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変えられるのか

 来るべくして時は来た。

 今日は八月二日。一度、三波が消えた日。

 今回は、消させやしない。正一は「よぅし!」と気合いを入れた。

「今日はなんだかやる気だね。須藤くん」

「え? いや、まあな」

 ふと脇を見ると、三波がすぐ近くまで寄ってきていた。反射で少し距離をとる。

「お二人さん、今日もはりきって探すぞ」

「おー!」「あぁ」

 今はまだ昼前。消えるのは夕方。帰るときだ。それまで一緒に行動して、帰りは策を練ってあるから、大丈夫。

 源二を先頭として走る自転車縦一列。三波の後ろ姿を見ながら、正一は汗をかいてペダルをこいだ。


「今日も見つかんなかったな~」

 へこたれて自販機の横に座り込む源二。少々言葉は違うが、正一にとっては聞き覚えのある言葉だった。

「まだまだ探し始めたばっかりだよ? 今日見つかんなくても、明日見つかるかもしれないよ」

「みなみんはポジティブだなぁ」

 二人とも、夕暮れの赤の中で笑いあっていた。

 ......もうすぐだ。

「それじゃあ、」

 来た。

「帰るか? もう遅いし」

 源二の提案に、俺も三波も賛成した。

 自転車にまたがって、通りなれた通学路を家へと遡っていった。


「そんじゃ、また明日な」

 Y字路に着いた。ここで、変えるんだ。

「なあ三波」

 自分の方の道を進もうとしていた三波を、正一が呼び止めた。三波は「ん? なに?」と、ブレーキをかけて振り向いた。

 心臓がバクバク鳴っている。

「今日は、俺たちの方の道で帰らないか?」

「え?」「はい?」

 返答は両側から聞こえてきた。

 左は三波の、そして右は、いわずもがな源二からのものだった。

「今日はいつもより何だか暗い気がするし、それに噂だと、最近不審者がここらに出るとかって聞いたからさ。三波も俺たちと帰ってた方がいいと思うんだよ」

 不審者の話は嘘ではなかった。不審者と呼べるかは別として、この辺りには訳の分からないことを言い散らすオヤジが出没することがあるのだ。しかも女子高生にはやたらと突っかかるらしい。

 これを口実に使わない手はなかった。

「うーん、気持ちは嬉しいんだけど、今日はちょっと」

「どうしてもダメなのか?」

「うん、こっちの道の側にある家に用事があるから」

「本当なのか?」

「え?」

「おい正一。お前どうした?」

「源二、ちょっと静かにしといてくれ」

 正一の言い方にムッときた源二だったが、正一の目が真面目なのを見て、手を出さなかった。

「須藤くん、今日どうしたの?」

「今日はこっちから帰ろう。な?」

「え? 何でこっちじゃダメなの?」

「それは......」

 言えない理由は、理由にならない。

 いつかの三波の言葉が、頭のなかに聞こえてくる。

「......やっぱいい」

「ほぇ?」

「その代わり、俺たちがそっちの道で帰る。それならいいだろう?」

 三波は戸惑い、前を一度向いて、また振り向いて、そして。

「だめ」

 拒絶した。

「その人の家で、話があるの。長くなるだろうから、二人は先に帰って」

「ならその人の家まで」

「だめ。番犬が吠えちゃうから」

「Y字路の分かれ目が見えなくなるまで」

「だめ」

「少しだけでも」

「須藤くん、これ以上言うと、嫌いになるよ?」

「......!」

 正一を止めるには、十分すぎる言葉だった。

 いつもなら、ここで引き下がる。嫌われるのは、嫌だから。

 それでも正一はやめなかった。

「......嫌いになられてもいい。」

「っ!」

 三波は目を見開いた。

「どうして、どうしてそんなこと......」

「それは......どうしてもだ」

 本当のことは言えなかった。

 お前が消えてしまうから。そう言うと、そこでもうこの世界が終わってしまいそうだったから。

「......」

「おい三波!」

 三波はいきなり自転車をこぎ始めた。全速力で道の先へ走っていった。正一もすぐに後を追った。源二もそれに追随する。


 そうして、二人は藍と紅に染まる空の下で、穴に出会った。

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