第三十五話 ソウルオブドラゴン
その場からはほとんどの人間が逃げていた
そしてそこには龍の友と他に少数の人間が留まっていた
「お前・・何であの娘に自分の本物の魂を預けてたんだ?」
「知ってたのか今までのが偽の魂だと・・・・この魂は強力すぎて当時の俺では抑え切れなかった・・だから桜飛鳥という者に魂を預けた・・・」
「まさかそんなにだとは・・俺も同じだけどよ・・・お前にゃ勝てねぇなぁ」
「勝てねぇよ、てめぇじゃ・・それに俺はもう全てを思い出した!!」
その時、龍の髪や鱗は蒼白く染まり
眼は蒼き炎の如く燃え上がった
そして雷迅の髪や鱗は金色に染まり
眼は赤き閃光の如く輝いた
「俺の名は火炎龍、ガデュエムロス。人化名は火炎龍。かつての字は炎帝。龍神、天空龍より授かりし名は白銀の太陽」
「俺は雷電龍、ジラガディア。人化名は雷迅霧壱。かつての字は雷帝。龍神より授かりし名は黄金の月」
龍神とは竜界の神に当たるドラゴン
竜界最強といわれている
そしてその龍神から名を授かる事は名誉なことであり誇りである
「名乗れよ親父・・・あんだろ?授かった名が・・・」
親父の髪や鱗も赤黒く染まり
眼は全てを呑み込む様な漆黒に染まった
「・・闇龍、ヴァジュラ。人化名は漆黒闇夜。かつての字は闇怪。授かりし名は黒銅の夜」
龍神は名を授ける時にその者の色と力で決める
俺の炎は白銀
雷迅の雷は黄金
そして親父の闇は黒銅
「闇を照らす俺たちか光をも呑み込む親父か・・・」
「太陽と月対夜・・どちらが勝つか・・・」
実際は太陽 対夜だが
はてさて・・・
幸運の女神はどっちの見方をするのでしょう・・・
「っ・・・」
最初に雷迅が仕掛けた
その速さ、雷の如く
「ハッ!」
下から突き上げた
しかしヴァジュラはそれを避けた
だがその背後には龍がいた
「大砲より打ち出すものは一点に集中されし炎・・口砲、超熱線砲!」
ほぼゼロ距離からの口砲
さすがにこれは避けられなかったようだ
「ぐッ・・!」
「大砲より打ち出すものは一点に集中されし雷・・口砲、超電磁砲!」
そして雷迅も打ち出した
まるでとあるアニメの名前のようだ!!
「がッ・・!!」
「・・くれてやるぜ!落雷!」
それは直撃した
ヴァジュラの周りに黒煙が舞っている
「どうだ!」
「・・まだだ・・・神隠し」
これはいかなる攻撃も神隠しにあいその場から消滅される
それにより遠距離攻撃となる口砲なんかは意味なし
しかしもう一人がその黒煙の中にいた
「我が腕より織り成す龍牙が如き拳・・牙突!!」
再びほぼゼロ距離からの攻撃を繰り出した
龍の鉄拳によりヴァジュラはぶっ飛ばされた
「がはッ!!」
「これは俺の腕力だ・・・そんなモノ通用しねぇ」
※神隠しは生けるモノには通用しない
「ならば・・・・我の織り成す花の舞に踊れよ汝・・火花の舞!」
その時ヴァジュラの周りに黒い火で出来た花が浮かんでいた
「・・舞え、我が火花よ!」
その言葉と同時に花は龍へと向かった
そしてその一つ一つが手足の様に操られまるで舞っているようだ
「くッ・・・炎盾」
「無駄だ・・我が火花はそれを避け攻撃する事が出来る」
・・それなら・・・
「龍爪!」
叩き落すまで!!
「だァア!!」
俺は龍爪を使い火花を落としていった
「知っているはずだ、それは生ける火だと・・・・それは地に落ちる事により根をはり新たな花を咲かす」
落とされた花はその通りに新たに花を咲かせた
それはまるで黒きバラのようだ
「これは・・・・くっ・・・生火攻撃術を使ったのか・・・」
生火とは生ける火
火自ら攻撃したり再生したりする火の事である
この場合火花は操られて攻撃し自らの力で再生する
「そうだ。よく知っているだろう?我が火花は無限に再生する生火・・・これを再生不可にするのは無理に等しい」
「・・・・無理に等しいか・・・それなら地に落ちる前に消し去るまで」
そう言うと龍は腰に手を当てた
というか刀を持つように構えた
そしてその手の中には刀があった
龍は自分の武器を炎として自分の体に取り込み
使いたい時にそれを元の形に戻して使う事が出来るのだ!
「こいつは鳳凰刀《不知火》。知ってるだろ?親父・・・」
「それは・・千鶴の・・・」
「そう・・・・俺より長い時間一緒だったんだ。こいつの特性も知ってんだろ・・・」
龍は迫ってくる一つの火花を斬った
「こいつは普段は熱を持った全てを切り裂く刀・・しかし俺の炎をこいつに注ぐ事によってその特性は膨れ上がり斬ったモノの切り口から炎が生まれ燃え上がる」
斬った火花の切り口から炎が噴き出した
そしてその火花は燃え上がり
地に落ちる前に塵になった
「これでお前の火花の舞も敗れられたな、親父」
「・・くッ・・・」
「・・・・なぁ、龍。俺もう用無しかぃ?」
忘れていた
雷迅がいる事を
勝負に夢中になっていた
「悪ぃな、雷迅・・・これは俺と、親父の問題だ・・・しばらく休んどきな」
「了解」
雷迅は残念そうに瑠奈たちの方へ向かった
「ふッ・・火花なら私が作り出す事も出来る・・無限にな」
「ならば、作り出す時間を与えなくするまで」
龍は《不知火》を構えてヴァジュラに向かって走り出した
その速さ音が如く
「無駄だ」
その速さにあわせて火花が襲ってくる
しかし龍はそれを《不知火》で切り刻んでいった
そして全ての火花を切り刻んだ
ヴァジュラはさすがに来ると思ったのか同じく刀を出した
「雷迅!人間共を護れ!!」
「しばらく休めるんじゃなかったのか?まぁいい!出番が来たんだからな!」
そんな事はいいから早くどうにかしてほしい
雷迅は瑠奈たちの元へ走った
「陰陽防御術、結界!」
ガラスの様なモノが出来た
そしてその刀と刀がぶつかり合い
それが衝撃となり周りのモノを襲った
それを結界が防いだが余波が瑠奈たちを襲った
「この刀は業物《鬼爪》と言う刀だ」
「《鬼爪》・・・鬼の爪が如く鋭き刀か・・・」
「そうだ・・さぁ、どこまでついて来れるかな」
ヴァジュラが一度刀を離した
それから猛攻撃が始まった
「・・・・龍!」
「譲ちゃんたち、この結界から出ようとするなよ?出れないと思うけどな。今龍らに近づいたら死ぬぜ?」
死
その言葉を耳にして皆息を飲んだ
そしてその顔はどんどん青褪めていった
「でも・・・」
「死にたいなら止めねぇけどさ。行きたいなら行きな。でもな、今のあいつは人間としてで無くドラゴンとして戦ってんだ。それにこれはあの二人の事・・・父子喧嘩みたいなもんさ。そんな奴らのとこ行って何が出来る?」
「それは・・・」
答えが出なかった
父子にある傷つけられた絆は二人にしか治せない
それを知ってか知らずか
それでも答えは出なかった・・・
「・・今俺らに出来るのは見守る事だけだ」
見守る・・・
何も出来ない・・・
みな人間の無力さを痛悔している
「・・・・・・あの雷迅くん・・・・さっき千鶴って・・・」
それでも竹内は口を開いた
「・・・近衛千鶴・・・龍の母親だ」
雷迅と竹内が話しているのを聞いていた瑠奈が話しに入ってきた
「龍の・・・今は・・・」
「とっくの昔に死んでるよ」
それを聞いて疑問が浮かんだ
「あの・・龍っていくつ?」
なぜだろうか
「とっくの昔」では十数年前でもありそうだが・・・
それがとても遠い昔のように思えた
「・・・俺もあいつも、もう長く生きている。年は忘れたがな・・・だが、一つ言える事は・・たくさんの人々の死を見て、新たな生命の誕生も見た・・・」
雷迅のその眼は空を見ているのにどこかもっと遠くを見ているようだった
そしてその眼には涙が浮かんでいるようにも見えた
「・・・龍と親父さんのあの刀って何だ?よく聞こえなかったんだ」
「龍の持っているのは鳳凰刀《不知火》。常に熱を持ちその熱により全てを切り裂く刀。そして龍の父、ヴァジュラの持っている刀は業物《鬼爪》。鬼の爪が如く鋭き刀。どちらも伝説とも言われる名刀だ」
伝説と言われる
それはこの世に一つしか存在しない貴重な刀という事だ
なぜそんなモノを持っているのか・・・
「でも・・龍のはあのヴァジュラ?が千鶴の・・って」
「あれを創ったのは近衛さんだ・・二つともな。近衛さんは高名な刀鍛冶だったからな。両方ともヴァジュラがいない時に自分が我が子を護るために創ったそうだが・・・まさか、あのような刀が出来るとは思ってもいなかったのだろう」
雷迅はそれから少し考えた
そして真剣な眼をして口を開いた
「お前ら、龍とは離れたくないか?」
「え・・?」
「あいつはお前らの友達だろう?その友と、離れたいか?」
雷迅は真剣な眼でまっすぐと彼らの眼を見つめた
「そ、そんな訳ないだろ。俺らはあいつと友達だ・・・それがどうした」
「・・半分は人間の血が混ざってても、あいつはどう転んでもドラゴンだ。そしてあいつは常にあぁやって戦っている、死と隣り合わせだ。それにあいつはいずれお前らの前から姿を消すだろう。それは明日かもしてないし、今日かもしれない・・・」
みなショックを受けているようだ
いつかは必ずいなくなる
それを聞いてだろう
幾度となく来るヴァジュラの斬撃
これに対抗するように繰り出す龍の斬撃
互いの攻撃がぶつかり合いその周りには突風が吹いていた
「ほぉ・・どこでその剣術を学んだか」
「お前が竜界に戻ってからさ・・・十七年前、一度は全てを忘れたが・・もう思い出した」
その時
龍はヴァジュラの刀を叩き切った
ヴァジュラの刀は刃区が砕けていた
刃区=刀身の鐔近いあたり・・?
「何・・!?なぜ・・・」
龍は《不知火》をヴァジュラの喉元に切先を当てた
「常に同じ場所を叩き続けたからな・・・いくら刀といっても所詮は鉄・・同じ場所を叩き続ければ刀は砕ける」
「くッ・・・・斬らぬのか・・・」
「・・・・・・」
「斬らぬなら私が先にお前を殺ろう」
龍は喉元に向け突きをした
が、それは反れヴァジュラを殺さなかった
そしてそのままヴァジュラに抱き付いた
「りゅ、龍・・・」
「お前、何のつもりだ?」
・・・・こう出来る事を・・ずっと、願ってた・・・
そう思っていた
「生炎拘束術、火炎縛」
「何!?生炎だと!?」
地から炎が上がりヴァジュラの体を縛った
「親父・・このまま、共に死んでもらう・・・・陰陽送還術、黄泉送!」
二人の周りから黄色い光が上がった
それを見た雷迅が反応した
「あの光は・・!!」
「雷迅くん、あれがどうしたの?」
雷迅は光を見て歯を食いしばり言った
「あの光は・・陰陽送還術、黄泉送・・・・標的を黄泉という場所へ送る術だ。そして・・・龍はあれで自らの命も絶とうとしている」
「え!?な、何で!?」
「・・あいつは心に闇を抱えている・・・きっとそれを思って・・・」
「心に抱える闇って何!?龍が死ぬ必要あるの!?」
雷迅は言葉を詰まらせた
どう説明すればいいのか
彼らは納得するのか
いろいろ頭の中で考えて・・・
「・・・・あいつは・・竜界ってドラゴンがすむ世界で、ある字を貰った・・それは殺戮。当時龍はその闇が暴れたせいで理由なくたくさんのドラゴンを殺した・・・・この人界でも十年前に殺人未遂を犯したのもそれが原因だ」
「質問に答えて!闇って何!?」
「・・あいつの抱える闇は心の悲しみや憎しみを増幅させるモノ・・・」
皆には思い当たるモノがあった
十年前の原因
それは親を亡くした悲しみによるモノ
本当にそのようだ
『よぉ、お前ら』
「龍!どうやって話を・・・」
『念話みたいなもんだ。それより聞いたろ?俺が死ぬ理由』
「で、でも・・・」
まだ何か納得いかないようだ
しかしちゃんとした理由ではあるが
『俺は闇の血を継いでる。俺もヴァジュラみたいになるやもしれん。それに・・また、戻ってくるから』
「え・・・」
『俺がいない間、俺はみんなを見守ってるから。それで、みんなの誰かの子であっても、孫であっても。どんな姿でも、お前らの元に戻ってくるから。必ず、戻ってくるから。そしたらさ、うまい珈琲でも入れるからさ・・・絶対ぇ・・戻ってくる・・・』
「・・・龍・・・」
『・・雷迅。その間、そいつらの事、頼めるか?』
「・・おぉ。任せろ!」
『へへッ・・サンキュー・・・』
そして念話が切れた
「これが俺の龍の魂の生き様!俺のこの魂なんぞ持っていくがいい!黄泉界への門、開門!」
「龍!」
瑠奈は結界から出ようとした
これは術者が解かなければ外には出られない
しかし瑠奈はあきらめず結界を叩いた
「龍!龍!」
「駄目だ!嬢ちゃん!この術は範囲が広い!迂闊に近づけばお前も黄泉に送られるぞ!」
「でも、でも!」
龍は口を開いた
泣きながらも笑った眼で彼らを見つめながら
「また、会おうぜ!」
そして黄泉に送られ
「龍ぅーーーーッ!!」
門は閉じた
第三十五話 終