第十九章 煙霧勇華、瞬間記憶能力
「煙霧さん?」
「なに?」
「それは二年も前に破棄しましたよ?」
互いに承諾して
「あら、そうだったかしら・・?」
「何だ、もう違うんだ・・・」
「そうだよ、お袋」
「ん?」
二階へ上がる階段から声がした
そのもう一人の声の主は勇華だ
勇華は階段を下りながら話して来た
「おや、珍しい。客かい」
「勇華。久しいな」
「ドラゴンか、何の用?」
その名を人に呼ばれるのも久しい
「ん?なんだい?この子達は。ドラゴンの彼女か?」
二人は顔を赤くしている
「違ぇよ、阿呆。それより・・幻影を使うなボケ!」
「げ、幻影?」
「ばれたか。やっぱな。」
「てか、俺はお前の容姿を知ってるし、匂いが無かったからな」
勇華は二階に隠れていたようだ
「無駄って事か」
「その通り」
「???・・げ、幻影・・???」
おっと、こっちは混乱してきてる
「どうしてそんな事が可能なの・・???」
やべぇ・・・
目が回ってる・・・
「あらあら。お譲ちゃんたちは言葉のほうに混乱してるのかな?」
「そう、かもな」
そうしてやっと二人は正気に戻った
「・・・綺麗・・・」
「うん?あたしの事?」
「・・龍。この人?」
「そう。こいつが、姉貴分の勇華だ」
「自己紹介か。名前は知ってるみたいだけど、あたしは煙霧勇華。こいつの元許婚だ。よろしく」
こっちが本物の煙霧勇華
もちろん火炎一族の一人
能力は煙を操る
煙により霧を作ったりし、敵を惑わせる
自らの身体を煙に変える事も出来る
一時は俺らは許婚という存在だったが互いに破棄した
「ちなみに十九歳で酒飲み」
「そうなの?」
「ドラゴン、勝手に言うなよコラ!」
言う気あったのかよ・・・
「まぁ、いいか。でこっちは俺の友達、櫻井瑠奈」
「こんにちわ」
「それと従妹の桜ルル」
「どうも」
と、自己紹介終了
「よろしく。そんで?あたしに用ってのは何だ?」
「あぁ、実はな」
「また無くなったのか?」
「あぁ、悪ぃな」
さすがにわかるか
何度も来てるからな
「何がなくなったの?」
「ん?あぁ、そうか。二人には言ってなかったな。こいつは様々な調味料を扱う薬師だ」
「そうなんですか?」
「まぁな」
「しかも世界最年少で調理師免許を取ったんだよ」
「そうなの!?」
「自慢するほどじゃないさ」
と言いつつも鼻が高そうだ
「ちなみに俺はこいつから料理を教わった」
「あぁ、そんな事もあったな。あん時は・・・」
「それはいいから用意してくれ」
さっさとな!
「ん?あぁ、そうか。何がいるんだ?」
「ピーナッツ油、プーアルにトクダミ、真珠パウダー、ハーブに・・・・・・・」
「・・・・月見草、りんごの葉と樹脂、そして大麻にシルクパウダー」
「・・・・・・・・」
「どうした?二人とも」
目が点になってる
「い、今の何・・?」
「・・調味料に使う品々」
約20といったところか
「ふふん、大量だな。今持ってくる」
「覚えたんですか!?」
「まぁな」
「こいつ瞬間記憶能力の持ち主だからな」
「えぇ!?」
「だから今聞いたのも全部覚えた」
「す、すごい・・・」
確かにすごい
そんな能力持ってんのは世界でも数人・・・
実名はサヴァン症候群
絶対記憶能力、瞬間記憶能力といわれているこの能力
聞いた物や見た物を完璧に覚え記憶から消える事は無いと言われている
だがこれは情報を“覚える”というより情報の“破棄が出来ない”と言う方がいい
普通、人間の脳には記憶管理システムの中に不必要の情報を破棄するための機関がある
そしてそれにより必要の無い情報は破棄され、さらに情報を集める事が出来る
しかし瞬間記憶能力はそれが無い
それゆえ絶対記憶、瞬間記憶などと言われるようになった
人間の脳は250年分くらいの記憶を留めておく事が出来る
だから脳には決して悪いわけではない
が、すべての記憶を留めておく事は“いい記憶”だけでなく忘れたい“いやな記憶”もある
いじめや嫌がらせ、人の生死・・・
そんな“忘れたい記憶”も忘れる事が出来ない能力・・・
「・・・・・・りゅ・・・りゅう・・・・・龍!!」
「ん!あ、なんだ?」
「んもう!ずっと話しかけてたのに!」
話?
やべぇ、聞いてなかった
「悪ぃ。ちょっと考え事してた」
「考え事だなんてドラゴンらしくねぇな」
「俺だって成長してんだ。考え事くらいする」
そういや小さい時は何も考えずに突っ走ってたとこがあったな・・・
「で、何の話をしてたんだ?」
「んっと・・あ、そうそう」
忘れてたな・・・
「瞬間記憶能力って病気なの?」
「・・病気?」
「だってさ、そんな能力持ってる人なんてそういないじゃない?それで病気なのか奇跡的な力なのかどうなんだろうって想って」
・・・真実を言うべきなのか・・・・・・
それとも・・・
「・・どうなんだよ、ドラゴン」
「・・っていうか勇華は自分の能力を知らないのか!?」
「あ、あぁ・・うちはパソコンなんて持ってないし・・・調べようがないからな」
・・携帯はあるくせに・・・
自覚しとけよ・・・そこまで重要じゃないけど・・・
「・・・まぁ、簡単に言えば。瞬間記憶能力って言うのは別名、絶対記憶能力といって記憶した物すべてを記憶し続ける事が出来る能力だ。いい言い方をすればな」
「・・どういう事?」
「・・・・この能力は物事をすべて頭の中に留めておく事が出来る能力だ」
「へぇ、すごーい!」
「だがそれが必ずしも良いわけでは無い。記憶をすべて留めておく、つまり忘れる事が出来ないんだ。それはな、忘れたい事も忘れる事が出来ないんだ」
そう、忘れたい事も・・・
「そ、そうなんですか?」
「ん?んん・・・・そうかな・・・・」
「でもま、こいつの脳は普通のそれとは違うからな」
「どう言う事?」
「勇華は忘れる事は出来ないけど記憶を閉じ込めておく事が出来るんだ」
・・・・あ、そこ分かってないな
・・・あぁー・・・
こいつらに合わせると・・・
「簡単に言えば・・・部屋、か」
「部屋?」
「そ。例えば人の脳はタンスだって言うじゃん」
「・・聞いた事あるな」
大抵の人は知ってるんだが・・・
「それを部屋に拡大するんだ。例えばタンス、ドレッサー、本棚、机、テレビ、そしてゴミ箱だ。タンスは趣味や遊びについて記憶する場、ドレッサーは色を記憶する場、本棚は知識を記憶する場、机は物事を記録する場と記憶を扱う場、テレビは物事を見る場、そしてゴミ箱はいらなくなった記憶を処分する場。それで瞬間記憶能力者はその処分する場が無いんだ」
「へぇー」
「だが勇華の脳はゴミ箱の変わりに金庫があるんだ」
閉じ込めるったら金庫だろうな
・・・多分
「金庫?」
「そう。記憶を閉じ込める場だ。しかしこれは一つじゃない。複数作られるんだ。そしてそれぞれにあったジャンルで記憶を閉じ込め二度と開けないようにする。だがこれは完璧じゃない。その理由はキーワードがあるから」
「キーワード?」
「金庫ってのはある決められた数字や文字で認証して開けるだろ?それと同じようにそれぞれが違うキーワードで偶然開いてしまうと、それを思い出してしまう」
そしてそのキーワードは自分でも分からないからさらに厄介だ
何で開いてしまうか分からない
そして閉じ込めた記憶がいやなもんならなおさら最悪なんだ
「忘れたい事を忘れられる。これはかなり重要なんだ」
「へぇー・・・」
・・・納得したか勇華
「・・・・って早く物を持って来いよ!」
「あ、あぁ、悪い!取ってくる!」
「ったく」
第十九話 終