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第03話 雪奈川 零下は毒を吐く

 先生に腕を掴まれ、引っ張られながら半ば強引に連れてこられたのは西校舎の3階だ。


 西校舎の3、4階は殆ど使われていない。

 2階にある図書館に置ききれていない本や、行事に使う置物、後は古い椅子や机が置いてあるのだ。

 まあ、一言でいえば倉庫だ。

 ゆえに肝試しとかで使われる事があり、歩いていて気分はあまり良くない。


「着いたぞ」


 先生が立ち止まったのはなんの変哲もない教室だ。

 扉にお札が貼ってあるわけでもなく、窓に木や鉄板が打ち付けられて真っ暗なわけでもない。

 教室前にある黒いプレートには何も書いてない。


 俺が何をすればいいか とか なんだこの教室 と思ってキョロキョロしていると先生が扉を開けた。


 その教室は特殊な道具や内装がある訳でもなく、教室の後ろに机や椅子が積み上げられている事を除けばいたって普通の教室だ。

 机や椅子の事についても倉庫として使われているから普通のことだ。

 

 ——ある3つの事を除けばだが。


 1つ目 教室に電気ケトルが置いてある事

 2つ目 誰かの鞄が置いてある事

 3つ目 窓が開いている事


 倉庫として使われているこの教室に人がいたと思われる形跡があるだけで、普通の教室も怪しく感じるものだ。


「さあ、では説明しておこう。君にはその歪んだ精神を叩きなおすためにも部活に励んでもらおう!」


「嫌です。そもそも俺には集団で行う部活と言われるものには向いていない体質なんです」


「まあ、待て。話を聞け。この部活の部員は1人しかいない。だから心配する必要はないな?」


「いやそういう問題じゃ…」


「では私は失礼するよ。部活動に励みたまえ」


「いや、部活名と内容を知らないのに何をしろと?」


「じゃあ、君の捻くれた意見と歪んだ精神で当てれるものなら当ててみたまえ。当てることができたら部活には入らなくても良い。だが間違っていたらこの部へ入部してもらう」


 先生はニヤリとしながら楽しそうに、満足そうにこちらを見る。

 俺には当てることが出来ないだろう、と思って言っているのだろう、が俺は結構頭は良い方だ。

 中間テストでは学年12位の好成績、悪いが先生の目論みは潰させてもらう。



「文芸部ってところだろ?」


 先生はそれを聞くと驚いたような表情を見せる。

 図星のようだな。


「その心は? 当てずっぽうはダメだ。理由があってこそだからな」


「この倉庫となっている西校舎の3階に部室があるという事は新しい部室や同好会ではない。つまり最初の部活動オリエンテーションでやっていた部活、その中で部室が不明である部活は文芸部と茶道部。

 その中で特別な持ち物が不要であり、こんな倉庫となっている場所でも行える部活。つまり文芸部となる。どうだ?当たりだろう?」


「ハッハッハー」


「何がおかしい?」


「いや〜 すまない。 推測の仕方は素晴らしい。だけど この部はオリエンテーションに()()()()()()()。つまりその推測の方法では導き出せないのだ」



「そうね、推測の仕方だけは評価に値するわ。褒めてあげてもいい。

 けど部活動オリエンテーションに出ているのが全ての部活である、という考えを捨てれずに考え、間違った答えと推測を自慢げに披露するなんて傲慢で気持ち悪いわ」


 先生と違う声質で教室の入り口から冷ややかな視線と共に罵る声が聞こえた。


 思わず入り口の方を向くとそこには昼に屋上で誰かと待ち合わせをしていた美少女が居た。



「おお、やっと戻ってきたか。雪奈川ゆきながわ 零下れいか


「桜井先生、勝手に入って勝手に人を連れ込むのはやめていただけますか?」


「そう釣れないことを言うなよ。入部希望者を連れてきてやったのに」


「うおい、俺は入部するなんて言ってな…」


 そこまで言うと先生が凶暴な目つきでこちらを睨む。


「まあ、こんな奴だ。この歪んだ精神と捻くれた性格を持つ問題児と言っても過言ではない」


「過言だよ。むしろ言い過ぎだ」


「だからと言って、ここへ連れてくる理由にはならないでしょう? それに……こんなのと一緒の空間にいるのは不快だわ」


「こいつは私の手をわずらわせる奴だ。

 だから君にこいつを処遇を任せようと思う」


「おい・あの 、俺・私の話を…」


「では任せた。私はこれからやる事があるので職員室へ戻る」


 人の話を聞かない人だとは思っていたがここまで酷いとほぼ無視と同じだよな。


 ふと後ろを見ると冷たい視線を送っている雪奈川 零下が居た。


「なんだよ?」


「あなたは何をやらかしてここへ来たのかしら? 植村先生がわざわざ連れてくるなんて凄く珍しいことなのだけれど」


「何もしてねえよ。なんかよく分からんが連れてこられた」


「自分の何が悪いかを理解していないなんて頭が悪いのね。目つきだけでなく頭も悪いなんて、なんで生きてるの?」


 なんだこの毒舌女。口悪すぎだろ。


「何が悪いかを理解できない訳じゃない。今回ばかりは俺は悪くないから理解のしようがないだけだ」


「呆れるほど頭が悪いわね。植村先生が問題児認定するだけのことはある問題児ね」


「俺は中間テスト学年総合12位だ。特別進学クラスに負けず劣らずの頭の良さは持っている。普通進学クラスだけどな。

 それに顔についてもそこまで悪い訳ではなく、運動もまあまあ出来る。その点を踏まえて問題児という発言は撤回してもらいたい」


「学年総合12位程度で威張るなんてやっぱり傲慢ね。しかも特別進学クラスのような低能な人間の集まりと同じ能力しか持たない低能なのね」


 この学校には商業クラス、普通進学クラス、特別進学クラスの3つのコース分けがあり、入試の時にどのクラスを選ぶのかを選択するのだが、特別進学クラスは8割が女子のクラスであるため、俺は普通進学クラスを選んだのだ。


「お前は何位なんだよ? 人のことを言える順位なんだよな?」


「何位って 1位に決まっているでしょう?」


 雪奈川は目を丸くし、『え?知らなかったのこいつ。馬鹿なの?死ぬの?』と言わんばかりの顔でこちらを見る。


「それに、運動能力についても 私は中学の時は運動部の選手だったし、顔については自分でも分かるほどの美少女よ。 つまりあなたは私に劣る。分かるかしら?」


「人にあれだけ言っておいて驚くほどの傲慢だな。お前、友達いないだろ?」


「あなたに言えることかしら? 屋上で昼ごはんを()()で食べてたぼっちさん」


「そう言われるのには慣れているし、分かりきったことだ。お前みたいなリア充ビッチ野郎(おんな)には分からないだろうけど ぼっちは最強だぜ?」


「あと、友達の有無については友達が何処から何処までで知り合いが何処から何処までなのかを定義づけてから聞いてくれるかしら?」


「分かった分かった。

 お前もぼっちという事はよーく分かったよ」


「あなたと同類にしないでいただけるかしら?

 ものすごく不愉快よ」


「同類だよ。

 俺と同じのぼっちで傲慢で人付き合いが苦手な人間だ」


 こんな感じで言い合っていると教室のドアがカラカラと開いて桜井先生が入ってきた。


「おーっす、邪魔するぞ。

 話し合いは終わったか〜?」


「話し合いにもならないわね。

 こんな性格が歪んでいる人とは分かり合えないようだわ。処遇については『即刻退学』でいいかしら?」


「まずお前らに俺を退学させる権限はない。

 そして話し合いになっていない。一方的に俺の精神こころがズタズタにされているだけだ」


「そうか?私が聞くには2人とも同じようなものだったぞ?」


「桜井先生、盗み聞きなんて趣味が悪いですよ」


 雪奈川はニッコリと笑う。が、全く目が笑ってない。

 一言で感想を言うと「めっちゃ怖い」だ。


「まあ良いではないか。

 日比野。どうだ? 入る気になったか?」


「どう考えても入りたいと思えない。

 というかこの部活は部活として成り立っていないと思いますが?」


「何をいう? 学校で1、2位を争うくらいの美少女と同じ部活、しかも2人っきりだぞ?

 こんな好条件はないだろう?」


「大体、部活内容も部活名も伝えられてない部活に誰が選り好んで入るんだよ?」


「入りたくないのならば仕方がない。

 日比野、お前にはここでの部活動を命じる。異論反論は認めてやろう。勿論、舐めた事を言うならば…分かっているよな?」


「1、部活なんて俺に向いてない

 2、俺自身にやる気がない

 3、アラサー暴力教師の言う事を聞きたくな…」


「オラァァ!!」


先生の雄叫びと共に ドン と鈍い音がする。


 先生の会心の一撃が俺の腹に打ち込まれたのだ。

その瞬間先生の嬉しそうな表情と雪奈川の満足そうな表情が見えた。その一撃を耐えうる腹筋を持ち合わせていない俺は、 そっと目を閉じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【その後】

雪「先生、このゴミはどうすれば?」

楓「まあ、処分は任せる」

雪「分かりました。可燃ですか?不燃ですか?」

楓「不燃で良いんじゃないか?では職員室へ戻るからあとは頼んだ」


雪「確か、市指定のゴミ袋がこの辺にあったハズ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


楓「なんで日比野こいつゴミ袋に入っているんだ?」

やっとヒロインの登場!

悪魔みたいな性格だけどね。


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