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チート山盛りで異世界転移……

 俺の名前は新庄一馬(しんじょうかずま)、年齢は30歳のオッさんになりたてのオッさんだ。童貞である。


 突然だが、俺はトラックに轢かれて死んだ。

 残業でくたくたの帰り道に、居眠りトラックが歩道に突っ込んで来た。


「あなたは異世界に転生、または転移する権利があります」

 そしたら綺麗な女神様が現れた。


「マジでこういうのあるんだ」

 俺は部屋に居た。

 部屋は真っ白だ。女神が座る白くて小さい椅子が一つだけある。


「やっぱり嫌ですよね」

 俺が黙っていると、突然女神が泣き出す。


「俺はまだ何にも言ってないぞ」

 俺は両手で涙を抑える女神様にうろたえる。

「分かっています。突然異世界に転移だの転生だのしろなんて、怒りますよね。すぐに天国へ送ります」

 話を聞いていない。

「だから俺は何も言ってない」

「世界を救うために魔王と戦ってくれなんて非常識ですよね。自覚してます」

「話聞いてくれない?」

「チートをあげるから戦え? お使いじゃないんです。命がけなんです。戦争なんです。私って最低ですね」


「だから話を聞いてくれませんかねー!」

「あちらが天国に続く扉です。引き止めて申し訳ありません」

 女神様は白い扉を壁に出現させると、メソメソ泣きながら扉を開ける。

 その先は光の道が彼方へ続いている。


「話を聞けって言ってんだろが!」

 俺は我慢できず空手チョップを女神様の脳天に叩き込んだ。


「い、痛い」

 女神様は頭を押さえてうずくまる。俺はため息を吐く。


「なぜ転移させたいのか、理由を聞かせてくれ」

 まさか転移する前に女神様に空手チョップを喰らわせるとは思わなかった。普通ならすんなり異世界だろ。

「あの、話を聞いてくれるんですか」

 女神様は目をキラキラさせる。


「なんで目をキラキラさせるの?」

「普通なら異世界転移って嫌がると思うんです」

「なんで?」

「訳の分からない異世界よりも天国の方が良いと思います。あそこは楽園ですから」

「そうなの?」

「多くの方は嫌がります」

 色々な人に声をかけてるのか。若干無節操だ。

 こうなると、向こう側にも、相当数のチート持ちが居るだろう。


「あなたはもしかして日本人ですか?」

「日本人です」

「日本人は異世界転移や異世界転生に抵抗無いんです。私は助かりますけど、何故ですか?」

 小説家になろうが流行ってるからでしょ。アニメも絶賛放送中だし。


「あなたの名前を聞かせてくれ」

 面倒なので話を進める。

「私の名前はマリアです。死んでしまった創造神に代わって地球の人々をこちらの世界に送っています」

 創造神なのに死んだ? 創造神なのに?

「創造神が死んだってどういうこと? 神様にも寿命があるのか?」

「はるか昔、破壊神が殺しました」

「破壊神ですか」

 マリアは悔しそうにキュッと唇を引き締めるが、俺はいまいち飲み込めない。


「なんで破壊神が?」

「破壊神は創造神と対になるお方です。創造神が世界を作り、破壊神がリセットする。そうして何度も、創造神が納得できる世界を作りました」

 創造と破壊か。納得はできる。


「しかし、破壊神は暴走しました」

「暴走したから創造神に牙をむいた?」

 マリアはこくりと頷く。


「これは私の推理ですが、破壊神は破壊衝動の塊です。その衝動は神々に向きました」

「つまり、面白半分で創造神を殺したってことか」

「おそらくは」

 なんか、複雑な世界観だ。アニメだとパッと転生して楽しい転生ライフを送るのに。


 もしかすると、転生先はべらぼうなハードモードの世界なのか?


「もしかして、俺に破壊神を倒してほしいとか言うんじゃないよな?」

 しかし、めんどくさいと聞き流すわけにもいかない。

 転生するべきか、しないべきか、吟味する必要がある。


「破壊神は創造神や善神、悪神、戦神など多くの神々によって、時空のはざまに封印されました。ですから、安心してください」

「そいつを聞いて安心した」

 創造神もぶっ殺すような神様がラスボスじゃ、いくらチート持ちでも分が悪い。


「なんで俺に異世界転生してほしいんだ?」

 異世界転生するのは願ったり叶ったりだが、ヤバそうな世界なので、一応聞いておく。


「千を超える魔王を討伐して欲しいんです」

「なんだって?」


「だから千を超える魔王を討伐して欲しいんです」

「なんだって?」


「だから! 千を超える魔王を討伐して欲しいんです!」

「聞こえねえな」

「分かりました」

 女神様がマイクとスピーカーを生み出す。


「聞こえてたから叫ばなくていい」

「意地悪しないでください」

 またまた涙目。ちと意地悪し過ぎたか。


「しかし、千を超える魔王って何?」

「言葉の通りです」

「なんで魔王が千もいるの? 王なら一人でしょ」

「さあ?」

 さあってお前。


「創造神が作った世界は安定していました。ところがある時、魔王が次々と出現しました。結果、世界は滅茶苦茶に」

 魔王なのに中ボスッてか。


「どれくらい滅茶苦茶になってるんだ?」

 とにかく世界観を把握しよう。


「人間は千の魔王によって家畜となっています」

「家畜?」

「魔王たちは世界を支配しています。そして面白半分で人間や魔物を飼っています」

「奴隷じゃないのか?」

「豚のように鎖で繋いでいます。育った人間は食べています。奴隷なんて生易しいものではありません」

 世界終わってるじゃん。

 初めからゲームオーバーだよ。


「頭痛くなってきた」

「私もです」

 二人でクソでかため息を吐く。


 千の魔王か。チートを持っていれば楽勝で勝てるか?

 なんか嫌な予感がする。


「創造神の他に神は居ないのか?」

 ぶっちゃけそんなクソみたいな転生したくない。

 だから、俺よりもそいつらに任せたほうが良いぞ。


「全員、破壊神に殺されました」

 破壊神の野郎、余計なことしやがって。


「いちおう聞くけど、チートとかもらえるの?」

 つかくれ。そうしないと勝てない。


「私は創造神の代行です。創造神からチートを作成できる能力をもらいました。ですから、どんなチートもあげられます」

 えへんと威張る。そこは威張るところじゃねえだろ。


「チートは何個くれる?」

 聞くだけならタダだ。

「いくらでも!」

「いくらでも? なら百個とか千個とかくれるの?」

「あげます!」

 気前が良すぎる。

 魔王討伐、案外楽勝かもしれない。


「話を整理したいんで、少し時間をくれ」

「どうぞ!」

 マリアがニッコリ笑ったので、今までの情報を纏める。


 一つ目。創造神など数多の神々が破壊神に殺された。

 二つ目。破壊神は神々の命を犠牲にして、次元のはざまに封印された。

 三つ目。破壊神は敵として出てくることはない。

 四つ目。転移先の世界は千の魔王によって支配されている。

 五つ目。人間は家畜となっていて、逆転の目が無い。

 六つ目。チートはいくらでももらえる。


「聞くのを忘れたが、俺の他にも転移者は居るのか?」

「います! みんな頑張ってくれてると思います!」

 なら仲間が居るってことだ。


 七つ目。同じくチート持ちの仲間が居る。


「なんとかなりそうだな」

 俺一人なら断るところだ。だが仲間が居るなら話は別だ。


「仲間が居ると無双できそうにないな」

 そこはちょっと残念だ。俺tueeが楽しめない。

 だが、そこは我慢するべきだろう。


「転移して千の魔王と戦うか、天国に行くかの二択か」

 異世界はアニメや小説家になろうでたくさん見た。だからどんなところか想像つく。

 対して、天国は見たことが無い。だからちょっと怖い。


「転移する。だからチートをたくさんくれ」

 転移先は血みどろ確定のハードな世界だ。

 だが強力な仲間が居る。なら安心だ。

 それに千の魔王を倒せば、平和になる。

 そのあとならスローライフや英雄ごっこが楽しめる。


 仲間と仲良くなれるかってのが唯一の不安だが……。

 まさか、追放ものよろしく、オッサンだから出て行けとか言われないよな?


「ありがとうございます!」

 マリアはペコペコと頭を下げる。


「どんなチートをご希望ですか」

「そうだな」

 魔王よりも、転生者の方が危険かもしれない。

 転生者が屑って展開は人気だからよく見るし。


 そんな展開望んでいないが、十分あり得る話だ。


「まず、不老不死の奴も殺せるチートをくれ」

 不老不死のチートなんて小説家になろうじゃ流行ったことないし、俺自身永遠の命なんていらない。だからもしかすると、誰も不老不死のチートなんて取ってないかもしれない。

 だが万が一、不老不死のチートを持つ奴が敵対すると、絶対に勝てない。そう考えると、殺せるようにしておいた方がいい。


「分かりました!」

 マリアは疑問に思わなかったのか、質問もせずに与えてくれた。よっぽど異世界に行ってくれるのが嬉しいんだな。


 マリアが俺に手のひらを向けて念じると、体が光に包まれる。


「ほかにチートはいりますか」

 マリアはニコニコ顔だ。


「レベル∞とかできる?」

「レベルッて何ですか?」

 レベルッて概念無いんだ。


「魔力を無限にしてくれ」

「分かりました!」

 軽ーくくれた。


「次にどんな魔法も使えるようにしてくれ」

「はい!」


「どんなものも作れる生成チートをくれ」

「はい!」


 それから俺は色々なチートをもらった。


 1、不死者殺し

 2、魔力∞

 3、筋力∞

 4、全魔法取得

 5、生成チート

 6、あらゆる武術、武器を使いこなせる

 7、見ただけで相手に強力な状態異常を複数かける魔眼(石化、麻痺、猛毒、腐食など俺が考えられる範囲の状態異常を一度にかけられる)

 8、∞の容量を持つアイテムボックス。


「こんなところか」

 こんだけあれば、転移者が敵になっても大丈夫だろ。

 つかこれ以外、思い浮かばない。意外と発想力が無かった。


「敵対すると決まったわけじゃないし、何とかなるだろ」


 それにこれだけあれば、最悪一人で魔王を倒せるはず。

 そう考えれば、十分すぎる能力だ。


「では異世界の扉を開きます」

 黒い靄が部屋の中心に現れる。どうやらあれが異世界への道らしい。


「ちょっと世界救ってくるわ」

「ありがとうございます!」

 何度もお辞儀をするマリアに背を向けて、異世界のゲートをくぐった。




 着いた先は、血のように真っ赤な部屋だった。

 なんて趣味の悪い部屋だ。壁も床も天井も真っ赤で目が痛い。

「これが異世界?」

 なんでこんなところに飛ばしたんだ?


「お前で百人目だ」

 上から声が聞こえた。見上げると、真っ赤な長髪に、真っ赤な瞳をした美女が、真っ赤な椅子に座っていた。

 彼女がこの部屋の主か。ご丁寧にドレスまで真っ赤だ。見ていられない。


「百人目?」

 あたりを見渡すと、日本人と思われる男女がたくさん居た。

 セーラー服や学生服、ジャンパーなどの私服を着ているから、転移者だと分かる。

 全員、退屈そうに寝っ転がったり、ジャンケンして遊んでいたりした。


「どこここ?」

 理解できないため、部屋の主に聞く。


「ここは転移者の控室だ」

「控室?」

 美女は氷像のように美しい微笑を浮かべる。


「お前は千の魔王が世界を支配していると聞いただろ」

「聞いた」

「一人一人、バラバラに転移すると危険だと思わないか?」

「確かに、言われてみれば」

 戦力の小出しは愚策だ。やる時は一気にやったほうがいい。


「そう思って、私はここで転移者を引き留めている」

 ニヤリと笑う。なんか怖い。


「なんか、変なパターンだな」

 普通だったらすんなり転移するのに、控室?

 ちょっと飲み込めない。


「あまり深く考えなくていい。ただ単に、百人を一気に転移させた方が、安全だという配慮だ」

「納得はできるんだけど……」

 マリアからそんな話聞いてないぞ?


「マリアはそんなこと言ってなかったぞ」

「あの子は質問されないと答えないドジッ子だ。許してやってくれ」

 クスクスと笑う。

 確かにあの子は質問には答えてくれた。だが質問しなかったら答えてくれないような感じもした。だから根掘り葉掘り世界について聞いた。


「帰るって訳にもいかねえし、それで良いや」

「理解が早くて助かる」

 美女はパンパンと手を叩く。


「百人そろった。これでお前たちは転移できるぞ」

「やっとか」

 転移者はググッと背中を伸ばして集まる。


「では、ゲートを作る」

 美女がパチンと指を鳴らすと、真っ赤な扉が出現する。

 扉まで趣味が悪い。


「一番乗り!」

 茶髪の学生が一足先に扉を開ける。

 扉の先は真っ赤な通路だった。

 通路まで趣味が悪い。


「いやっほー!」

 茶髪の学生はハイテンションで扉をくぐる。


「私たちも行こう」

 次々と転移者が扉をくぐる。


「警戒しても仕方ねえか」

 とりあえず全員が扉をくぐるまで待つことにする。


「慎重だな」

 後ろから声がした。振り返ると、椅子に座っていた美女が笑っていた。


「先がどうなってるか分からないからな」

 先に進むと、いきなり戦闘、なんて展開を考えられる。

 石橋を叩いて渡るくらいの落ち着きが必要だ。


「不死者殺しのスキルを持っているのか」

 美女は初めて笑うのを止めると、感心するように俺を見る。


「あんた、俺がどんなスキルを持っているのか分かるのか」

「これでも神だからな」

 神? マリアの話だと、神々は死んだと聞いたが。


「賢いお前に二つ、アドバイスをやろう」

 美女は再び笑みを作る。なんだか楽しそうだ。


「アドバイス?」

「一つはトラップを活用しろ」

「トラップ?」

 良く分からないアドバイスだ。


「全員くぐったぞ。あとはお前だけだ」

 部屋を見渡す。確かに俺しか居なかった。


「早く行くと良い」

 美女は偉そうに腕を組む。


「その前に、あんたの名前は?」

 名前を聞いていなかったことを思い出す。

「名前は無い。好きに呼べ」

 本当に変な奴だ。


「じゃあ、ゼラッて呼ぶ」

「ゼラ? どういう意味だ?」

 ゼラは珍しく首をかしげる。


「何となくだ。深い意味は無い」

「そうか」

 ゼラはうんうんと頷く。

 喜んでいるのか?


「二つ目のアドバイスは?」

「扉をくぐったら教えてやる」

 変な奴だ。だが仕方ない。それにアドバイスは意味が分からないから、聞かなくていいだろ。


「二つ目のアドバイスだ」

 扉をくぐるとゼラは笑う。


「チートを持っているからと調子に乗るな」

「どういうことだ!」

 恐ろしくなったため引き返す。


「くそ!」

 しかし、扉は煙のように消え去った。


「行くしかないか」

 俺は背中に冷たい物を感じながら、赤い通路を進んだ。

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