穴
「昨日も来ず、今日も未だに来ず。みなみん何してんのかなぁ」
しゃがみこんでスポーツドリンクのペットボトルを片手に、源二は言葉を吐いた。
「......」
返答はない。
現在は八月四日。集合場所は学校近くの自販機の前。
天気は連日日本晴れ。二人の肌をジリジリと焼くほどの陽光が照りつける、カラッとした快晴である。
にも関わらず、二日前から、正一の内面には重くのしかかる暗雲が立ち込めていた。
昨日、三波が来なかったとき、メールで何かあったのかと聞いたのに、返信がなかったということも、その暗雲を押し広げる要因になっていた。
と、また源二が口を開いた。
「もしかして、」
「......ん?」
妙なところで切る源二に、正一は目を向けた。
源二は正一に目を合わせて、言った。
「みなみんはもう、穴に入ってたりして」
「......」
正一は信じたくなかった。源二の発言が現実に起きているということを。
しかし否定する根拠もなかった。つまり、一つの可能性として、その現実が残ってしまった。
「探すか?」
「おう」
即答だった。源二も立ち上がり、「そんじゃやりますか」と屈伸した。
それから二人は、二手に分かれて捜索を行った。
源二は学校の西側。正一は東側を捜した。
自転車で出来る限り速く捜し回った。
昼に一度集まり、昼食を済ませた。
今度はお互いの手分けを交代して捜した。
図書館。学校。ボウリング場。ゲームセンター。古本市場。服屋。スーパー。映画館。書店。コンビニ。公園。
考えつく候補をほぼ全て回ってみたが、三波の姿はどこにも見当たらなかった。
そしてまた、夕方に自販機の前に集まる。
「そっちは?」
正一が聞くと、源二は首を横に振った。
「そっちはどう?」
答えは同じだった。
「そっか」
「......」
一度深く呼吸をしてから、源二は自転車のハンドルを切って、帰り道に自転車を向けた。
「もう暗くなるし、帰ろうぜ」
正一は立ったまま、動かない。
「なあ正一。明日また探そう、な?」
「......おう」
そうして正一は、源二の後ろをついていった。
日も暮れかかった夕暮れ時。二人はあのY字路に来た。
通りすぎる直前、正一はブレーキを掛けた。
「源二」
「ん?」
呼び掛けに反応して後ろを見た源二も、ブレーキを掛けた。
方向転換して寄ってくる。
正一が目を向けている方向。それは、もう一つの道。
三波がいつも帰っていた、三叉路の左側の道だった。
「お前、ここ調べたか?」
「いや。そういえば調べてなかったな」
正一の眉間にシワが寄ってくる。
「ちょっと、調べてみないか?」
「え? ......うーん、うん。調べてみるか」
二人はいつもとは違う、左側の道を進んでいった。
三叉路を左に進んでから数十秒。それはすぐに視界に現れた。
「なんだ、あれ」
源二は朧気に見えるそれを指差して言った。
「......もう少し寄ろう」
正一は、眉間のシワをいっそう深くした。
そしてまた数十秒。それと二人との間は、十メートルそこらまで近づいていた。
「これが......」
「......穴」
それは、道の真ん中に佇む、直径二メートルほどの黒い空間。
その向こうは見えない、深い深い黒が渦巻く空間。
噂に出てきた、穴であった。