第二十二話 家庭科部vs.演劇部
・・ここか・・・
一階の部屋か
二階分探しちまった・・・
疲れた・・・
「あぁ・・コンコン、入るぜぇ」
「えっと・・どちら様でしょうか・・?」
「まぁ、気にすんな。ここ、演劇部だろ?部長はいるか?」
気にすんなって無茶な話か・・・
「部長は私ですけど・・・」
「あぁ、あんたか。ちょっと話しがあるんだけどいいか?」
「話しなら僕が聞くよ」
・・・仲介役、か
確かにこの部長じゃ・・・
話しにならなそうだ・・・
「じゃあ、お前でいい。話がある。廊下に出てくれ」
「で?話しって何?」
「その前に自己紹介だ。俺は火炎龍よろしく」
「あんたがあの火炎か。僕は永冷乍馬。で?話しって?」
永冷乍馬・・・
こいつがそうか・・・
しかしめずらしい名の書き方だな
「話しってのは家庭科部のことでだ」
「あぁ、あのしつこい人たち?無駄無駄。俺たちは譲る気無いから」
「なぜだ?」
「知らないの。架檀先生の事」
架檀・・・
あぁ、穂炉の事か
架檀穂炉は鷹三沢高校の美術教師
とても綺麗で女子高生の憧れ
男子高生はほとんど瑠奈を好きになるか
穂炉を好きになるかと言うとこかな
他の女子を好きな奴もいるが
ちなみに二十歳である
「先生は中学の時からずっと演劇をしてきてるから僕らの演劇部で指導を出来るんだ。だから譲らないのさ。むしろそっちがあきらめれば簡単なんだ」
・・そういえば演劇してるって言ってたな・・・
すっと前に・・・
「穂炉だったら・・・」
「穂炉!?お前、あの先生とどんな関係だ!?」
こいつは穂炉派か
いい見本だな
「あいつは俺の親戚だ。母親の妹」
実は違うが・・・
こいつを納得させるにはこれが一番だろ
「そ、そうか・・・」
「で、話しを進めるが。穂炉は演劇をしていた事は聞いた事がある。そしてその時あいつは演劇仲間のために全員分の衣装を縫い、飯を作っていたんだ」
俺もたまに裏方を手伝ってたからな
飯を炊くのに
「むぅ・・・・」
「それは家庭科部も知っている。だから引かないんだ。話し合いをしてくれ」
「・・・・わかった。話し合いをしよう。どこにいるんだ」
「俺が案内する。じゃ、部長も一緒に」
と、俺は部長を呼ぼうとしたが
「何で部長を呼ぶ必要があるんだ」
と止められてしまった
「何でって部長がいないと話しにならないだろ」
最終決断は部長がしなけりゃならないからな
「僕がいりゃいいだろ」
「お前じゃ信用なら無い。遅刻の常習犯、授業は聞いてない、ケンカはする、嘘もつく。そんな奴に信用なんてあるか」
「・・なんで知ってるんだ・・・」
「部長!」
永冷がブツブツと言ってる間に部長を呼んだ
そしたらトテトテとこちらに小走りで寄ってきた
「何でしょう」
「家庭科部と話し合いをしてほしい。いいな?」
「・・・家庭科部?何の事ですか?」
しらねぇのか・・・
て事は・・・
俺は永冷の方を睨んだ
「・・・・・・」
「てめぇか。何やってんだコラ、おい」
「な、ナンコトカサッパリ・・・」
メキッ
一発永冷の腹を殴った
「だ、ダメですよ。ケンカは」
「とりあえず、あんた名前は?」
「く、栗原百合です」
・・こいつが・・・
「俺は火炎龍だ。ところで、家庭科部とあんたら演劇部が顧問をめぐって対立してる事は知ってるか?」
「い、いえ・・知らないです」
やっぱり・・・
永冷が・・・
「話しはいつも誰がしてる?」
「その永冷さんが」
やっぱりか
「ちょっと待っててくれ」
俺は一時部長を待たせて
メキッ
もう一度永冷の腹を殴った
「だ、ダメですって!」
「いいんだ。こいつはお前に話すべき事を話してなかったんだ」
「そ、そうなんですか?永冷さん!何で話してくれなかったんですか!」
部長は気絶してる永冷に怒っている
「で、だ。部長」
「栗原でいいですよ」
「じゃあ栗原。聞いてほしい事がある」
俺は栗原にわけを話した
「と言うわけだ。家庭科部と今から顧問について話し合いをしてほしい。いいか?」
「・・はい。分かりました」
家庭科部の待っている生徒会室に向かっている途中
永冷が話しかけてきた
「何だよ卑怯者」
「・・卑怯者と書いて“ながれ”って言うのやめてくれません?」
「ダメだ」
実際そうだしな
「で、何だ」
「何でそんなに家庭科部に肩入れするんだ?俺の事も知ってるみたいだし・・・」
「・・何だ知らないのか・・・」
「何をだよ」
・・そういえばこいつは生徒会長選の演説でもいなかったらしいな
俺はポスターとか貼ってないしな
「俺は生徒会長だ。そりゃ生徒を公平にみる」
「・・マジ?」
「おおマジ」
「・・・・・ニヒッ・・・」
何か考えてるな
「さっきは二回も殴られた。生徒会長がそんな事したら退学だろう。その事を使ってこいつをうまく丸め込めば僕はしばらく最高の学園生活を送れる。ケンカになれば護ってもらえば傷つかずに必ず勝てる・・大方そんなとこだろ」
こういう奴は単純思考で助かる
「な、何で僕の考えが分かる!?」
「言っておくがそんな事しても無駄だ。俺はこの学校の校長、そして理事長から暴力は解禁してある。俺は暴力してもお咎め無しなんだ」
「何でだよ!」
「これが俺の生徒会スタイルなんだ」
その頃瑠奈たちは・・・
「へぇー、あいつ生徒会長だったの」
「生徒会は一人だけだけどな」
「なんで?」
「選挙で副会長とか会計とか決まったんだけど龍が一人で全部こなしちゃうからみんなやめちゃったの」
「そ、そうなんだ・・・」
「ね、どうやって生徒会長になったの?ポスターとか活動してなかったんでしょ?」
「そりゃ・・・決め手はあいつの言葉だろうな」
「言葉・・?」
「最後の演説で・・・」
「この学校はよく他校の生徒がケンカを売りに来ていたと言う。だからもし俺が生徒会長になったら、この学校を護る!他校の生徒から殴り込みが来ても俺が返り討ちにしてやる!自宅謹慎になろうと停学になろうと、退学になろうとだ!!俺が高校生である限り!この学校を!生徒を!必ず護ってやる!!・・俺について来い!!」
「ってな。それで男も女も炎に惚れたんだ。尊敬って意味でな」
「それは確かに惚れるわね」
「それは女としてか?楓」
「どういう意味よ、坂野」
「尊敬か、好きになったか、だ」
「・・・そうねぇ・・後者のほうかしら」
「ほぅ・・・マジか」
「てか堂々と言うなよ」
「いいでしょ、いつかは知られるんだし」
「た、逞しい・・・」
「失礼するぜぇ・・・ってあれ?」
「あんた・・鷲巳だっけな、何でここにいるんだ?」
「そういえば約束してたよね、龍と。まだ来てないの?」
「あ、いや・・・」
「お前ら何してんだ?」
何でここにいる
部活はどうしたんだ
「いや、龍を待ってたんだがなかなか来ねぇから。こっちから来た」
「俺はまだ帰れねぇぞ。時間掛かる」
「待つ」
「あ、そ。好きにしな」
そう言って翼たちの方を向きなおした
「こいつらが演劇部の部長と部員だ。話し合いしな。部長同士で」
「えっと、演劇部、部長の栗原百合です」
「あれ?その男が部長じゃ・・・」
翼は縄で縛られてガムテで口を閉じられた永冷を指差して言った
「こいつは部長の振りをしてた卑怯者だ。お前らと話しをして、部長にもその事を言わなかった」
「なるほど・・・殺ってもいいか?生徒会長よ」
「どうぞ。でもその前に話し合いだ。そっちの部長は?」
「・・わ、わたしが家庭科部、部長の井上智です」
やっぱり翼は部長じゃなかったか
翼は仲介役かな
「じゃあ、とりあえず何で互いに譲らないか。それを話してくれ」
「・・わ、私は」
最初に話し出したのは栗原だった
「私は幼い頃から体が弱くて高校に入っても一年の時は入学式から夏休み終わりまでずっと寝ていました。それで今年も春休みから夏休み始めまでずっと寝てたんです」
高校には一年分しかいてないのか・・・
「生徒会の・・火炎さんのおかげで出席日数が少なくてもここにいられるようにしてもらってますが、自分でも何かやりたい事を見つけて学生生活送ってみたくて・・・それでずっと憧れてた演劇をする事にしたんです。だからどうしても譲れないんです」
・・・こいつがずっと休んでた奴か・・・
「龍はその事知ってたの?」
「あ、あぁ。ほとんど学校に来てない奴がいたのは知ってるけど、顔は知らないからこいつだとは・・・」
「・・そんな理由があったのか・・・」
「・・・・家庭科部には何か理由があるのか?」
「・・・・・特にありません!」
それ堂々と言うかな・・・
「でも・・・」
一応なんかあるのか?
「でも、私は家庭科部でいろんな事を知りたいんです。知れる事は少ないかも知れないけど・・・譲れない気持ちは私だって負けません!」
・・気持ち、か・・・
一体、智にはどんな思いがあって家庭科部を望んでいるのだろうか・・・
「・・それは困りました・・・・それならどちらも部が成立しません・・・」
「・・・・なぁ」
そこで口を開いたのは函崎だった
「そんなにどっちも譲らないなら・・先生に部の掛け持ちしてもらえば?」
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ。部の掛け持ちだったら両者とも部として認められるからな」
「でも・・そんな事して迷惑じゃ・・・」
「大丈夫だ。俺の言う事なら聞いてくれるはずだから・・・」
「それはどういう・・・」
「さ、穂炉のとこに行こう。部の顧問を頼みに。部長たちついて来い」
第二十二話 終