枯野4
日は傾き一日の名残は閃光となり西を向くもの全てを照らす。
前を歩く人の半身もその光から逃れられない。
大気に晒された銀色の髪は精巧な硝子細工のごとく光を反射し輝く様は美しかった。
「君とまた会うとは思わなかった」
川辺の道に二人の他に人影はない。
心細さがひたひたと迫り来るのは前に立つ人の存在感の曖昧さからだろうか。
手を伸ばせば届く程の距離にいるはずのその男の姿は幻じみている。
それともただこれは夕暮れがもたらした感傷的な心情に毒されているだけなのか。
ふいに振り返った彼の外套の裾が薄に触れ穂が鳴る。
「優秀な君ならば他にいくらでも道があっただろう?」
「ただ一つの道を外れなかった事が私の優秀さを示す、と思ってもらえませんか」
「なるほど」
再び前を向いた彼の横顔は笑っていたように見えた。
嘲りではないと森崎は感じた。
「君の旅はまだ続く」
「えっ?」
歩き始めた彼の後ろ姿を目で追う。
暗い東へ進む彼の輪郭は滲み迫る夕闇に囚われていく。
「僕の旅はあと数年で終える。三年程だろう」
乾いた唇は僅かに開くばかりで声を発しない。
森崎は言葉を探した。
川の縁まで続く薄が波立つ。
風が少しばかり強まってきている。
「僕の考えはあの頃と変わらない」
視線を感じて顔を上げると立ち止まり森崎を見つめる彼がいた。
その面差しは毎日のように顔をつき合わせていたあの頃から確かな年月の流れを感じさせた。
「だから僕は君に対して、今でも意地悪だと覚えていてくれ」
その両目は静かな光を湛える。
「立川さん」
歩き出した彼の後を森崎は追わなかった。
話す事はもう無いと悟った。
あの頃もよくこうして別れていた。
森崎は立ち止まったまま対岸を眺めた。
空は東から上がる藍色が西の浅紅を追い立てる。
無意識のうちに空に伸ばしかけた手を気付いて下ろす。
外套の前を掻き合わせて森崎は川から離れた。
状況だけ見ればまるで過去の恋人にでも再会したかのようだ。
そう思い立って苦笑いをこぼす。
立川との関係は恋人でもなく友人でもない、古い仕事仲間といったところか。
いつか同じ方角を目指せると信じていた時期もあった。
(純粋な願いだったのだけれど)
人の縁とは本当におかしなものだと思う。
まさかこの地で再会するとは互いに予想だにしなかった。
あらから幾度か言葉を交わす機会があったが、自身を「意地悪だ」と言った彼の言葉の意味を問えないまま「旅」は終わってしまった。
今季一番の寒さだという雪の降りしきる日に主を失った部屋を訪れると、たった一つ腕時計が残されていた。
添えられた置き手紙には息子へと渡してほしいと綴られていた。
あれから半年以上過ぎたが立川の願いは果たせずにいる。
立川の息子がいる都市は遠く加えてこの時勢では管理棟所属といえども簡単ではない。
(財団に託しても、確実に渡してもらえるか分からないし)
「もう少しお待ち下さい」
腕時計にそう呟いて森崎は書類の束へと取りかかった。
珍しくスイスイ書けました。
次もまた読んでもらえると嬉しいです。




