白い空間 / 告白
「でも、いつからか、正一の様子がおかしかった。なぜか穴を探したがらないで、いっつもそこから目をそらして。
それで私、気付いたの。正一も、未練じゃなく、意思をもってこっちに来てるんだって」
正一の目が、潤んでくる。
「それから私は、本当にこれでいいのかって、悩むようになった。正一がどんな思いを、私が消えた後に感じるか考えないまま、何度もこの日常を繰り返していいのかって。だから、」
三波は一度顔を下げて、一息吐いてから、こちらに笑顔を向けてきた。
「もう、次で終わりだよ」
涙が正一の頬を滴り落ちる。
「終わりって……」
「もう、あの穴も、噂も、次で消える」
正一は歯を食いしばった。手を握り、どうしようもない気持ちを言葉に変えて吐き出した。
「じゃあお前はどうなるんだよ! あの穴はお前なんだろ! じゃああれが消えるってことは!」
言葉が、喉の奥でつっかえる。
「きえ……って、ことは……」
正一は膝から崩れて、四つん這いになった。悔しさが、口の端から漏れてくる。
「そう、私もいなくなっちゃう」
平然と、笑顔で、三波は答えた。涙が溢れるのを、もう止められない。
「そんなのだめだ!」
「だめじゃない」
正一の言葉を三波が上書きする。
「これが本当だったんだよ」
本当は自分は、ここにいるはずじゃなかった。私がいなくなれば、もうこんなことは起こらない。正一が涙を流すこともない。
「そんなの、そんなのは」
体勢を立て直して、三波に少しでも触れようと手をできる限り伸ばす。
握れば届く。指先に、三波の肌が触れようとした、そのとき、
「目が覚めれば、冷静に考えられるよ」
三波の体は、波に揺られた砂の城のように儚く崩れ去り、跡形もなくなった。
けれど、正一はその姿を探した。四方八方に目をやって、耳を澄まして、感覚全てを研ぎ澄まして。
そして、聞き取った。
「好きだったよ、正一」
……やっと聞こえた一言は、あまりにも悲しくて。
「自分勝手だ!」
正一は、大声で叫んでいた。




