第09話 神とは何か?
「だ〜か〜ら、一緒に帰ろって」
「いや、そういうことじゃなくて理由は?」
「えーっと もうこんな時間だから女子1人で帰るのにはちょっと危険かな〜って思うし、相談したいこともあるし、だから一緒に帰ろうよ」
「危険って、お前 いつも今日よりも遅く帰ることもあるだろうが。駅前で歩いてるとこ見たことあるぞ?」
「なんで知ってるの、キモい!ストーカー!えっとあと、キモい!」
「キモいキモい言うなよ。さすがに傷つく。
それに相談も俺じゃなく雪奈川にすればいいだろう?」
「・・・・ 」
「何って? 聞こえなのだが」
「いいから、早く行くよっ!」
上村咲がプイッとそっぽを向いて歩き始める。
少々面倒だが、仕方がなく付いて行った。
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自転車置き場まで来る。
どうやら自転車を何処に停めたのかを忘れたらしく上村咲は自分の自転車を探している。
「んで? 何の用なの?」
「ちょっと待って、自転車何処に停めたか忘れちゃった・・・えへへ」
1つ1つの自転車を確認し、何台かに一回、鍵を刺して確認していた。
あれだ、こいつは近年稀に見る天然だ。
『私、天然なんだよね〜』とか言ってる青春バカのファッション天然ではなく、本当の天然だ。
珍しいけど、それはそれで色々マズイだろうな。
「あ!私って今日、電車で来たんだった!」
思い出したように上村咲が叫ぶ。
訂正、天然ではなくただの馬鹿だった。
「ソウカ、ソレハザンネンダ。ジャア、オレハモウカエルネ」
「なにその棒読み? キモッ!」
「じゃ、帰るわ」
そう言い自転車を軽く走らせ、上村咲を置いていこうとする。
「待って待って!置いてかないで〜!」
上村咲はぶりっ子のように手を前で左右させる『女の子走り』と呼ばれるような走り方で追いかけて来た。
なんだその走り方。舐めてんの?
けど、その走り方は是非 朱音にやらせてみたい。
なんか、自分でも思うくらい最近シスコン化してきた気がして 自分でも自分が怖くなってくるな。
「も〜、一緒に帰るって言ったのになんで置いていくの!?」
「そもそも一緒に帰るなんて一言も言った覚えはないけどな」
「いいじゃん!駅まででいいからさ。行こ!」
なんかここまで来ると計算女なのか 本当に天然なのか ただの馬鹿なのか分からなくなってくるな。
「で、相談ってなに? 悪いが友達関係と恋愛関係の相談については無理だからな」
「分かってるよ、ひびのんは友達が死ぬほど少なくて、彼女いない歴=年齢ってことくらい」
「それはそれで酷い言い方だな。間違ってはいないけど。 で、何? それが言いたいだけか?」
「違うよ! 実はね、私・・・部活にはいろうと思うんだ」
「あ、うん。そうか、頑張ってね」
「なんで会話を終わらせようとするの!? そこは『へぇー なんの部活?』って食いついて来るはずでしょう!?」
「悪いが俺に、そんなリア充テンプレを求めても無駄だ。それにどんな部活に入ろうと俺には関係ナッシング」
「・・・・・・・・・・・・・」
小さい声でうつむきながら何かを言った。
俺には全く聞こえなかったのだが、ここは適当に『いいと思うよ』と相槌を打っておいた。
それがちょっとマズかったことを知る由もない。
「本当?」
「あーうん。ホントホント、いいと思うよ」
「やったー! やっと私も部活に所属できるんだね!」
「そもそも、俺の許可なんて取らなくても入部届けを書いて顧問に出すだけだろ?
運動も結構できるし、そこそこ勉強も出来るようになったお前ならどの部活でも欲しがりそうな人材だろう」
「よかったー。私ね、ひびのんの前にユッカにも聞いたんだよ。そしたらね『私が決めることでは無いし、そこまで楽しい部活では無いわよ。やめておいた方が良いわ』って言われたんだ」
ん?ちょーっと待ってほしいな。
なんでそこでユッカこと雪奈川の話が出てくるんだ?
「私ね、ちょっとひびのんが羨ましかったんだ。
いつも本を読んでるか、寝てるか、寝たふりをしていて、昼休みになるとフラフラ〜って何処かに行って、よく先生に職員室に呼び出されてて、普通に問題児じゃん?」
「おい、待て。 俺ってそんな印象なの?」
「そうだよ。後は、ぼっちかな?
そんなぼっちなのにね 部室ではユッカとか桜井先生と結構楽しそうに言い合っててさ、まあ私から見たら ひびのんが圧倒的に言い負かされてたけどね」
「あれが楽しそうだなんて、お前ってマゾなの?マゾヒストなの?」
「違うよ! けど、やっぱり楽しそうだった。羨ましくもあったんだと思う。
それにさ、喫茶店でユッカとひびのんが一触即発な雰囲気になったときもさ、『こんなに自分の意見をはっきり言えるなんて凄い』って思ったんだ。
ミサとかのグループで話してるときとかさ、お互いに遠慮しあって、尊重しあって はっきりと自分の意見を言ってる人が少ないと思うんだ」
「そりゃそうだろうな。
所詮『自分の発言でこのグループ内に居られなくなるのは嫌だ』って思ってるだけの集まりだからな」
「そんなこと・・・・・あるかも。
だからさ、私も——」
自転車を引きながら歩いているとすぐ近くの線路を減速する電車が視界に入る。
「おい、あの電車って駅に止まるんじゃないのか?」
「えっ? あーっ! 乗り遅れちゃう!」
そう言うと先ほどと同じような走り方で駅へと走っていく。 少し走ったところで振り向きこちらを見た。
「ひびのん!相談に乗ってくれてありがとう! また明日会おうね!」
それだけを言うと、返答をする前に駅へと向かって走って行った。
「・・・あざといっての」
思わず声が漏れる。
天然なのか、計算女なのか 全く読めないな。
これからは勘違いをさせるような行動、言動を慎んでもらいたいものだ。
惚れそうになっちまう。
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「ただいま」
「おっかえりー お兄ちゃん!」
「えっと、取り敢えず服を着ろ」
ドアを半開きにして上半身だけをドアから出す我が妹は服を着ていなく、下着だけの状態だった。
「まぁまぁ、妹に発情しないでよ、ぼっちぃちゃん!」
「ちげぇよ。服を着るくらいは普通のことだ」
「そう固いことを言わないの! 取り敢えず中に入ってよ!」
そう促されリビングに入ると机の上には禍々しいオーラの漂う真っ黒なパスタと普通のピザが置かれていた。
「どーですか!? 妹にご飯を作ってもらえるなんて、これ以上に嬉しいことはないだろう!?」
「あ、うん。確かに嬉しい。その禍々しいオーラの漂うパスタっぽいものが無ければな」
「パスタっぽいものじゃないよ!パスタだよ!」
「んで、何味のパスタっぽいものなの? イカスミ味?」
「聞いて驚け!チョコレート味だ!」
あ、馬鹿だこいつ。 終わってるわ。
そして何故そんなに自信満々なドヤ顔してるんだ?
「ま、まぁ、うん。 ピザもあるし大丈夫だな」
「なんで食べない前提なの!?」
「食べて欲しいなら食べ物をつくれ」
「えーいいじゃんチョコレートパスタ。
美味しいよ? 」
「おい、今何か言ったよな? 結構重要なこと言わなかったか?」
すると全力で首を横にふる。
まるで水に浸かった後の犬や猫のようだ。
今度ネコミミ買ってこよ。
あ、そういう趣味じゃないからね。もちろんだけどシスコンでもないからね。
「全然!さあさあ、食べて感想を聞かせて!」
「ったく。 ん?これは・・・」
食べた瞬間に広がる、パスタを茹でるときに使われた塩の味、 そして後から追いかけてくるチョコレートのほんのりとした甘さ、そのさらに後から追いかけてくる苦味。
思っていた甘いチョコではなく、カカオ成分の多いチョコが使われているみたいで苦さが強めだ。
塩味と甘味と苦味が口の中で混ぜ合わせられて・・・
「すっげぇ不味い」
「酷いよ〜 お兄ちゃん!そこはお世辞でも『妹の作ったものならなんでも美味しいよ』くらいカッコつけても良いと思うよ!」
「お世辞にもこれを食べ物とは認められない。
そしてカッコのつかないカッコつけほど恥ずかしいものはないからな」
ソースは俺ね。
すると『多分美味しいもん』と言って朱音がこのパスタもどきを食べる。
「う・・・・・・・はい、お兄ちゃん! 妹の手料理だよ! あーんしてあげる!」
「遠慮しておく。てかどうしてそんな物をつくる気になったんだよ?」
「うーん、分かんない!」
今の俺の視界に『テヘッ☆』とテキストを斜めにして入れたら漫画のワンシーンに使っても問題ないくらい可愛いな。
「なに?マジマジと見つめちゃって、気持ち悪いよ」
「いや、可愛いなって思っただけだ」
「えへへ、ありがとう!」
なんだこいつ、あざと可愛い。
この可愛いさにもっと考えるという脳が備わって入れば雪奈川をこえる完璧美少女なのだが、『天は二物を与えず』というのは本当なのかもしれない。
まあ、雪奈川にも朱音にも二物以上のものを与えている気がするけどな。
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神は不公平だ。
全ての人間に平等? 隣人愛? そんなのはまやかしだ。嘘だ。偽りだ。
結局は誰かが得するように出来ていて、誰かが損をしているのだ。
天は二物を与えず?
違うな。天は二物どころか、三物、四物を平気で与えるくせに、人によっては一物も与えない。
だから俺は信用をしない。
「『そんな俺みたいな人間が沢山いると思われるからこの日本には八百万もの神がいる呼ばれるのだろう』か。 日比野、最低限の努力をしろっっ!」
桜井先生の会心の一撃が再び俺の腹へと打ち込まれる。 会心の一撃しか打たないなんてチートだろ。
そんな意味の分からないことを考えながら、その場にうずくまる。
ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェは正しかったのであろう。
俺に手を差し伸べる神は居ないのかもしれない。
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