち上がる。


「誰か、回復アイテムを作れる奴は居るか?」

「俺が作れる」

 ゲーマーの声に学者風の男が反応する。あいつはインテリと呼ぼう。


「千切れた腕を戻す薬とか作れないか」

「作れる」

 インテリはゲーマーの注文に次々と答える。


 準備が済むと、ゲーマーはアイテムボックスにアイテムを仕舞う。


「誰かついてきてくれ」

「なら俺が行く」

 再び十人のチーターが集う。


「行こう」

 ゲーマーは率先して、部屋を出た。

 それに九人も続いた。


「ゲーマーなら大丈夫かな」

 ゲームに慣れてそうだし、多分、異世界転生物のアニメも見てるだろ。なら強力なスキルを複数持ってるはずだ。


 だがゲーマーも帰ってこなかった。


「どうなっているんだ」

 一時間もすると、インテリが親指の爪を噛み始める。


「誰か確認してこい! 言っておくが、俺は戦闘系のスキルは持っていないから無理だぞ!」

 化けの皮が剝がれた。


「私が見てくる」

 今度は勇敢な女性が立つ。ガタイが良いから柔道選手か?

 それにつられて他の奴も立ち上がる。


 再び十人の勇者が集まる。


 しかし、彼女たちも、帰ってこなかった。


「いったいどうなっているんだ!」

 ついにインテリが癇癪をおこした。


「誰か見に行け! 早く!」

 自分が行けばいいのに。


「私が行きます!」

 なんと! 女子高生が立ち上がった!

「俺も行く!」

 可憐な美少女を放っておけない!


「他に行く奴はいるか!」

 インテリが怒鳴り散らす。なんでお前が命令するんだ?


「女の子を一人にしちゃいけないな」

 ホスト風のチャラい男が立ち上がる。

「俺も行くぜ!」

 ボディビルダーみたいに筋肉もりもりのマッチョマンも立ち上がる。

「私も行こう」

 紳士風な老人が立ち上がる。


「女の子が行くって分かったら調子いいぜ」

 人のこと言えないけど。


「ありがとうございます!」

 女子高生は下心に気づかず頭を下げる。

 いい子だ。ちと反省。


「行く前に、簡単な自己紹介をしよう」

 ドアの前に立つと、紳士風な老人が声をかける。

「私の名前は緒方賢一(おがたけんいち)。受け取った力は時を操る能力だ」

「時を操る! 最強のスキルだ!」

 思わず声を上げる。その手があったか!

「とはいっても、どうやら一分しか、時を止めたり、巻き戻したりできないらしい」

 緒方さんは人の好い笑みを浮かべる。

 いい人そうだ。

「十分ですよ!」

 とにかく、心強い味方だ。敵に回したくない。


「俺の名前は斉藤晃(さいとうあきら)。職業はホスト。スキルは女にモテる!」

「モテる、だと」

 その手があったか! ハーレム作りたかったぜ!

「だから変にドキドキするんですね!」

 女子高生が頬を染めて、キッと晃を睨む。くそ。

「可愛いね。でも俺は金のない女には興味が無い」

「最低です!」

 女子高生はぷりぷり怒る。可愛い。


「俺は大山一(おおやまはじめ)。見ての通りボディビルが趣味だ。スキルは体格操作。ボディビルの大会にも、フィジークの大会にも出られる!」

 フィジークッてなんだよ。それに大会に出るためにスキル取得したのか?


「私の名前は桃山もも恵(ももやまももえ)です。見ての通り高校生です。取得スキルは、スマートフォンです」

「スマートフォン?」

 どっかで聞いたことのあるスキルだ。

「何ができるんだ?」

 疑問に思ったので聞いてみる。

「インターネットが使えたり、SNSが使えたり!」

 役に立たねえ。

 いや、WIKIPEDIAが使えるから便利か?

 マヨネーズのレシピ公開したら億万長者か?


「俺は新庄一馬。スキルは武術の達人だ」

 スキルに関しては嘘を吐く。

 もも恵ちゃんはともかく、他の三人は信用しきれない。

 信用出来たら話せばいいだろう。


「なら、君と私が先頭を歩こう。」

 緒方さんが隣に並ぶ。

「戦闘に役立ちそうなのは、俺たちだけですからね」

 他の二人がもも恵ちゃんに変なことしないか不安だが、今はそう言ってる場合でもない。


「さっさと行け!」

 インテリが再び怒鳴る。うるさい奴だ。


「行こう」

 言い合っても仕方ないので、ドアを開ける。


 ドアの向こうはダンジョンよろしく、石造りの通路だった。

 幅は五人が並んで歩けるくらい。


「ここじゃ剣術は使えないな」

 心の中で舌打ちする。剣を振り回したら、壁にはじかれる。

 槍なら突くだけだから大丈夫か?


「どうやら彼らは右手に進んだようだ」

 緒方さんはしゃがみ込むと右方向に顔を向ける。

「どうしてそんなことが?」

「足跡がある」

 言われてみると、土ぼこりの足跡があった。


「先が見えないな」

 目を凝らす。通路の奥は暗闇だ。

「暗いな」

 晃が嫌そうに言う。

「スマホのライトがあります」

 もも恵ちゃんがスマホを取り出すと、ライトをつける。


「私も先頭に並びます!」

 もも恵ちゃんはニッコリ笑うと、俺の隣に立つ。

「危ないぞ」

 女の子と一緒に歩くのは歓迎だが、ダンジョンの中だと喜べない。

「明かりは私のスマホだけです」

 もも恵ちゃんは目を吊り上げる。絶対にスマホは渡さないって言っている。


「仕方がない。私と新庄君、桃山さんの三人が先頭だ。二人は後方を頼む」

 緒方さんはため息を吐くと、晃と一に言う。


「オッケ」

「任せろ!」

 二人は自信満々に笑う。警戒心が無い。


「念のため、どんな行動をするか、五人で話し合おう」

 緒方さんは晃と一の横に立つと、俺たちに手招きする。

「私は遠慮します。皆さんに従いますから」

 もも恵ちゃんは笑いながら、こっそりと俺の袖を握る。

「俺も遠慮する。あんまり頭が良くないんでね」

 俺は気になったのでもも恵ちゃんと話がしたい。


「そうか」

 緒方さんはそう言うと、二人と話を始めた。


「嘘つき」

 もも恵ちゃんの小声が聞こえた。見てみると、ジト目で睨んでいた。


「嘘つきって?」

「本当は色々なスキルを持ってるのに」

 もも恵ちゃんがスマートフォンの画面をちらりと見せる。

 スマートフォンの画面には、俺の名前とスキルが表示されていた。


「情報取得系統のチートか」

 油断したぜ。

「下心も見えます」

 読心術も使えるのか。


「でも、他の三人より信用できます」

「どういうことだ?」

「三人とも犯罪者です」

 ドキリとする。


「緒方さんはヤクザの親分。晃さんは結婚詐欺師。一さんは強姦魔です。何人も女性を殺害しています」

 なんてこった。泣きたくなるぜ。


「もも恵ちゃんは本当はどんなスキルが使えるんだ?」

「スマートフォンで、色々なチートアプリが作れます。これはその一つです」

「中中に強力だな」

「情報に勝る武器はありません」

 冷静な瞳で微笑する。綺麗で可愛い。


「三人は俺みたいに嘘を吐いているか?」

「三人とも嘘を吐いています」

「具体的には」

「緒方さんは拳銃を隠し持っています。いざとなったら私たちを拳銃で脅すつもりです」

 全然紳士じゃねえ。

「晃さんは洗脳が使えます。魅了じゃありません。いざとなったら私たちを洗脳して、逃げるつもりです」

 クソ野郎が。

「一さんは筋力強化です。私を力づくで犯すつもりです」

 あとで殺しておかないと。


「俺から離れるな」

「そのつもりです」

 そう言って、三人の話が終わるのを待つ。


 その間に、もも恵ちゃんが信用できるか考える。


 重要なのは、もも恵ちゃんが嘘を吐いているか。


 三人は犯罪者だと言ったが、本当かどうか?


「ぶっつけ本番しかないな」

 真偽を確かめる術はない。ならば、警戒するだけにしよう。


 どの道、俺はこの四人と進むしかない


「話は纏まった」

 緒方さんが俺たちを見る。


「まずは右手に進む。三十分したら、反対側に行こう」

「とりあえず通路を全体的に調べるって感じですね」

「部屋があったら入ってみよう。誰か居るかもしれない」

「分かりました」

「分かれ道は全員右側に進む」

「はぐれないための配慮ですね」

「その通りだ」

 緒方さんが歩を進めたので、もも恵ちゃんと一緒に歩きだす。


「後ろの二人、私のお尻見てる」

 もも恵ちゃんは隣で舌打ちする。

「俺が守るから心配するな」

 俺はもも恵ちゃんを含めて、四人を警戒しながら進む。



 転移者が敵になる。

 危惧していたことが現実になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ