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ある暑い夏の日の三人は

 なぁ。正一。おーい。

 寝てるんだよ。きっと。

 それは分かってるよ。おーい。

「正一」

 目はカッと開いた。慌てて顔をあげると、源二の顔と当たる寸前だった。頬を撫でるのは涼しい風。クーラーの風だった。外からはセミのけたたましい声にも負けないくらい勇ましい野球部の声が聞こえる。

 黒板には、噂が耳に入る、あの日の日付が記されていた。

「何いつの間にか寝てんだよ。今面白い話してたのに」

 源二は口を尖らせてぶつくさとつついてくる。三波は「疲れてるんだよ」というように、源二をなだめていた。

「面白い、話?」

 もしかして。たぶん。そうだ。

「この近くに」

「過去に戻れる穴がある」

 源二はちょっと口をつぐんで、すぐに「なんだ、聞いてんじゃん」と満面の笑みを作った。

「それをさ、三人で探そうぜ」

「やめとこう」

 それはダメだ。やっちゃダメなんだ。

「なんでだよ」

「もし間違って穴に入ったら、大変だろ」

 源二の不機嫌度が、どんどん上がっていく。

 目に見えてわかる。源二は怒りが溜まってくると、人差し指と親指の爪を擦る癖がある。机の上に置かれた源二の左手が、それを示していた。

「探してみないとわかんないだろ」

「分かるんだよ」

「何で」

「何でって...」

 正一は、初めて言葉をつまらせた。

 ここでなんと言えばいい? 俺は未来から来たから、その結末を知っている? そんなの信じてもらえる訳がない。だとしたら、源二に言えることは、何があるんだろう。

 言葉が、見つからなかった。

「何も言えないじゃんか」

 源二は勢いづく。

「だからそれは」

「お前は何が言いたいんだよ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」

「......っ」

 言えたら、俺だって苦労しないさ。

 正一は手を握りしめた。

「二人とも一旦落ち着こう!?」

「!」「......!」

 三波が二人の間に割って入ってきた。源二は平常のテンションに戻り、正一も頭を整理した。

「須賀君、相手がはっきり言ってくれないからって、自分の意見だけ押し付けるのはよくないよ」

「いや、でも」

「よくないよ」

「......そうだな」

 源二は、お説教モードの三波には形無しだった。

「須藤君も」

「え、あ、はい」

 正一は驚いて変な返事をしてしまった。

 こっちにまで被害が来るとは思わなかったのだ。

「理由がないのに、ううん、話せないような理由があっても、それは相手に言わないと伝わらない。だから、理由があるなら、言いにくいとしてもちゃんと言った方がいい。言えないなら、それは理由にはならないよ」

「......うん」

 返す言葉もなかった。確かにそうだ。言えない理由しかないなら、それはもはや理由でも何でもない。

「さて、そうと決まれば、穴探し、やろうか」

「おう」

「......おう」

 結局、探すことになってしまった。

 でも、これで全てがおじゃんになる訳じゃない。あの日、八月二日に三波が消えないようにすれば、俺の役目は果たされる。

「正一、いくぞー」

「あ、おう!」

 正一は表情もなく、教室を出ていった。

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