第01話 青春とは虚構である
青春とは虚構の塊であり、学生が感じる苦労や理不尽を打ち消す魔法の言葉である。
そして、その言葉に魅了され、虜となった者は降りかかる苦労や理不尽でさえ、全てがキラキラと輝いて見えるだろう。
スポーツに励み、恋愛をし、青春という虚構を信じて突き進む者は、誰にでも笑って手を差し伸べるだろう。たとえ、その人が望んでいなくとも。
つまり偽善である。
自分の信じる青春の糧とするべく人に手を差し伸べ、引きずり込むのだ。
そして、引きずり込めなかった人たちへこう言うのだ。
『もっと青春を謳歌しようよ』と。
「その宗教のような思想を持つ言葉は僕の知っている言葉とは異なり、必要性のない言葉として捉えているので『我輩の辞書には青春という二文字は存在しない』と言える。
つまり、この[入学から3ヶ月した生徒各位の青春度合い調査]なる紙は資源の無駄と言える。
か・・・・・ひとついいか?」
「な、なんですか?」
「教員を舐めているのか私を舐めているのか人生を舐めているのかハッキリしてもらっていいか?」
そう言い、握り拳をつくり不敵な笑みを浮かべる教師の名前は桜井 楓である。
「強いて言うなら全部ですね」
「………ふぅ。呆れて怒る気にもならん」
「珍しくおとなしいですね。いつもなら問答無用で空手チョップが降りかかるのに」
「いつもってまだ数回しかしていないだろう?
それにしてもなんだこの舐めた文章は?」
「いや、生徒各位の青春度合い調査 というもっと舐めたプリントを配ってる学校の教師が何を言っているのやら」
「舐めているのはお前だ。
他の生徒はこんな長ったらしい文章なんぞ書かずに『よく分かりません』の一言しか書いてないぞ?
なのにお前はよくもまあ。ここまで舐めたことを…」
「これが事実だし、俺は正直者なんでね。
じゃあ帰るわ」
「まて、日比野。これ、明日までに書きなおしてこい」
「それが俺の全ての言いたいことだから、それでいいじゃ…」
「なにか、文句とか、異論とか、文句とか、文句でもあるのか、日比野?」
楓が握り拳を顔の横でつくりこちらを怖い目つきで笑いながらプリントを手渡す。
こんなの脅迫じゃねぇか。
そう思ったが口には出さずにプリントを受け取った。
「よろしい。では明日の放課後にまた出しにこい」
「はいはい。分かったよ」
楓の脅迫に近い書き直しの宣告に若干キレながら職員室を出て、下駄箱まで行き下校する。
もう部活終了時刻なのだが、ほとんどの部活がまだ活動をしている。
現在時刻は午後6時25分、もうかなり暗くなって来ているが部活を終了しようとする者は居ないようだ。
そんな様子を横目で見ながら自転車に乗って学校の敷地から出る。
部活に入っていない俺は毎日、帰りのHRが終わると直ぐに帰っていたので暗くなってから帰る今日という日が新鮮に思えた。
そして帰着する。
両親は共働きで、一週間に一回顔を合わせるかどうか程度だ。最近では妹と二人暮らしかと勘違い出来るほどに親の姿を見て居ない。
「ただいま」
「おそかったね! なんで呼び出されたの?」
「呼び出された前提で話をするな。まあ間違っては居ないが」
「お兄ちゃんに彼女が出来るわけがないからデートはないでしょ?
んで、毎日早く帰ってくるから部活ではない。
それで、お兄ちゃんが意味もなくフラフラはしない。
そこから推測出来るのは、帰りたくても帰れない状況、つまり呼び出しをくらった、って考えだけど間違ってるかな?」
「腹がたつけど概ね合ってるよ」
「とりあえずお腹減った!何か作ってよ!」
「お前な・・・」
妹は結構、いやかなり可愛いとは思う。 けどラノベやアニメのような恋愛感情はいっさい生まれてこない。
まあ、ここまで自由奔放な妹を好きになる男の方が少し変わり者だ。
「ほらよ、早く食べろ」
「やっほー!いっただきまーす!」
妹(朱音)に晩御飯をやったあと、自分の部屋に行き、楓に返されたプリントを書き直し始める。
はぁ。何やってるんだろう、俺。
今日はプリントを書き直したあと、晩御飯を食べずに制服から部屋着に着替えて寝た。
もちろん、プリントはちょっとした嫌がらせに前にも増して多く書いておいた。
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