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変えられるのか・二
そこに三波の姿はなかった。それどころか、道に隣接する家への勝手口や車庫の入り口も見当たらなかった。
しまった。
思うときには、既に遅い。前に通ったときに、ちゃんと確認していれば、こんなことには……。
「なぁ正一」
後ろから右へ、源二がからからと自転車の音をさせながら出てきた。言う言葉は決まっている。
「あれ」
「穴だ」
即答だった。食い気味だった。
それに源二は、目を見開いた。
「なら、三波は」
「たぶんあそこに入っていった」
「つまり、三波は」
「過去に戻った。過去に。たぶんあの日に」
源二は穴から正一の方に目を向けた。
「正一、なんでお前、そんなに知ってんだよ」
「そんなの決まってる」
自転車のペダルに足をかけて、
「戻ってきたからだ」
言い終わる前に回転させた。全力で。全身全霊で。全心で。
自転車ごと、正一は穴へと突進していった。
一人でも欠けちゃ駄目なんだ。二人とも無事でなきゃ。
穴の黒が少し白んで見えるほどの、どす黒い感情を腹に抱えて、正一はとぷんと、穴へ沈んでいった。




