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第05話 テスト対策は万全に

「今日からテスト週間に入るから部活は原則無しだ。大会直前の部活動のみ活動を許可している。

 では、解散!」


「起立、礼、さようなら」

「「「さようなら」」」


 帰りのHRで期末テストについての話があった。

 つまり期末テスト週間に入ったのだ。


 この学校はテストの一週間前はテスト週間と言い、大会直前の部活動以外の部活は全て休みになる。

 先日、強制的に入部させられた文化活動部も例外ではない・・・・多分!


 サッカー部と野球部以外の部活は無いらしく、ほとんどの人がまだ教室にいる。

 そんな中に混じることなく教室を出た俺を仁王立ちで待ち構えていたのは桜井先生だった。


「さあ、部活の時間だ!」


「はい?」


「だから部活の時間だと言っているだろう」


 ヤバイ。強制連行される。

 確信があった訳ではないが、直感的にそう感じた。


「では、俺はテスト勉強かあるのでお先失礼しま……いたたたっ! いたっ いたいっ! ちょっ! ギブギブ!!」


 先生の横を通り過ぎようとした瞬間に腕を掴まれ、捻られ、引っ張られ、強制連行される。


 なんか今日の俺、冴えてるな。

 出来れば当たって欲しくない直感がよく当たる。


「君は本当に話を聞かないのだな。まったく」

 腕関節を完全にきめられて、完全に抜け出せなくなった状態であの毒舌女のいる教室へと連行されるのだ。


「先生、今日から部活動なしですよ? テスト週間ですよ?」


「中間テストの最下位から5人の成績底上げを文化活動部がやるって昨日言っただろう?」


「それは普通は教師がどうにかするものであって生徒に頼るべきではな…いたたたっ! ギブギブ!ギブアップ!」


「もちろん、文句はないよな?」


「ありま……いたたたたっ!痛いって!!」


「異論、反論、拒否、文句、口応えをするならば実力行使させてもらうが、もちろんしないよなぁ?」


 爽やかな笑顔でこちらを見る。


 7つの玉を揃えると願いを叶えてくれるドラゴンが出てくるアニメにある合体する技を、先生と雪奈川でやったらと思うとゾッとするな。

 まあ、そんなもの現実には存在しないが。


「ないです・・・」


「よろしい! では部室へ向かうぞ」


 この前は腕を後ろに組まされて連行されたから見ようによっては逮捕だが、今回は腕に巻きつかれて連行されているため、見ようによっては歳の差デートにも見えなくもない。

 実際は腕関節をきめられていてそんなムフフな状態ではないのだがな。


「というか先生、俺って必要ですかね?」


「どうした?急に」


「いや、雪奈川って特別進学クラスで学年1位の成績だろ? 俺、普通進学クラスだし、学年12位だし 認めたくはないがあいつの劣化版だ」


「だから良いんだ。雪奈川は優秀だが、その演算能力を他人にもあると思って話を進めてしまう。君はそれを止めて欲しい、というかもっと分かりやすく噛み砕いてやってくれ」


「はあ、そんな大役、俺に出来ますかね?」


「いや、出来る出来ないの前に、出来ないと最悪その生徒5人がこの学校から自主的に去るかもしれんぞ?」


 明らかにそれ、生徒を潰しにかかってるだろ。




「おーう、待たせたな。連れてきた…っておい」

 先生が扉をカラカラと開けるとそこには本を読む可憐な美少女と魂の抜けた人間が1人か居た。


「ノックをして入ってもらえるかしら?」


「いや、待て待て。こいつはどうなっているんだ?」


「勉強を教えていたらいつの間にか・・・ね」


 雪奈川がちょっと反省したように目をそらす。


「あとの4人はどうした?」


「帰りました」


「先生、どうやら手遅れのようですね。と言うわけでもう帰っていいですか?」


「言い訳なかろう。 この1人だけでもなんとかしてやってくれ」


 いや、もう完全に『返事がない。ただのしかばねのようだ』の状態だから。

 これ以上やると本当に自主退学するだろ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 雪奈川が女の屍に紅茶を飲ませると復活した。


「頭がパンパンだよぉ〜 死んじゃうよ〜」


「落ち着いて、上村咲うえむらさきさん。人間はこの程度では死なないように出来ているわ」


「おい、それは労いにもなってないぞ」


「あら、いつの間に。気がつかなかったわ」


「あ!えーっと ヒビヤ?だっけ?」


「お知り合い?」


「知らん。というか女子に友達どころか知り合いすらいない」


「酷っ!クラスメイトの名前と顔くらい覚えてくれても良いじゃん!」


「それお前な。俺はヒビヤなんて人は知らない。俺は日比野ヒビノだ」


「ヒビヤくん、上村咲さんが困っているわ。少し黙ってちょうだい」


「お前、わざとだろ?」


 雪奈川は少し微笑み、こちらを見る。


 正直、雪奈川の笑顔は反則だとと思う。

 いつも浮かべる嘲笑ちょうしょうとは違い、ただ普通に可愛いのだ。

 多分俺じゃなかったら絶対に惚れているだろう。


 そう言えばこの前、雪奈川に告白した指揮山先輩って1年の女子に彼女が居たのに、そちらを振って雪奈川に告白したらしい。


「とりあえず、分からないところを重点的に絞ってやれば良いんじゃないのか?」


「えへへ……それがね…」


「上村咲さんは何が分からないのかが分からないのよ。 誰かさんと同じね」


「その誰かさんってのが誰なのかは追求しないでおくよ。 で、今何やってるんだ?」


「てかさ〜、ヒビヤ・・・じゃなくて日比野って私にアドバイスできる成績なの?

 よく授業中寝てるし、ぼっちだし、キモいし」


「キモいって関係ねぇだろ。お前みたいな青春バカの数万倍頭良いわ」


「数万倍は言い過ぎよ。数百倍が関の山ね」


「それフォローになってないから!

 てか青春バカって言うなし! そんな言い方だと私がバカみたいじゃん! これを見てから言え!」


 上村咲は今の今まで雪奈川とやっていた勉強ノートをこちらに見せる。


「この調子でやっていけばヒビヤ…じゃなくて日比野の成績くらい余裕でしょ!」


「そもそも掛け算が間違っている人に負けるつもりはないけどな」


「う、うるさい! そんなに言うなら順位を教えて貰おうか! ミサは34位だからね」


「ミサってそもそも誰だよ? あと俺は12位だからな」


「あの、くだらない競い合いは良いから早く勉強をした方がいいと思うのだけれど」


 俺の順位を聞いて魂が再び抜けた上村咲うえむらさき 由香ゆかのことを全く気にせず、雪奈川は数学の解説を始める。

 鬼教官 雪奈川 零下、ここにあらわる。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 テスト週間5日目

 今日もいつもと同じ時間に4限の終わりを告げるチャイムが鳴る。



 今日も平和だ。

 俺は昼食のベストポジションである屋上で読書をしながらパンを食べる。

 風の音と本のページをめくる音しか聞こえないこの空間。 最高だ。


 そんなことを思いながら心の底からくつろいでいると屋上の扉がガチャンと音をたて開く。

 そこから出てきたのは 毒舌悪魔 雪奈川 零下だ。


「あっ」


「あっ」


 お互いの姿を認識しあってから数秒間の沈黙となったが、その沈黙のなか先に口を開いたのは雪奈川だった。


「こんな所でぼっち飯なんて、いい趣味をしているのね。 ヒビヤくん」


「うるせぇ、俺は中庭にいる奴らみたいに群れるのは好きじゃないだけだ。てかヒビヤって言うな」


「あら?私は『いい趣味だ』った褒めたつもりなのだけれど。 私もあんな風に群れで行動するのは苦手たわ。 そこだけはあなたに同意見よ」


 雪奈川は俺から少し距離をとったところで座り、弁当を食べ始め、続けて喋る。


「ところで、上村咲さんはどんな感じなの?」


「うーん。俺に出来る限りの事は尽くしたと思うけど数学が絶望的だな。

 確率の問題の周辺範囲はなんとか出来るようになったけど2次方程式が話にならん」


「そろそろお手上げかしら? 私が教えてあげても良いわよ?」


「最悪、明日と明後日を使って雪奈川に教えてさせるしか無さそうだな」


 完全にお手上げ状態だから雪奈川という最後の砦を頼るしかない旨を伝えると、雪奈川は目を丸くしながら驚いた様子でこちらを見る


「日比野くんが素直に私を頼るなんて珍しいわね。ちょっと気持ち悪いわ」


「なんでそうなるんだよ?」


 口を開くと絶対に誰かをディスる雪奈川に苛立ちと同時に何故か湧き出る信頼感に俺は少し混乱していた。

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