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第07話 始まりが終わり、これから新しく始まる

評価、ブックマークされていて本当に嬉しいです!

これからもこの作品をよろしくお願いします!

 一週間をかけて行われるテストが全て終わり、弛緩した空気が流れる。

 ある者は絶望し、ある者は希望に満ち溢れ、ある者は部活に行き、ある者は帰りの準備を始める。

 まあ、帰ろうとしてるのは俺だけだが。


 しばらくぶりに早く帰る。

 最近は教室で残るか、部室へ向かっていて、毎日帰るのが遅かったから今日という日を噛み締めたい。


 教室を出て、階段を降り、職員室前を通り、下駄箱で靴を変える。 いつもならここで先生による羽交い締めが待っており、部室へと強制連行されるのだが、今日は誰にも邪魔される事なく下校することが出来たのだった。


 その日は雪奈川にも先生にも上村咲にも会う事はなかった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 1週間後、全てのテストが返却された。

 ここでも、絶望する者、歓喜に沸く者、喜びを分かち合う者 と人の層が分かれた。


「ひびのーん。見てみて! 数学62点だったよ!」


 上村咲はテストが返却されるたび、こちらに見せに来て喜んでいた。

 まぁ、赤点まみれだったのが全て平均点以上になったのだから当然だろう。


「あーうん。ガンバッタネー」


「なにその態度!? 酷いよ〜!

 あ、もしかして、ひびのんの点数越しちゃった?そうでしょ! 絶対そうだ!」


 なんか、この自由奔放な性格への苛立ちをどこかで感じたことがある気がするな。

 確か、妹とか、妹とか、妹とか、妹だな。


「ねね、何点なの? ねーねー」


「ほらよ! 92点だ!」


「ナニコレ!? 凄っっ! どうやってカンニングしたの?」


「なんでカンニングしたのを前提にするんだよ?

 正真正銘、俺の実力だ」


「あ、そうだ! 」


 完全に無視していくスタイルやめてくれよ、俺のメンタルを壊そうとしないでくれ。


「この前の勝負ってどうなったんだろうね?」


「・・・・・・・・さぁな」


「もしかして、雪奈川零下ユッカとまだ仲直り出来てないの?」


「・・・」


「もう! だからひびのんは『ぼっちぃちゃん』なんて呼ばれるんだよ!」


「おい、なんでそれを知っている? てかひびのんって——」


「いいから、ユッカと今週中に仲直りしないとダメだよ! 朱音ちゃんに言いつけるからね!」


「ちょっ、待っ」


 ったく、人の話を聞かないところは先生と雪奈川にそっくりだよ。てかなんで朱音のこと知ってるんだ?


 仲直りなんて、どうしろって言うんだよ?

 孤高のぼっちを極めし俺は仲直りなんて言葉知らない。そもそも仲違いする友達がいなかったからな。

 ってなんで自虐してるんだ?俺。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 午後になり、降り始めた雨は時間が経つにつれて強くなる。

 無防備でこの雨に飛び込む というのは携帯や教科書類、読書用の本を見捨てる行為に等しい。

 つまり、帰れないという事ですね。はい。


 朝、二度寝をしてしまったのが運の尽き。

 天気予報をロクに確認せずに学校へ来てしまった俺には雨合羽も傘もなにも無い。


 体育館で行う部活以外の部活や同好会の今日の部活はなくなったらしい。

 だから、帰ることの出来ない俺は誰もいなくなった教室で1人で本を読んでいるしかないのだ。というかそれしかやることが無い。


 ブーー ブーー ブーー


 携帯が派手にバイブレーションして、電話が来たことを知らせる。


「誰だ?この電話番号?」


 そこには見覚えのない電話番号が画面に映っていた。

 できれば朱音以外との電話でのコミュニケーションは取りたくないと思っているのだが、電話に仕方なく出る。

 別に、シスコンじゃないからな! ちょっとだけ他の人より妹を大事にしてるだけだからな!


『もしもし?』


『出るのが遅い!』


『誰ですか? アラサーの暴力教師ですか?』


『日比野…どうやら死に急ぎたいようだな』


『冗談です、勘弁してください。

 ところで何用ですか?』


『さっきの事についてはまた会った時にでもゆっくりとお話ししようか。

 あと、おめでとう。君と上村咲の勝ちだ』


『あ、そうっすか。じゃ、切りますよ』


『待て、部室に君の喜びそうな物を置いておいた。何、ただの報酬だ。

 明日にでも取りに行って是非()()してくれたまえ』


『ど、どういう事です——』

 プーー プーー プーー


「切りやがった」

 まあ雨も上がらないし、やる事も無いし 今から取りに行ってみるか。

 変なものだったら迷わず捨てよう。



 教室を出ると西校舎へと向かう。

 倉庫と化して不気味な西校舎が雨と雷の音の影響でその不気味さが倍増している。


 不気味な廊下を通り、部室の前まで来て 部室のドアをカラカラと開ける。


 するとそこには鋭く真っ直ぐな目で読書をする美少女、雪奈川 零下が居た。

 雪奈川はゆっくりとこちらの方を見ると少し驚いたようにしてからまた本へと視線を落とす。


 《気まずい》


 多分、雪奈川も同じ心境だろう、と思っていたがその空気を破って話しかけて来た。


「ノックも無しに入って来て、人が居るのに無言でシカトするなんてどんな神経をしているのかしら?」


「シカトをしてたのはお互い様だろ?」


「変わった挨拶ね。私は方言に慣れていないから標準語でお願いできるかしら?」


 何か少しでも変わったかと思ったのに嫌味に磨きがかかって・・・・心底ウゼェェ!!


「コンニチハ」


「あら、こんにちは。 それで何の用? 桜井先生が勝手に決めた勝負に負けた私を笑いに来たのかしら?」


「違えよ。先生が『報酬だ』とか言ってこの部室に何かを放置してるらしいから回収に来ただけだ」


「それにしてもこんな時間まで学校にいるなんてどうかしてるわね。それとも私に会いたくて舞い戻って来たの?気持ち悪い」


「違うから。俺のメンタルがそろそろ崩壊するから想像だけで気持ち悪がるのやめてくれ」


「冗談よ。負けた腹いせに暴言を振りまいただけよ」


「暴言を振りまいている自覚があって言ってるなんて酷いな。 しかも理由が俺も引くぐらいに最低だな」


()()は負けを潔く認めてあげるわ。けど今でもあなたのやり方が正しかったとは思っていない」


「そうかもな。俺にも正しいかどうかは正直分からん。それとなんだ、悪かったよ」


 そこまで言うと雪奈川が にこりと微笑む。

 しかし、それは俗に言う不敵な笑みと呼ばれるものだった。


「んー? よく聞こえないわ。もうちょこっと大きな声だ言ってくれるかしら?」


「だから・・・悪かったよ」


「誰がどう悪かったのかしらね?」


「もういいだろ・・・」


 その瞬間にからりとドアが開かれ、そこには普段見せない驚いた表情をしている桜井 楓が居たのだ。


「・・・・はぁ」


 先生はため息をつくと頭を掻き、髪を乱れさせたあと、手でそれを整える。

 後から整えるくらいなら乱れさせなければいいのに。


「全く、君たちは似た者同士だとは思ってはいたが、ここまですんなり仲直りするなんて思ってもいなかったぞ」


「先生? 私を日比野こんなのと似ているなんて失礼だと思いますよ、主に私に対して」


「そうか?かなり似ていると思うけどな」


「似てる似てない以前に人間的に全く異なると思うのだけれど。先生だとしても流石に怒りますよ?」


「ハッハッハー、そう言ってやるな——」


 これだ、この温度感だ。

 この学校やこの社会に俺の居場所はない。

 そんな風に中学の時から思っていた。

 けど違ったようだ。

 ここが、この学校のこの教室、雪奈川と先生が居てこの距離感で、嘘偽りのほとんどないこの空間、ココこそが俺の居場所だったのかもしれない。



「第一、ヒビヤくんみたいな目が死んでいて、歪んでいるどころか捻くれていて、明らかな私の劣化版みたいな人と私を同等扱いなんて名誉毀損もいいところよ」


「うーむ、確かに一理あるな。 日比野こんなやつと雪奈川を同等扱いは確かに酷かったな。謝ろう」



 前言撤回します。


 俺、こいつら嫌い。

 いや、ホント。真面目に。

 そのうちメンタルが砕け散る。


「まあ良い、付いて来たまえ。家まで送ろう」


「先生、まだ部活終了時刻ではないですよ?」


「君たちは。外の様子を見たまえ、それでもなお部活続けるのならば止めはしない」


 雪奈川と俺は窓へ近づき、カーテンを開ける。


「「あっ…」」

 外の様子に驚き、声が重なる。


 雨は上がっていた。

 その代わり、校庭や学校前の道路は少し冠水していて、自転車で帰ることは出来なさそうだ。

 もちろん、電車も止まっているだろう。


「さあ、ついてきたまえ。また降り出すみたいだから早くしろ」


 教室を出て行く先生に俺も雪奈川も無言で付いて行く。


 なんだか今日は心に刺さっていた棘が何本か抜けような、心にかかっていたモヤモヤとした霧が晴れたような、そんな一日となって締めくくれる気がする。


 そんなことを考えながら妹の待つ、家へと帰るのだった。

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