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第02話 日比野 悠太は歪んでいる

 いつもの大きさで、いつもの音程でチャイムが4限の授業の終わりを告げる。

 ある者は誰かの席へ集まり、ある者は購買へと急ぎ、ある者は他のクラスへと行く。


 俺はいつも通り屋上へと行く。

 中学の時は開放されていなかった屋上は入学当初の生徒からしたら青春の象徴として輝いて見えたのだろう。いつも1年の人間でいっぱいだった。

 しかし、学校生活に慣れてくると屋上へ行くのが億劫おっくうになり、教室で集まったり 中庭で集まったりと屋上を使う者が居ないのだ。


 クラスでひときわ目立ち後ろで集まって騒いでいるスクールカースト上位者といえる深見ふくみ みさきを中心とする集団も例外ではない。



 __________________



 やはり屋上は気持ち良い。

 屋上に着くと毎回思う事だ。


 この学校 愛知県立 興瑠こうる高等学校は特殊な形をしている上、敷地面積が広い。

 コの字になっている常用校舎と少し離れたところに旧校舎がありコの字の真ん中部分は大きな桜の木があり、その周りに芝生やベンチがある。通称 中庭だ。


 この屋上からは中庭で集まって飯を食べ、小学生のように走り回るリア充どもの様子は見えるが声は届かない。


 つまり、この屋上はこの学校での唯一の静かな場所だ。

 誰にも邪魔されず、心地の良い静寂を楽しみながらコンビニで買ったパンを食べ、趣味である読書にいそしむ。

 これが俺の学校での唯一の楽しみと言っても過言ではない。



 ガチャン と音を立て、屋上の扉が開く。

 艶のある肩まで伸びた髪、スラっとしたスタイル、シュッとした顔立ち。

 そこから出てきたのは紛うことなき美少女が出てきたのだ。


 その姿を一目見ただけでスクールカースト上位者つまり、青春バカという事が分かる。

 この俺が美少女認定するくらいだ、人気のない訳がないだろう。

 簡単に言えば俺の学校での楽しみを奪いに来たと思える敵なのだが。


 屋上で待ち合わせをしているのか、その美少女は1人で屋上に来ていた。


 《誰かが来る前に退散しよう》

 そう思いその美少女の横を通り過ぎ、階段を降りて誰とも すれ違う事なく教室へ戻る


 __________________



 数学教師の長く、眠くなる話が終わった瞬間にタイミングを見計らったかのようにチャイムがなる。

 

 教科書類を鞄に入れて部活場所へと向かう人、数学教師に質問をする人、後ろで集まって駄弁る人 様々だが、俺はどれでもなく真っ直ぐ帰るのだ。


 教室を出て階段を降り、職員室前を通り過ぎ 下駄箱へと向か・・・


「向かうな。職員室に来いと言っただろうが」


 そう言い俺の腕を両手で握りしめているのは アラサー暴力教師の桜井 楓だった。


「ふん!」


「痛っっ。何するんすか!?」


 先生が頭にチョップをする。


「お前が脳内でかなり失礼なことを考えてそうだったからな。 っとそんなことどうでも良い。何故帰ろうとしているのだ?」


「どうでも良くないですし、もう授業は終わりましたよ?」


「だから職員室に来いと言っただろうが。昨日のプリントを()()()()()()()に仕上げて来ただろうな?」


「はいはい、これだろ? 渡すから手を離してくれ」


「いいや、お前も来い。ふざけた文章だったら分かっているよな?」


 先生は昨日と同じく顔の横で拳をつくる。

 そして無理やり俺を職員室へ引き込むのだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「高校生活とはなんであろうか?

(中略)

 よって俺の言いたことをまとめると青春とは虚構である。なので広辞苑や国語辞典から抹消されるべきである。そして最後に言いたいことは『リア充は盛大に爆ぜろ』か・・・」


「どうすか?合格ですか?」


「君は失敗から学ぶということをしないのか?」


「それは詭弁きべんとしか言いようのない言葉ですね。失敗を失敗として認めない奴らの言い訳に過ぎない」


「君には本当に呆れたよ。ここまでダメな奴は見たことがない」


「そうですか。では呆れたついでに諦めてくれると嬉しいですね」


「そういう訳にはいかん。日比野、部活は?」


「まあ、一応入ってますよ」


「どの部活かを聞いているんだ。どこだ?」


「・・・帰宅部です」


「そんな部は存在しない。 無所属か…」


 先生は少しニヤッと笑い嬉しそうに腕を組み、こちらを見て再度ニヤッと笑う。


腕を組むと先生の胸が際立ってエロさが増すな。


「な、なんすか?」


「いや〜、君が無所属で良かったよ。では行くぞ」


 そういうと先生は俺を残して職員室を出て行く。

 普通であればあの先生をついて行くのが普通なのだろう。

 しかし、先生は『行くぞ』と言っただけで『ついて来い』とは言っていない。

 つまり、ついて行く必要はない。

 帰るか。



 下駄箱で靴を履き替え・・・れなかった。

 何者かに羽交い締めにされる。背中には胸の感触を感じ、少し柑橘系の香水の匂いがする。

 普通の男であれば胸の感触を楽しむであろうが紳士である俺はそんな事はしない。

 というか痛みで死にそう。


「君という奴は。何故、人の話が聞けない?

ついて来いと言っただろうが!」


「い、ってな、いで、、す。は、なし、て」

 マジで気絶しそうになったところで羽交い締めが解かれる。

「何するんすか!? マジで死ぬって」


「今のは君が悪いだろう? 私が『ついて来い』と言ったのに無視して帰ろうとするからだ」


「そんな事言ってないっす」


「ん?そうだったか? まあいいだろう。今度こそついてきたまえ。逃げたら……分かるよな?」


 今度こそ この先生に殺されるだろう。

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