第二十三話 師弟の再会
翼はどうしても永冷を痛めつけたいらしく職員室に向かってる間許可を出した
今頃卑怯者は血祭りだろうな
「あ、あの・・・」
職員室に向かう途中
俺に声をかけて来たのは智だった
「会長さんと架檀先生は、そんな関係なんですか?」
「俺と穂炉?あぁ師匠と弟子・・かな」
「火炎さんが弟子ですか?」
「いや俺師匠のほう」
二人は訳が分からないのか驚いているようだ
「へ?」
「あの、それはどういう・・・」
「五年位前・・・
俺が中学一年に入る前の冬休み、俺は日本中を旅していた
そしてある町の公園で小さな劇団が演劇をしているのを見かけたんだ
芝居の内容は泣ける物だった
冬のある時、貧乏な女の子が幸せを手にすると言うような物語だ
その主人公をしていたのが穂炉だった
俺はその芝居に見入っていた
翌朝、俺はその劇団の裏方に潜り込んだ
すぐ穂炉に見つかって少し困ってたんだがそれはとても朝早くで誰も起きていない時間だった
そこで穂炉は飯を炊いたりみんなの衣装を縫っていたりしていんだ
話を聞いてその劇団に少しの間裏方として入った
とても楽しくて穂炉の話し相手になったりしてた
そこで料理や衣装の縫い方を教えたのが俺ってわけだ。まさかここで再開するとは思わんかったがな」
俺はちらりと二人のほうを見たら・・・
「って何泣いてんだおい!」
「だ、だって・・・」
「とても・・感動的で・・・」
こいつらの感覚はこいつらにしか分からねぇ・・・
「ほらほら涙拭け。職員室に着いたぞ」
「失礼しまーす」
「ん?おぉ、龍じゃん」
「久しぶりだな、穂炉」
「久しぶり。あの時はサンキュー」
そういえばあん時以来話すのは初めてじゃん
そして穂炉は俺の後ろの二人を見た
「ん?その子達は?・・演劇部と家庭科部の部長さんたち?どうした?」
「質問多すぎ・・・こいつらは穂炉に顧問の志望してただろ?それで・・ほら、二人が言え」
俺は二人を前に出して背中を押した
「あ、はい・・私たち話し合ってそれで決めたんです」
「それで・・あの、顧問を掛け持ちにしてもらってよろしいでしょうか・・・?」
「部の掛け持ち?・・うーん・・・基本的に顧問がその場にいないとその時どっちかが部活出来なくなるけど・・・」
「それについては心配するな。俺は生徒会長だ。俺が許可すればOKだ」
もちろん許可は出すがな
「・・そ。じゃ、やってあげましょう」
「あ、ありがとうございます!」
息ぴったり・・・
こいつら仲が合いそうだな
「じゃ、早速だがこいつらの部室に・・・」
「わかってるわかってる。あんたの言う事は聞いたげるから」
「下僕になろうとするな。じゃあ旧館に」
「はいはい」
「部室に行く前に生徒会室でサインしてくれ」
「わかってるって」
「・・まだやってたのか、翼」
「ん?なんだ火炎か。帰ってきたのか」
「とりあえず火炎って呼ぶのやめてくれるか」
俺は炎じゃねぇんだ
「あぁ、わかった。じゃあ龍。そちらは架檀先生だな。顧問の承諾を得たのか?」
「う、うん」
「そう、よかったね、智」
俺はスキンシップしあう二人をよそに部活構成の用紙を出した
「じゃあ、これにそれぞれの部の名前と部長のサイン、そして顧問のサインをしてくれ」
「はい」
部長二人と穂炉は俺の渡した用紙にサインをした
「よし、じゃあ今から演劇部と家庭科部、二つの部が正式に始まりだ」
「ありがとうございました」
「礼はいいから、部員に報告、そして先生を部室に案内」
「は、はい!」
栗原は慌てて部屋を飛び出した
先生置いてくなよ・・・
そして智も・・・
「ってお前は行くな!」
「へ!?」
「家庭科部の部室は?」
「・・・ま、まだです・・・」
決まってないのか
「俺は生徒会として部の名前、部長の名前、部員の名前、行動内容、あと部室の場所を知る必要がある。最初の四つは分かってるからいいが部室を知らないと知らせとかが出来ん」
「どうしよう・・・お姉ちゃん・・・」
「ほら、姉に頼るな」
「いや、部活は部長と部員が一つになってこその部だ。こういう時部長を支えるのは部員の務め。だから頼るのは大いに結構」
むしろこれじゃあ頼らせてあげないと泣きそうだ・・・
「んー・・・」
「・・なかなか考え付かないものだな・・・」
「お料理が出来て・・お裁縫が出来る場所・・・」
「・・いや、普通に考え付くだろ・・・」
こいつらの知識は・・・
なんて無いんだ・・・
「どこだ?」
「思いつかないけど・・・」
高良はコクコクと頷いてる
こいつは無口だな・・・
「いや・・家庭科室って考えないのか?」
「・・・・おぉ!」
一声になんだよ
「思い付かなかった」
「そういえばそんな部屋あったわね」
存在すら忘れられてる・・・
不憫な部屋だ・・・
「でもどこにあるのか・・・」
「知らないのか・・?」
みんな同時に頷いてる・・・
本当に知らないのか・・?
「第一家庭科室は向こうの本館にある。旧館には第二家庭科室があるな」
「二つあるの?」
「あぁ。第一家庭科室は主に使われている部屋で家庭科の授業にはよく使われている。で、第二家庭科室は第一家庭科室が何らかの理由で使えなくなった時の予備施設だな」
第一家庭科室は購買のおばちゃんたちが先生用に弁当作るのにも使ってるな
第一、第二共に結構設備は整ってるから驚きだ
「じゃあそこにします」
「了解。じゃあそこに案内するよ。穂炉も付いて来いよ」
「わかってるって、何回言わせるの」
自分で言ってるだけじゃん
「ここが第二家庭科室だ。包丁やオタマなんかもあるし、流し台、コンロ、電子レンジ、オーブン、料理に使うものが何でも揃ってる。それにミシンもあるから裁縫も出来る」
「ここが私の顧問する家庭科部の部室になる訳か。最適だね」
「龍さん。何から何までありがとうございます」
「いやそこまでした覚えはないし・・・家庭科部だったら穂炉がいない時に俺も手伝いが出来るから。冷蔵庫だってあるわけだしここに食材でも入れておくよ」
「いろいろ、本当にありがとうございます」
「それじゃあ、俺は穂炉を演劇部の部室に案内するから。お前たちはもう帰れよ」
「はい!」
「あの子達結構抜けてるとこがあるね」
「そうだな。ちょっとな」
「・・龍さぁ、どうせどっちからか聞いてすぐに私に掛け持ちさせる気だったでしょ」
「お、わかったか?」
「やっぱり。演劇部が活動するのに必要不可欠な衣装を家庭科部に任せる事が出来るし徹夜になる時だって協力してもらえば・・・」
そこまで読まれてたか
さすがに演劇やってただけあるな
演劇部に必要な物を熟知してる
「それに穂炉なら頼まれてくれると思ったしさ。お前優しいから」
「そんな事・・師匠の方がずっと優しいでしょ」
「かもな」
と、そんなこんなであっと言う間に演劇部、部室に着いた
コンコン
「顧問が着たぞ」
「先生♪」
穂炉に向かって飛び込んできた卑怯者の顔面に蹴りを食らわせた
ついでに動けないように床に踏みつけた
「永冷動くな」
「い、いたいです・・・会長様・・・」
「キモイから、黙れ」
と言って手に手錠をかけ口にガムテを貼った
「架壇先生、顧問を受け持ってくれてありがとうございます。火炎さんもありがとうございます」
・・律儀な・・・
「・・ここは女子ばっかね・・・君のハーレム?」
と言ってもう一人の男子を指差す
そして女子が一人残らず顔を真っ赤にした
「そ、そいつは!?」
と女子の一人が永冷を指差した
こいつは確か・・・高二の里見夕羅か
強気な女子だ
「・・・こいつは動物でしょ?人間ですらないんじゃない?」
「うまい!座布団一枚!」
「いやいや・・それほどでも」
「でもとりあえず女子ばっかだけど男性役が足りなかったら女子は男装出来るからな」
「それもそうね」
穂炉はあごに指を当ててうんうんと頷いた
「先生、衣装はどうしましょう」
「衣装は家庭科部で用意するわ。大丈夫」
「照明は体育館に元々あるし、音楽なんかは音楽関係の部に頼めば大丈夫だからこの部で用意するのは台本や演劇で使う小道具だ。それを用意するための金は言ってくれれば生徒会で何とかする。必要無い物を頼んだときは・・・覚悟しときな」
「あ、ありがとう・・・」
礼を言って来たのはもう一人の男子だった
「あぁ。で、お前らみんなの名前を聞きたい。生徒会として部の名前、部長の名前、部員の名前、行動内容、あと部室の場所を知る必要がある」
「それさっきも言ってたわね」
「うっせ!とにかくあとは部員の名前を教えてほしい。っつー訳で一人ずつ名前と学年を教えてくれ」
男子は二人、高二の岱乃虎慈と同じく高二の永冷乍馬
女子は七人、高二の栗原百合、高二の里見夕羅、高一の北河鈴音、高一の三嶋紀美代、高三の野咲恭子、高三の寧々原仁美、高二の狼牙杜氏
「ん?・・狼牙杜氏・・・男子みたいな名前だな」
「私はこの名は気に入っている。だからとやかく言われる筋合いは無い」
「・・それ演技だな」
「あ、わかった?まだまだかな・・・」
他のやつが相当驚いてる時点で十分だと思うが・・・
「で、本名は?」
「長澤華」
「知ってたか?」
「ぜ、全然・・・」
今までずっと演技してたのか・・・
すげぇな・・・
「あ?長澤・・華・・・?・・同じクラスか」
「う、うん」
道理で見たことあると思った・・・
「お前は向いてるよ。演劇に」
「ありがとう」
第二十三話 終