転機
七月も終わり、今はもう八月二日。
夏休みに入っても、三人の穴探しは続いていた。
しかし、中には心境が変わってきている者もいた。
「なかなか見つかんないなあ~」
源二のボヤキが、セミの声にかき消される。
日も暮れかかる中、三人は穴探しを終えて、学校近くの自販機の前でジュース片手に一休みしていた。
「誰でも見つかるんなら、今以上に被害者が出てるでしょ。一週間そこらで見つかるとは思ってないわよ」
「まあそうなんだけど......はぁ」
三波の意欲は一週間前から変わっていない。一向に見つからない穴を、ひたすら探し続けている。
それに対して源二は穴探しに疲れ果てて、道路の隅にしゃがみ込んでいた。
一週間前に有り余っていた意欲は、今は見る影もないほど薄れていた。
「いいだしっぺがこれじゃあなあ」
正一は源二を見ながら呟いた。
源二もそれが誰に言われているのかは当然分かっていた。
疲れて探すほどのものでもないと思ったのか、もうやめようかと言いそうになっていた。
「なんでよ……」
正一は、おもむろに声のする方へ顔を向けた。
三波は、眉間に皺を寄せて、ひどい顔になっていた。
「おい、どうしたんだ三波」
尋常じゃない三波の顔に、正一は汗を流した。
心配になって、肩に手を伸ばした。
「どうしたじゃない」
三波は払った。正一が伸ばした手を。
「なんで、なんでここまでやって諦めようとするの?」
そしてまっすぐ、正一を見据えた。
「……あ?」
三波の強情さと今の行動で、正一は少し語気が強くなっていた。
「ここまで探して、あと一歩かもしれないのに……」
「それはお前の考えだろ。もう何歩進んでも届かないところにあるかも」
「それも正一の考えでしょ!」
三波は声を荒げて、正一に食って掛かるように言い捨てた。
「あと少し、あと少しで届くかもしれないのに諦めるなんて……」
三波の拳がどんどんきつく握られていく。
「そこで諦めるなんて、私は嫌だ!」
そう叫んで、三波はどこかへと走っていった。
正一も、すぐ後を追おうと走り出した。
しかし、
「待てよ正一」
源二が、呼び止めた。
「そっとしといた方が、いいんじゃないか」
「……なんでだよ」
正一は源二に向き直った。目つきが最高に悪い。
「どうせ今行っても、お前ら喧嘩別れになるの、見え見えじゃん」
源二の返答に、正一は言い返せなかった。
目つきがいつもの目に戻っていった。
「今はそっとしとこう。また明日も集まる約束あるんだからさ。明日会って、冷静に話せばわかりあえるさ」
源二に諭されて、正一も「そうだな」と頷いた。
「さ、もう夕暮れだし、そろそろ帰ろうぜ」
「ああ」
ジュースの空き缶をごみ箱に捨てて、二人は自転車を押して帰り始めた。
学校からの帰り道を、そのまま帰っていた二人。
正一は、途中のY字に分かれる三叉路で立ち止まった。
いつも三人はここで別れていた。源二と正一は右のほう、三波は左のほうに進んでいた。
「三波、ちゃんと家に帰ったよな……」
左の道を見つめながら、正一は呟いた。
「大丈夫だろうよ、みなみんはいい奴だから、親に心配かけるようなことしないさ」
「……そうだよな。あいつなら、ちゃんと家に帰るはずだ」
「いらねえ心配してないで、早く帰ろうぜ」
「……」
返事をせずに、正一はまた歩き出した。
その翌日、三波は集合場所に現れなかった。